オープニング→チュートリアル
ここからでは聞こえない。しかし、この開けた場所では隠れる所もないためにこれ以上は進めないのだ。どうしたものか……。気になる。先ほどまで仲のよかった二人の喧嘩、さらに先ほどまで俺にアイツ等はかなり濃密に関わっていた。これが自意識過剰であれば本当に幸せだ。俺が起点になりトラブルが発生したと思うだけで胃が痛い。
こんなところで地元の友人と少しやっていたサバイバルゲームの知識が役に立つとはな。しかし、鍛えて居た頃とはもう筋力的に違う。長い距離のほふく前進はできない。バレないことを祈る。自意識過剰で恥ずかしい野郎で済んでくれ……。
「朱里ちゃん。それ…どういう事?」
「言ったとおりだよ? 昼間にさ、城井にキスした」
「……」
「いつまでもうじうじしてて決まらないし……。そんなアンタに気づかされちゃった。城井ってさ。アイツ本人からアプローチかけてくるどころか、他の人を避けるところあるから…親しい奴と関わらないと近づけないもんね」
「朱里ちゃんは最初から?」
「最初はそのつもりは無かったなぁ。でも、途中からあんたがしっかりできないなら利用するつもりだった」
「…そんな、ヒドいよ」
「勝手に頼って…あげく乗っかって来たのは莉奈じゃん。アタシは何もしてないよ」
聞こえない…何を言ってるんだ? 現在、とても恥ずかしい体勢で少し奥の小さなツツジの木の後ろに隠れている状態である。後ろから見られるとなんと滑稽なのだろうという感じだが、バレないためにはこれが限界なのだ。ここまで近づいて聞こえない? 何を話しているんだ? これがヤラセだったら二人共ただじゃ置かないからな。
こちらからは来栖の顔しか見えない。何を話しているのかは本当によく解らない。聞こえないのだ。距離はひらいていないはずなのに……。そうか、潮の音だ。今は流れがきつくなる時間帯だから磯場が近いここでは波の音が立ち、水面が泡立つ程流れているから聞こえない。ここは離島と離島の間が多く潮の流れが速い時間帯と緩い時間帯がかなり顕著なようだ。岩に当たる音で聞き取りにくいのである。低い水が動く音と彼女らの声ではこの距離では波の音が大きいらしい。真横には断崖絶壁だから俺もヘタに動けないからな。
「でも、アンタも大胆なことするじゃん。彼氏でもないやつにマーキングしてんだもんね」
「そ、それは……」
「城井、ドン引きだったよ。フフ」
「え?」
「キスマークの事話したらドン引きしてたよってこと。アイツ、変に優しいからなぁ。あんたにきづかっ…」
「ヒドい!! 何で? 何でそんな事するの?!」
「甘いよ、莉奈。アタシ、一言もアンタに協力するなんて言ってないし、必要なら蹴落とす。アタシも…城井のこと好きだもん」
「……」
「あれ? どしたの? いいの? アタシが貰っちゃって」
「嫌…」
「何?」
「嫌!!」
つかみ合い?! 止めないと…おっと、ここで出るとややこしいことになる。止まってくれぇ……。頼む!! もう、願う以外できなかった。この場で出て行くのはあまりにも問題が大きかった。通りがかりにしては距離を詰めすぎている。出るならばもう、ガッツリキレながら止める他ない。しかし、声も何も聞こえないし何で言い争っているのかも解らない現状で飛び込むのは…どうしたらいい。どうしたらいいんだ!!
「ちょ、やめてよ!!」
「嫌!! 絶対に嫌!!」
その時、最悪の事態が起きた。明らかに非力で小柄な度会には勝ち目などない。身長差は15センチ程ある。二人の内で明らかに華奢で運動音痴の度会を来栖が跳ね除けたのだが…それがあらぬ方向へ向いてしまい。くそ!!
「度会!!」
「?!」
あの下には今は水没しているが岩が突き出したところがある。そんなところに落とすわけには行かない。座り込んでしまったらしい来栖の横を走り抜けて余力で度会の軽い体を突き飛ばして磯場への衝突を回避し、そのまま俺も海に飛び込んだ。こんなところで競泳をしていてよかったと思うことになるとは思わなかった。度会は放心状態で何がなんだかわかっていないし、来栖は来栖で完全に腰を抜かしている。だが…この潮の流れはまずい。速すぎる。まるで川だ。しかも、下流域の増水した川のようにうねっていて浜や元居た岩場からどんどん遠ざかる。俺も着衣水泳や救助の『訓練』や『練習』の経験はあれど実戦は一度もない。それに、度会は着替えていて服は水を吸いやすい。重さに耐え切れずに沈む前になんとかしなくては……。
ここは危険海域ではないからサメなどの捕食魚に狙われたりはしないだろう。しかし、流れで遠くに運ばれるのは危険だ。いくら群島地帯でもそれは危ない。連絡のつけようがない今、しかも、夜中の何時か解らない様な状況では……。現段階ではなるようにするしかないか。いつものように状況に身をおいて流れに身を任せて……必ず俺は二の次でも度会は助けねばならない。それに、そろそろ度会が正気に戻りパニックを起こすだろう。
「!!?」
「暴れるな!!」
「ここは?! 流されてるんですか?! なんとかしなくちゃ!!」
「落ち着くんだ!!」
両肩をキツく掴み目を見ながら叱りつけて彼女を落ち着かせる。俺と彼女が顔見知りでなければこの方法は通じない。普通、見知らぬ人間の救助となればパニックは増大し、救助者が要救助者に沈められて結果的に二人共が亡くなってしまうというケースさえある。それだけは避けなくてはならない。度会は俺を見て今度は泣き出した。こういう時に上手いこと言葉が出るなら俺は何も苦労することなく人間関係を築き上げられるのだろうな。……本当はこのように素人が飛び込むのは自殺行為だ。119番をコールしてレスキュー隊を呼ぶのが普通だが、俺も完全に冷静さを失っていた。さて、抱きしめたのいいがどうしたものか。流されるだけ流されてしまい。元居た島の形状も小さく見えてきた。これだけはなされてしまうと……。くっそ…流れがここで止まるのか。どんな流れをしてやがんだここは!!
しのごの行っていてもことは進まない。度会の手を強く握り、泳いで何とかするという考えをまとめた。来栖が正気に戻っていればいいのだが、これでは少しどころか元の島にたどり着けても明け方……それまでに俺の体力と度会の体力が持つか。夏とはいえ、夜の水温は低くなる。体温を維持しようとすればエネルギーを使うのだ。その分だけ体力も奪われるし、度会は薄着だが水泳経験は小中学校時の授業のみだというから着衣水泳などしたことは無いだろう。ハードルは上がるばかりで俺の脳内もマイナスイメージで包まれていく。しかし、この状況では俺の方が経験の面で上なのだ。なんとかしなくてはならない。それに、でかい事言ったくせして何もできないのはどうも癪に障る。
「大丈夫だよ」
「ん?」
「あ、えと、ゴメンネ。私がとろくさいせいでこんなことに」
「……」
「城井君って難しい顔するときはたいてい何か考えてるんだもん。私も…城井君を助けたいし…痛っ! な、何するのぉ?」
「この状況でそれだけ言えるなら上等だ。ありがとう。ここから泳いで行こうと思う。携帯は置きっパ?」
「うん、カバンの中」
「そうか…、なら、服をできるだけ脱いで泳いでいこう。こんな時間に漁船以外は動かねぇしな」
その漁船も動いているようには見えない。実は小型船舶の免許を持つ俺は識別信号や船の識別灯などである程度はわかるのだ。しかし、それが見えない。今日が満月であることも相まって光がわかりにくい。さて、どうしようか……。度会が完全防水の携帯をもっていたのなら光をかざせばもしかしたら…と思ったのだが。
俺の手を逆に強く握り返してきた度会を見返すと笑顔で微笑んできた。…ホンっと腹座ってんなこいつ。思わず笑顔が出てしまう。この状況なのにおかし話だ。だが、状況の悪化も進んでしまう。だんだんと度会の体温が奪われてきている。はやくしないとまた潮の速度が変わってしまう。今は運のいいことに満ちで凪いでいる。うねりもない。行くならいまだ。泳ぐのは俺ひとりならなんとかだが度会を引き連れてとなるとなかなか厳しい。
「ねぇ、城井君」
「ん?」
「このまま…」
「変なこと言うなよ?」
「言わないよ……。城井君だけで泳いで行けば助かるよね?」
「馬鹿なこと言うと怒るぞ? 何のために飛び込んだと思ってんだよ。今更だぞ? 死ぬんならこのまま『二人で一緒に』だ。それに無意味に飛び込んで助けられずに死んだなんてアホらしいしな」
こういう言葉が出るということは度会の体力がそろそろキツいということだ。それでも島には近づいた。今、海も時間がたって潮の流れも速度を上げ始めている。考えろ。潮の流れの速いところで俺は何を学んできたんだ。あの速い海で流されてじいちゃんに助けられて…何を教えてもらったんだ?
『潮の流れ』
そうか、わざと流されればいいんだ。島の陸に上がってしまえばあとは何とでもなる。釣り人も居るだろう。さて、そうとなれば。
「度会、少し泳ぐがお前は俺に合わせておけ、絶対に手を離すなよ? いいか?」
「う、うん」
…と、こんな感じでなんとか浜についたのはいいんだが……。陸に度会を上げた後の…その時の俺にはもう体力なんか微塵も残って居なかった。カッコつけた割に締まらない終わりだったが…俺も度会も死なずに事なきを得た。さらに時間が経過して体力が戻った俺は今、猛烈な勢いで二人を叱っていた。モゴモゴと言い訳する二人の口ぶりから事の発端が俺とわかり、尚且つ何も知らぬ間に二人で喧嘩、騒動、結末となっていたのだから。帰りは勝手に車を使って来栖が俺たちをキャンプ場まで運んだらしく、他のメンツにはバレていない。その行動自体には感謝したが、もうこんなことはあってもらっては困る。そこで二人にはかなりキツくお灸を据えることにしたのだ。
「お前ら……覚悟できてるか?」
「うぅ…」
「ご、ゴメン」
「勝手に喧嘩して勝手に何か起こされるのも面倒だし、今回は本当に命に関わりかけたからな。今回は初犯にこれだけキツく言うのもアレだが…二度と喧嘩すんなよ? したら両方共、一生口聞かねぇ」
「ひっ…」
「べ、別に」
「なんか文句でも? 殺人未遂さん?」
「ありません。すみませんでした」
「はぁ、わかればいい。幸い、この三人の内輪の問題にできそうだしな。誰も知らないらしい。で? お前らの昨日の口論は俺の何が原因なんだ?」
「はっ?!」
「えっと、城井君? 流石にそこは…」
「悪いな……俺はかなり意地悪いんでね」
『『絶対気づいてるよぉ……』』
と、キツく喝を入れて今日は餌もないし昼食を食ったら帰るから俺たち野郎組も海で水遊びだ。まぁ、昨日の夜にあれだけ水に浸かれば海水浴は当分いいかな? ホントの意味で海に還りそうになった上に塩で水分が抜けて半分脱水症状になりかけたし。今は…何なのこの状況。
度会は右側、来栖が左側で座っているのに何も言ってこない。気味が悪いしネタ要員の田島からは睨まれるし…面倒だ。実に…面倒だ。休憩をやめて俺もビーチバレー組に加わることにした……。あれはビーチバレーではないな。訳のわからないことに西瓜のペイントがされているビーチボールと空のペットボトルを使って…羽根つき? 蹴鞠? とにかく謎の行動である。思わずマインのタイムマインに上げしまう程の奇行で俺としては呆れる一方だ。
それにあそこに長く居たくない理由はもう一つある。度会に付き合うと宣言したが俺が原因でトラブルの起きた今、来栖の動きがそのように動いている。俺に強くアプローチをかけてくるようになったのだ。まぁ、二人が喧嘩をしている訳ではないしいいか。しかし、度会…あんな派手な水着を選んで……。来栖は来栖でチョイスがおかしい。何故に競泳用の水着でいらない者をリサイクルするように着て来たのか……。女のことはよくわからん。
「あーぁ、逃げられちゃったね」
「勝負は持ち越しだね」
「そだね」
「ねぇ、朱里ちゃん」
「何?」
「こんなこと、恋愛小説とか少女漫画だけだと思ってたんだけどさ。二人で一緒に付き合う…ってどう?」
「……。喧嘩して一生口聞いてもらえないよりもいいかもね」
「ほんと?」
「だって、あの時の城井、本気で怒ってたじゃん。怒らせたら……」
「だね…でもね」
「何よ、その顔」
「怒ってる時の城井君の顔、実は大好きなんだ」
「……」
「や、やめてよ!! そんな哀れむように人を見る様な目!!」
「『ドМが居る』……」
仲直りできてよかった。結局、あの遊びの内容はどのようにして生まれたのかも意味不明で誰が始めたのかもわからず砂浜でビーチボールをつかいキックベースしだしたし……。呆れてしまう。しかし、楽しそうな顔してやがるなぁ。あいつら。少し疲れた。精神的にも体力的にもかなり過度な負荷がかかったからな。それから気づけば俺はアパートで寝ていた。休憩のつもりでパラソルの下で横になったはずだ。しかし、起き上がると……そこは見慣れた俺のアパートの部屋。
起き上がろうとすると俺の頭上から細い声、キッチンの方向から明るい声が聞こえ、肩を抑えられて俺は再び暖かで心地よい体温の上に落ちた。温もり…というのだろうな。こういうのを。
「まだ、寝ててください」
「そうよぉ。女の子助けた後にそのまま疲れ果てたんだし。車でもよく寝てたくらいなんだからさ。『おかげで寝顔撮り放題だったけどっ♪』」
「それを言うなら度会も……」
「私は城井君に助けてもらったお礼がしたいだけですから」
「……お前ら。はぁ、好きにしていいが部屋をあらすなよ? ただでさえ汚いんだから」
「『え? これで? 十分キレイな……』」
「男の子の部屋なら散らかってるくらいがいいです『その方が片付けとかこつけて来れますしねっ♪』」
面倒だ……。実に……面倒だ。隠すものなんてないが。
かなり以外だったのは明らかに粗雑そうな来栖の方が料理が得意で、基本に忠実で真面目そうな度会の方が料理が苦手なのだとか。来栖は少し顔を膨らめたが、飯事態の感想に『美味い』の一言が入るだけで満面の笑みだ。それを見て悔しそうな度会は二回目の膝枕である。度会の太腿は体が小柄な分、幅が小さくて範囲が狭い。文句ではないが彼女の顔がけっこう近いのが俺としてはかなり気になる。
そして、寮生の二人に言葉を投げかけた。アイツ等は決まった日時に寮へ帰るようになってるはずだ。それが今日は明らかに止まった行く素振りであるし…。かなり呆れが強い。か彼女らが決めることだから何も言わないが後々面倒なのは自分達のはずだ。飯を食い終わると二人は俺にべたついてくる。暑い……まだ、夏だぞ? ここは確かに冷房は聞いているが28℃だから二人にくっつかれれば暑いに決まっている。
「お前ら…寮は大丈夫なのか?」
「私も朱里ちゃんも今年から独り暮らしなの」
「三年からか?」
「アタシも離島研究所志望だからさ。ちょうどいいし親とももう話してあるから一人暮らししようかなぁって」
「城井君が寝ている間にここの大家さんに聞いたらちょうど二部屋余ってるらしくて…」
「そういうこと、寮母さんも学科関連の早引きは良くあることだっていうからアタシらはその中でも早めに移ったの。ここに」
満面の笑みは正直俺のこれからを不安にさせることを約束させているようにしか見えなかった。だが、嬉しそうな二人は何かを話ている。俺は他のことでていっぱいで考えを回して居られる余裕がないがとにもかくにもこの二人が毎日ここに来るようなことだけは避けなければならない。隠す物…いかがわしい物などないもののクリエイター集会でのこととこいつらがバッティングするのだけは正直勘弁してほしい限りだからだ。それを見てか見ずか度会の方が首をかしげる。
そして、恐ろしい内容の二つ目がここで解禁された。
「どうかしたんですか? 城井君」
「あ、いや、なんでもない」
「隠してくれるのはいいけど。アタシもこれから毎日くるからね?」
「は?」
「朱里ちゃんとお話して決めたんです。城井君を怒らせて口を聞いてもらえなくならなら『二人で付き合おう』って」
「……」
諦めた。楽しそうな二人を見ている内に戦おうという気持ちが完全に萎えていたのだ。闘争心の欠落とともに意識も落ちて行く。こんなに脆弱だった記憶はないのだが……。度会の細いが心地よい太もものせいもあり俺は眠ったのだろう。確かにこの数日間で混沌とした俺の実情がさらにいろいろな面で露呈した。俺が単に弱い部分とそれを望まなくとも敷かれてしまうレール。さらにはそれに関わった人たちに俺が決断できない辺りにある根本的な原因。信じ切ることができない人間関係……。
堂々巡りは続く。俺が弱いことで巻き起こるこの螺旋の先になにが有るのだろうか。解決を望んでいる。しかし、実働的で革新的、かつ穏便な手法がないことなどとうにわかっている。それをなおも考えようとすることが俺が捨てなくてはいけない本当の現実なのかもしれない。俺にどうしろと言うのだろう。
「また寝ちゃったね」
「うん。いくら城井が…」
「朱里ちゃんも呼び方変えたら?」
「え?」
「私もこれから『悠染』君って呼びたいし」
この後に俺の夏休みは混沌などという言葉では許されない過酷な物になるとは思いもよらなかった。それが俺の優柔不断が元だとしても俺は周囲の人間、関わった人間が不幸になることを望まない。それがただ一つの望みなのに…それすら叶わない。浅い眠りの中で俺は不思議な夢を見た。自分が…所帯を持つなどということを考えたことはなかったのだ。それを延々と聞き覚えのある声が歌う子守歌を聞きながら俺も微睡んでいる。そんな柔らかで暖かな夢。今のそれぞれの思惑の交差する縛られた環境ではない。外の、開放的な世界。
「あ、パソコン鳴ってる」
「勝手につけたらまずいよ」
『おっきろーーーーーー!!』
「悠染君なら寝てますよ?」
『お? あんた誰? もしかしてこの前の子?』
「はい。その通りです。用件だけお伝えしますのでお名前とご用件をどうぞ」
『こりゃご丁寧に。んだけど、その必要はねぇよ。あんた、あいつの何なの?』
夏休み、明日の昼からのバイトが終わると同時に俺は一時帰省する。もとより親と話していたのだ母方の実家の手伝いを俺もするのだ。まぁ、それだけだと父方の祖父母もやきもちを焼くために俺はいろいろなところに顔を出す。意外と忙しい二週間を凄しに実家へ帰るのだ。
両親と住む町はそこまで都会ではないも周囲の施設はかなり条件もいい。そんな街へ帰るのは少しいやだったりする。その町事態が嫌いなのではなく俺はあそこに禍根がある。それだけだ。そして、混沌の夏休みは幕を開ける。人間だれにでもそういうことが有るのだろうけれど今、俺に来るのか。タイミングが悪すぎる。
「彼女です」
『ふーん』
「なんか、意味深な切りだしね」
『増えてんじゃん』
「はい。ちょっと有りまして。私を悠染君が助けてくれたんです。その時のことから私たちとしてはフラれたら話し憎いし二人とも…まとめて付き合ってもらおうと」
『そぅか。んじゃ、あいつのことあんまりよく知らないんだな。軽い気持ちではないんだろうがあいつにあんまり負担をかけんでくれよ。それと、その原因はあいつの実家に行けばわかる』
朝、目覚めると二人に抱き着かれ、身動きの取れない状態で目を覚ました。そのせいなのか体中がきしんでいるように感じる。そして、彼女たちを払いのけてバイトに行く準備をし二人をたたき起こし、引っ越しの準備をするとかでいろいろ有るのだろうがこのアパートに移る準備を始めたらしい。手続きなどは親権がまだ有るために自分たちですべてを行えない。まぁ、学校もそういうことを気にしているしな。
二人の送りだしを受けながら俺は駅へ向かい、二駅経由してバイト先へ赴く。そこは割とゴージャスなスポーツジムでいろいろな施設が連結されている。そこで俺は子供のスイミングを教えるコーチとして働いているのだ。さぁて、今日も子供たちにエネルギーを吸われるんだろうな。