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三度目の失恋

作者: 久田 六花

 元々は別の設定で生まれたヒーローとヒロインなので、違和感がありましたら申し訳ありません。

 ずっと同じ人に恋をして、失恋してきた。

 

 青白い彼女の寝顔を見つめる。散らばる黒い髪は艶が無く、唇は少しかさついている。それでも、僅かに上下に動く胸と体温だけが彼女がまだ生きているのだと教えてくれる。

 点滴の針の刺さった腕は白くて細いせいか、自分が刺されていた時よりも痛々しく見える。


****


 彼女に出会ったのは、五歳の頃。その国では居ない、赤い髪という異国人の風貌のせいで、周囲から孤立していた俺の顔を覗き込んで彼女は笑顔で言った。


「夕焼けみたいで綺麗だね!」


 その笑顔に惚れた。我ながら単純だと思うがソレだけで当時随分と救われたのだ。

 それを切っ掛けに彼女と遊ぶようになった、徐々に彼女を介して友達も増えたが、俺の恋心はずっと彼女に向いていた。


「大人になったら、お父さんのお嫁さんになる!」


 そして、幼い女の子の多くが一度は言うだろう台詞を父親に向かっていったのを、聞いてしまった。

 ショックだった俺は、その日の夕飯が好物のハンバーグだったのにも関わらず食べれなかった。

 これが、一度目の失恋。




 二度目の恋をはっきり自覚したのは覚えていない。ただ、膨らんだ百合の花が綻ぶように成長していく彼女から目を離せなくなった。ふわりと笑うその笑い方が好きで、制服の隙間から見える項にドキリとする。

 その頃の自分は、髪の色や顔立ちについて言う人間はちらほら居たが、それでも人に好かれるようになっていた。


「そんなことも出来ないの?」


 無自覚な傲慢だった俺は、幼馴染だった彼女につい言ってしまった。俺は俗に言う天才で、「出来ない」や「分からない」が理解出来ない人間だった。

 小さい頃から一緒だった彼女も自分と同じ人間だと思い、彼女が自分と同じ進路に行けるように必死に勉強していたのも、苦手なスポーツの練習を傷やタコを作りながらずっと続けていたのを知らなかった。気づこうともしなかったのだ。

 彼女の頑張りを全てたった一言で俺は否定してしまった。

 彼女は黒い目を大きく見開いて、震える唇で言った。


「大っ嫌いッ!」


 涙を流しながら叫ばれた言葉は、今まで言われてきた悪口よりも親の説教よりも響いた。その時、初めて自分と他人の違いを認識した。

 それの後、彼女は俺の前から姿を消した。


 ストレートな拒絶の言葉は、俺の胸に突き刺さったままだった。それから、自分が人並みよりは出来る事を自覚した上で、努力するようになった。最も、大っ嫌いという言葉はトラウマになったらしく、誰かが口にするだけで背中に嫌な汗が滲み、胸がキリキリと痛んだ。




 三度目の恋は結婚式だった。

 気が付いたら、世界で結構な地位に居た。年齢もそれなりになっていて、政略結婚することになった。

 祭壇の前に来た花嫁のベールを持ち上げる。白いドレスと黒い髪のコントラストが美しかったのを覚えている。

 数年ぶりに再会した彼女は、強い意志を感じさせる目をしていた。


****


「貴方は、私が起きるといつも居るね」


 過去に意識を飛ばしていた俺の意識は、囁くような声で戻って来た。


「そうだっけ?」


「そう」


 曖昧に笑う彼女は、儚く感じられた。


「ねぇ、幸せだった?」


 今まで怖くて聞けなかった事を思わず聞いてしまう、そんな事を聞かれるとは思っていなかったらしい彼女は少し驚いた顔をする。


「うん、子供達を愛してるしね」


「そっか」


 暫く2人して沈黙する。こういう意図しない沈黙を天使が通ったと言うのだそうだ。


「私が貴方と別れた時の出来事覚えてる?」


「俺が君に『そんな事も出来ないの?』って言ったことだろ」


「うん、一生懸命頑張って来た私の全てと応援してくれた人たちも否定されたようで辛かった」


 初めて聞いたあの時の彼女の気持ちだった。


「人ってこんなに残酷な言葉が吐けるのかって思ったよ。今でも時々頭の中に響いてる、呪いみたいだね」


「ごめんなさい」


「貴方は変わったもの、昔の無知で残酷な貴方じゃない。でもね、どうしても貴方を好きにはなれなかった」


 黒い瞳が揺れる、それが黒真珠のように見えた。


「貴方に好意的な感情を持つ度に、全てを否定された幼い私が現れてね、胸が苦しくなる」


「うん」


「だからと言って、貴方を批判して私が被害者だと泣き続けるのも違うと思う」


 彼女は目を閉じて、ゆっくりと深呼吸する。


「ここからが、本題」


「はい」


「私の人生は貴方によって結構滅茶苦茶にされた。貴方のせいというより、貴方の影響が強すぎたせいなんでしょうけど」


「責められる覚悟なら出来てるよ」


「責めないよ。大っ嫌いって昔言ったね」

 

 びくりと肩を揺らした俺に彼女は可笑しそうに笑う。俺が好きな彼女の表情だ。


「あの時、私達はお互いを傷付けて呪ったんだね」


「そう、みたいだな」


「あの時と同じような事を言うには……情が移ってしまったみたい」


「うん」



 伸ばされた白くて細い両手が俺の頬を挟む。ほんの少しだけ冷たい。

 ふわりと俺が好きな笑顔を浮かべて、いつも子供達に対して愛を囁くあの優しい声で……。

 

「貴方の事”嫌いよ”」

 ヒロインが、ヒーローに傷付けられても許して愛してあげるというストーリーが多いので、ちょっと変えてみました。

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― 新着の感想 ―
[一言] いいですね。こういうの好きです。
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