1-4.貧乏は職を選べず
異世界に来て半日が過ぎ、夕方暮れになり遂に到着した異世界初の都市。
都市の名は≪アーイン≫、人口は約1万人。直径約5kmの王都に続く道への経由地点で、旅の疲れを癒す水商売や露店が多く立ち並ぶ。
≪アーイン≫に着いた俺とシエルには困った問題があった。
お金がない。一文無しである。
問題を解決するためにも情報収集することにした。幸いにも、言葉が通じ、シエルが文字を読んでくれるので完全に日が沈むまでにある程度の情報を集められた。
この世界の通貨はペイシと呼ばれる紙幣たミスリル金銀銅の硬貨で、通貨単位はペル。
銅貨→1ペル
銀貨→10ペル
金貨→100ペル
ペイシ→1,000ペル
ミスリル硬貨→100,000ペル
ペイシに使われる紙とインクは特別な物らしく、火で炙っても、水に濡れても、変化しないらしく。偽造はすぐにバレるらしい。
各都市にはギルドがあり、ギルドはクエストの斡旋、役所や銀行の機能を兼ねていていると聞き、訪ねることにした。
ギルドに入り、身分証の発行・更新と書かれた看板の下のカウンターに向かう。
「すみません。身分証の発行をお願いしたいのですが、何か必要な物はありますか?」
「紛失されたのですか?基本的にはございませんが、特殊な身分や階級・所属をお持ちの場合はバッチ、親書のご提示をお願いします。」
にこやかに答えくれるお姉さん。
(ーーこっちの世界は美人多いな。)
割とどうでもいい感想を抱いただけなのだが、隣にいるシエルの目が心なしかジト目だ。
「ただの平民でどこにも所属してません、何も持ってないです。」
「では、こちらに名前をご記入の上、血を少し垂らしてください。」
(ーー血?血が必要なのか、ここで尋ねると怪しまれそうだな)
「はい、分かりました。」
紙の名前欄にシュウ・ミカゲと書き、小さな針を親指に刺し血を垂らす。直後に浮かび上がる文字。
名前:シュウ・ミカゲ
種族:人族
性別:男
年齢:16
所属:なし
階級:なし
魔力ランク:SS
ペル:0
(魔力ランク……だと。やったぜSSだよ。基準知らんけど)
「魔力ランクについて、教えて頂けますか?」
「??…魔力量を示すランクでF,E,D,C,B,A,S,SS,SSSまでがあり、通常はFで魔導師に選ばれるC以上の魔力量を持つ人間なら魔導師に選ばれる可能性があります。六大魔導師でもSランクですね。Sランクを越えると最上位の精霊、悪魔、神のような規格外の存在になりますね。Sランクより上って身分証なんて必要ないのに何であるんでしょう?」
「……さぁ、なんででしょうね?」
(俺みたいなやつのためにあるんだよ。とは言えないな)
可愛く小首を傾げるお姉さんと冷や汗を流して誤魔化すように答える俺。
(魔力ランクはなるべく隠しておこう)
身分証の発行を終えて、金がないのでクエストでお金を稼ぐことにした。
クエストは実績に関わらず全てを受けることが出来るみたいだ。しかし、問題がある。
(ーー違約金の先払い、これが払えない)
「お兄ちゃん!お兄ちゃん!コレなら受けられるよ!」
笑顔で跳ねながらクエストが貼られたクエストボードを見ながら、手招きしてくる。
「声が大きい、静かにしろよ妹」
綺麗なよく通る声ではしゃぐので、周りの注目を少し浴びていた。シエルと呼ばずに妹と言ったのは下心のありそうな人間もいたので、名前を言いたくなかった。ムカつく。
シエルが見ていたクエストを見る。
クエスト:行方不明者の夫の捜索
依頼者:アナ
内容:周辺のモンスターを狩りに行った夫が帰ってきません。どうか探して連れ帰って来て下さい。
報酬:100,000ペル
違約金:なし
(ーーこれは、判断が難しいな)
「お兄ちゃん?受けないの?」
「あのな、妹よ」
顔を近づけ、これがどんなクエストなのか話す。モンスターを狩りに行った人物が帰れないぐらいの危険がある可能性とその危険がわからないこと、これは捜索ではなく救出であり、捜索対象が死んでいた場合にはクエスト達成にならない可能性があることを話す。
「でも、これしか受けれないよ」
「そうなんだよなー」
金がない俺達に選んでる余裕なんてない。
野宿しても構わないがなるべく避けたい。モンスターを狩って食べるにしても毒性とかの知識がないから避けるべきだ。
「しょうがない、これにしよう」
カウンターで受注の手続きをして、ギルドを出る。依頼者の住む都市の南にある森に向かう。ちなみに、ギルドは都市の真ん中にある。
クエスト内容から時間の勝負なので走り、依頼者の家に到着した。
「すみませーん、クエストを受けた者ですけどアナさんのお宅で間違いありませんか?」
バタッ!
勢いよく開かれる扉、泣き腫らした顔で立つ茶髪の女性。
「……っ。君たちが……本当に」
(多分、俺達が子供だからいろいろ言いたいことがあっても、それでも呑み込んでくれたのだろう、強いな)
「安心して下さい。信じがたいかもしれませんが、修羅神仏に近い力を持ってますよ」
ちょっとギルドでの会話が胸にささってたのか、皮肉が混じった。
「単刀直入に言います。旦那さんの特徴を簡潔にお願いします」
「その!娘も行方不明なんです!娘はたぶん夫を探しに行ってしまったのだと、思います。報酬も追加で払いますので引き受けてくださいませんか!」
泣き腫らした顔でにじり寄って来られるとなんかホラーだ。
「分かりましたから落ち着いて、2人の特徴を簡潔に」
「夫は33歳で身長が少し高く、赤い髪で、身体は引き締まっていて名前はガルファ、娘は9歳で同じく赤い髪で、クマのぬいぐるみを抱いていると思います、名前はアンといいます。」
「モンスター狩りはすぐ近くで?」
「はい、いつもシルバーウルフというモンスターを狩っています」
「了解です。すぐに出るぞ妹よ」
「うん!」
「お願いします、夫と娘をどうか救ってください!」
初めてにしては時間制限ありの難易度がほんの少し高いクエストに臨むのであった。