1-1.プロローグ
現実は嫌いだ。
普通に生きていると退屈なものだ。
人生の中で心から面白い出来事に遭遇できるなんて一度や二度あるかないかではないかと思う。
平和な時代、平和な国で変わらない日常で生きているとなんとも刺激がない。
平和を嫌っているわけではない。むしろ、平和な事はいい事だと思ってる。
現実が退屈だと思うのは自ら行動しない者の甘えだ。と言う人もいる。自ら刺激的な物を探し出す、作り出すべきだ。あぁ、確かにそうかもしれない。でも、それは価値観の問題である。
例えば、料理は食材や調理法により無限に近い組み合わせがある、それを刺激的で面白いと思うのははまたその人の価値感であり、それもいずれは日常へと変わるのだろう。それで、満足出来るのなら幸せなことだ。
俺が満足できると思えるようなのは魔法のような不思議な力や神や悪魔、モンスターや人間以外の知的種族がいる現実。それは、どう足掻いても手に入れる事の出来ない現実。
本は好きだ。
本来、人は一つの人生しか体験出来ない。しかし、本は文字を通して脳の中に他人の人生または虚構の人生を体験出来る。
俺が求める刺激の端くれでも体験させてくれる本。本を読む時だけが俺を現実から切り離してくれる。
俺はまるで中毒患者が薬を求めるように本を求めた。
◇
季節は少し肌寒い春、中学を卒業し、高校入学前の休みである。
雲が空を覆い隠し少し暗い。この季節の雨は降ったり止んだりを繰り返す。
本が好きな俺こと御影 集は今は図書館に来ている。
中学卒業後のこの時期、多くの同級生は進学し学校であう事がなくなり、遊ぶ機会が減ってまう前にカラオケなどで遊びまくろうとしているだろう。しかし、俺は一人で図書館に来ている。
別に誘われなかったわけでも、友達がいないわけでもない。同級生はだいたい友達と言えるだろう。
無口な方だが喋るのも下手ではない。一人でいることが多いが、話しかけにくい雰囲気なども出していない。
他人にあまり興味がないだけなのだが、他人の悪口を言わない、怒らない、一人でいて話しかけやすいなどの理由で相談などされることが多かったりもする。相談と言っても友達関係の愚痴を聞かされるだけなのだが、適当に一言、二言ぐらい助言はしてやる。
一人でいる、口数が少ない、本が好き、ここまでだと根暗な印象だけだが、自分で言うのもなんだが運動能力は高い。野球やサッカーなどの球技得意で、苦手なスポーツはほとんどない、おかげで根暗な印象はあまり持たれていない。根暗で頼りない人物に相談する人間は少ないであろう。
話しを元に戻そう。
なぜ図書館にいるのか、それはカラオケなどよりも本を読む方が好きだといういたってシンプルな理由である。本に取り憑かれていると言ってもいいだろう。
俺は図書館を散策している途中で誰もいない机の上に白い本が置かれているのを見つける。
なぜか一冊だけ置かれた本。
そのまま放置していても図書館の職員が元の場所に直してくれるだろう。でも、少し几帳面な性格のせいか、こういう置きっ放しが許せないのと同時に戻したくなる。
また、本棚に並べられた本よりも誰かが置きっ放しにした本が何の本か気になってしまう。
何も考えず軽い気持ちで本を手に取るとその本はいきなり光を放ち、その光は俺を呑み込んだ。
気づくと俺は森の中にいた。