泡峰 凛1
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ーーチリンチリンチリンチリン
と穏やかな鈴の音の目覚まし時計。布団にくるまり、まるでミノムシ状態の少女を起こそうと、懸命に鳴らし続けている。
「ふぅぁ。」
と欠伸をしながら身体を起こす、彼女の名は泡峰 凛。表情は豊かだが中身は割と冷淡な、普通の女子高生である。
ーー繰り返そう、私からしたら普通の、女の子である。
身体を起こしただけで鳴らしっぱなしのそれを止めようとも、床に足をつけようともしない彼女はぽけーっと壁を見つめている。そこには何もない。あるのは淡い藤色の壁だけ。
その状態で5分経過。ようやく彼女は動き始める。そこからはとても速い。目覚まし時計のスイッチを切り、カーテンと窓を勢いよく開ける。椅子にかけておいた制服やらに着替え、いそいそと部屋を出る。洗面所へ向かい、歯磨きと顔洗い、化粧、髪のセットを済ませる。ここまでで10分。巷ではどうかわからないが、今時の女子高生にしては十分に速いだろう。
そして、今度はゆったりとリビングに向かい、お湯を沸かす。沸騰するまでの間に、前の日に買ったクロワッサンをトースターで軽く焼く。湧いたお湯でインスタントのコーヒーを淹れ、熱々のクロワッサンを頬張りながらそれを飲む。
それが済むと彼女は小さめなパステルイエローのリュックを背負い、白いヘッドホンをして、家を出る。学校までは徒歩10分。その道のりを、ゆったりとのんびりと歩く。
これが、彼女の日常。変わるのは、食べる物や飲む物、会話の内容くらい。
だが、その日は彼女日常を揺るがす出来事の、始まりであった。