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導入→キャラメイク

 午前9時30分ごろ……。

 早めに来たはずなのだがまさかの先に本人がいた。度会 莉奈……。あまりよく知らないが情報を上手くつかみきれないような空気、もしくは影のような女の子だと認識している。そこに居るとは知っていても気づけずに流れていき彼女とは昨日より前に会話した記憶はない。それほどに俺の中で希薄な存在だったのだ。意図的に周辺の人間との関わりをあまりこくしないからかもしれないけれど。

 名前は知ろうともよく知らない…友人の友人だとかその類いだ。海洋学部をさらに分割する上で次の区分となる『コース』では彼女とはほとんど関わりがないため、さらに関連がない。俺のコースは漁業を振興する目的であるため基本的に漁師や養殖業者、栽培業者に関する方向へ進む。しかし、彼女は学芸員や飼育員などの方向へ、もしくは水産資源に関する病理学をこれから選択するのかもしれない。


「『朱里ちゃん遅いなぁ……。もう、九時半だよぉ。城井君は早めに動いちゃうから……』」

「おはよう」

「ひぇ?!」

「そんなに驚くことか?」

「ご、ごめんなさい!」

「いやいや、別に謝らなくてもいいんだけどな。来栖は?」

「ま、まだ来てないよ」

「そんじゃぁ、アイツも来るんだな。まぁ、立って待つのもあれだろうから……」


 直後に特徴的な着信音がした。噂をすればなんとやら…と来栖から度会へとマインのコメントが来たらしい。なぜかは解らないがワナワナと全身が震えだした……。次は半べそ……。まさかとは思ったが…その直後に……。


「そ、そんにゃぁ……エッグ……グス…フゥァァァ!」


 泣き出した……。この場で泣かれた場合は周囲への影響として俺が泣かせたという見方になりかねない。それは避けるためにとにかく度会を泣き止ませる為、さらには俺に被害がでないようにハンカチを頭から被せてからイノン浜崎支店の内部へと足を進めた。

 一瞬で外気と違う冷房の効いた冷気に包まれた。度会の小さな手を握り引っ張りながらとりあえずフードコートへと連れていき座らせてから俺はヌクドナルドに向かい飲み物だけを買い、度会の元へと戻る。


「はぁ……」

「(ビクッ)……っグス……冷たい?」

「まぁ、落ち着け。で? 来栖はなんて?」

「え、えと……朱里ちゃんは城井君を呼んでくれるだけで元々来る気はなかったんだって……グスッ」

「そういうことか。度会はシャイでビビりだからなぁ。そりゃ泣きたくもなるわな」


 しまった……。

 少し言い過ぎたか? だが度会はキョトンとするだけだ。よく見たら度会は少し外出ように装備を整えて来ていたらしい。実習の多い俺達の大学、もっと狭めれば学部は女子学生にも化粧や薬品関連になるだろう物質を極力着けないようにさせている。持病やしっかりした医師からの申請書があればまた別だが……。そのために外出くらいしか化粧をしないだろうが今日はその気が見られた。服装もいつもの白衣とは違う。ファッションに興味の薄い俺ではなんと言うかすら知らないが……。

 さぁ、二階のフロアの奥へと歩いていく。後ろをチョコチョコついてくる度会はどのように見られているのかが気になるらしくキョロキョロする素振りが見受けられた。当初の目的通りに水着売り場へと到着した直後に俺の背後へ隠れるようにしている彼女は視線を俺に向けてくる。

 ああぁもぅ!! そんな目で俺を見ないでくれ!!


「さて、度会はどんなのが好みなんだ?」

「へ?」

「ここに来た目的は?」

「わ、私の水着を買うためです」

「そうだな、まぁ、言うと俺も水着を買うつもりでいたからちょうどいいんだけどな」


 今度は少し驚いているようにも見えるが一瞬の頬の紅潮を俺は見逃さなかった。この子は何を考えているんだ? 本当にわからない。少女漫画やらなんやらでも鈍い野郎は多い。そうでなくても人間は意思疎通ができるやつばかりとは限らないのだ。俺はその疎通が苦手な方と思っている。苦手だからこそ俺はあまり多くとはつるまないようにしている。それだけ俺の…自分自身への負担を増やす自殺行為にほかならない。それもあり俺も無理はしない。けれど、俺の一つ目のクエストはこの社交的ではない性格を変えなくては行けないところにある。これは本当に辛いことなのだ。俺だって好き好んでこういった性格をしている訳ではない。

 そんな時に地元の友人から電話が入った。桐生からである。心なしか嫌な予感しかしない。しかし、通話に応答する。無料通話、トークアプリである『マイン』は無料であるだけあり電波状況が悪かったり俺の携帯が虚弱であるが為に強制的に通話が切れる事もしばしば……それが嫌なことから俺は基本的に通常の通話をする。そして、やはりクリエイター関連の内容だった。これが、俺の二つ目の俺の悩みだ。


「もしもし」

『もしもし、もしかして外に出てる?』

「問題ない。要件は?」

『父さんから正式に君をシナリオ、試料選定と詳細設定班のメインプロデューサーとして起用するようにオファーが来たんだよ。シナリオの選定前に構想を寝る段階速度を含めて君は速度がピカイチだったからね。で……』

「前にも言ったつもりなんだが俺は正式採用は断る。今の"学生(いち)"だから最大限に俺は働けるんだ」

『そう伝えたんだけどね。今回は本気らしい。これまでのように僕たちのようなアマ集団がつくるオリジナルのゲームとは規模が違う。確かに君はゲーム内構成自体の組み上げやプログラミング、グラの作成には関与しきれないと言っているけど。今はシナリオや設定の面じゃ君以外は使えないんだよね。正直…僕らよりもいいもの持ってるよ。話だけでもしたから……そのうち招待状も来るよ』

「…また、顔を合わせて話そう」

『うん。ゴメンネ。忙しいのに』

「いいや、じゃ、またな」


 その通話を耳にした度会が疑問符を浮かべるような仕草をしながら俺に問う。どうやら就職関連と思ったらしい。だが違う。そのように伝えると彼女も安心したようににこやかに微笑みかけてきた。

 あんな表情もできるのか…。


「クスッ」

「へ?」

「度会も笑うんだね」

「あ! そ、そりゃ私も人ですし」

「もっと砕けていいと思うよ。気を張り詰めすぎても仕方ないしな」


 そして、水着の選定が始まった。本当のことを言うが…先程述べたように俺は服装に関してかなり疎い。疎いのに呼ばれたためにお飾り感が強くて来栖が来ないことは致命的だった。そうなると決まりきったシチュエーションとして店員さんに頼ることになり……また可愛らしい小柄な店員さんが来た。俺も小柄だから何も言えないが……とにかく選ばねば始まらない。

 そして、大問題がもう1つ。俺が度会を知らなさすぎる……。よって本人にかなり依存する形になるのだ。彼女の雰囲気に合わせるだけなら子供みたいな印象の彼女だからか控えめな性格を二の次にしてワンピース型のパッションカラーを推してフリフリや飾りの多いかわいい感じで行くか……。もしくは性格を取り、落ち着いていて地味ではあるが無難な方向性……。ワンピース型の紺や水色、青などを基調にした水着……。


「あの一緒にいた男の子は彼氏?」

「ち、違います!!」

「あら?? そうなの? てっきりそうかと思ってたのに。でも、彼、優しいみたいね。考えてくれてるみたいよ?」

「へ?」


 一瞬だけ視線が集中したのに気づきそちらを向くが真っ先に視線を真下に降下させたのが度会だ。店員さんは割と質の悪い『アラアラ。ウフフ…』タイプの人である。物事に動じない上に流されずこちらを手の内で転がすタイプだ。

 手招きされるがままに俺もそこに行く。そうでもなければこんな水着ショップの女性物のコーナーに入る野郎…しかも独り身はいないだろう。逆に言えばこんなできすぎたシチュエーションなんて未だかつて体験したことはなかったがな。女子との絡みが昔から苦手なのである。それはいいとして仕事の話題を脳内から見事にぶっ飛ばすような言葉が店員さんから飛び出し……パニックに陥った。


「彼氏くぅん!!」

「彼氏じゃないですよ……この際保護者で」

「じゃぁ、お兄さんお兄さん」

「はいはい何でしょう?」

「妹さんは何カップだと思う?」

「は?」


 度会はキツく取り押さえられているらしく逃げ場はないらしい。しかし、俺は本当の意味でそのカップとかいろいろな数値計測のバストの長さの意味など考えたことなどなかった。実際、キャラメイクもマウスなどでポイントするだけだし本来の意味や内容は知らなくても……。

 その旨を伝えると服の上からおもむろに度会の胸部へ手を伸ばし鷲掴みにしたようだ。見かねたので反対を向いて咳払いをしてから店員さんに一言言葉を向けて水着の話題に回帰させた。ホントに選ぶはめになるとはな……。先程考えていた内容を素直に告げると……。


「チッチッチッ…解ってないなぁ。(あお)いねぇ。無難だし恥ずかしくはないけど遊び心が足りないよぉ」

「ですね。求めてませんから」

「……(シュン)」

「アラアラ……」

「度会は落ち着いていて静かな子だと思うので、派手過ぎるのは気持ちの面でよくないでしょうし肌も白いので日焼けの面でも露出も少な目がいいかと……」

「ほほぉ、そんな事言って実は彼女の裸見られたくないだけじゃないのぉ?」


 度会は俺の服の裾を掴んで赤面してるし店員さんは俺を茶化すのが楽しいらしくなおも言葉で攻めてきた。しかし、別にリアルが彼女の思う様な関係ではないために無難な選択は押し通すことにし、あとは度会に任せた。店員さんは少し俺に離れるように話しかけてくる。ガールズトークですか? まぁ、楽なのでご自由にどうぞ…なのだが。


「で、度会ちゃんはどうなの?」

「え、えと…派手か無難かですか?」

「え? そこは張り切った水着でいかなくちゃぁ。そこじゃなくて、彼に振り向いて欲しいんでしょ?」

「……(コクッ)」

「それじゃ、恥ずかしいのも我慢だねぇ。お姉さん応援してるよぉ。頑張ってね」


 数分後にレジに並ぶ度会を視界に入れた。何やら紅潮した顔は少し綻んでいたが俺の目の前に立つと一瞬でオーバーヒートしたらしい。わかりやすく視線を落とし、暑そうにもじもじしているのが可愛らしいが……周りからは『妹』と兄貴くらいにしか見られていないのだろう。度会が恥ずかしがるのは外を俺と二人で歩いて居るからだろう。いつもは来栖という姉役がいるから隠れれるのだが今日は違うのだからな。

 昼飯はもう一度フードコートに向かいそこで食べる。俺の水着も適当に買えたし、ここからは彼女の動きを聞きながら少し相手をしてみる。せっかくこのような機会があるのだ。同じ学部なら交遊もあるだろうしな。


「度会はこのあとは何か予定とかしておきたいことや考えはあるか?」

「ひょっほ…まっへくらはい。(ゴクッ)ふはぁ……。水着以外は何とかなりそうですし『あれ? 私、普通に話せてる?』」

「どした?」

「え、えと。せっかくだから……釣りのことをもっと教えてくれないかな? 楽しかったら私も城井君達と行きたいなぁ…なんて」

「ふむ。わかった。度会は自転車か?」

「う…ううん。歩き」

「そか、それじゃ二人乗りだな」


 度会を後ろに乗せて走る。軽い……。段差で跳ね上がらないかが心配に成る程だが…俺も女の子に体重を聞くほどアホじゃない。親戚の従姉妹(ねえ)さん達にどれ程刷り込まれてきたことやら……。それはいいとして、度会は時間は大丈夫なのだろうか……。たしかうちの大学の女子寮はけっこう規律が厳しいはずだ。だからそこも気にしたのだがどうやら今回の旅行に参加する女子はみんな今日から紫神の家に荷物を持ち込み、お泊まり会らしい。寮母さんにも許可があるらしく今日は時間の制約がないのだとか。

 小さく会話をしながら少し離れた、俺の馴染みの釣具屋へと入る。個人の店のために大きくはないが親切だし実をいうとかなり商品は安い。度会は釣具事態が馴染みがないことから完全におのぼりさんのようになっている。


「うわぁ……。いろんな物があるんですね」

「見慣れないものばかりだろ? 見るだけなら自由だしいろいろ見たら?」

「城井君は?」

「重りと割り菱を買うけど……」

「わり…びし?」

「そうだね。度会は知らないからな」


 それから長い間を度会と過ごし、自転車で藍緋のマンションに連れていこうとしたのだが……来栖からマインにて半ば強制的に度会を押し付けられた。どうやら来栖は勘違いなのか度会がそうなのかわからないが俺と彼女をくっつけたいらしい。……まぁ、嫌いじゃないがまだ彼女を知らなさすぎるためにどうにもそれには拒否反応が出てしまう。しかし、この場合は来栖にだけではなく周りの女子からも迫害を受けそうな気がするために今日は仕方なく度会を家へ泊めることにした。

 度会は戸惑いきった困惑の表情だ。どうやらむこうにも同様の内容…もしくはさらに過激なコメントが来ているに違いない。藍緋宅で荷物を受取り小さなものは自転車の籠に入れて動かす。一日分の荷物なのか? まぁ、いいけど……。


「お、お邪魔します」

「何もないし散らかってるけどゆっくりして」

「あの……」

「荷物は俺が運ぶから先に入って」

「は、はい」


 こうも小さくて他人行儀が過ぎると後輩か何かと錯覚してしまう。それに可愛らしいが…無防備にも程がある。そして、何も声が聞こえていないと思ったら彼女は俺の部屋の水槽を見つめていた。……こちらの友人に教えてもらいアクアリウムを設営する技能を得たのだ。技能といってもただ水槽の管理をするだけだがな。水草やその他の小型魚を飼育しているのだ。デザイン水槽というのはなかなか難しい。

 彼女はこう言うものが好きらしい。そこで俺もライトを触り、配色などを微妙に錯覚させるそれらを見せてあげた。目を輝かせる彼女は振り向きいつもより明るい声で感想を飛ばしてきた。そこまで上手い訳でもないのながね。プロでもないしこの類の芸術系趣向の強い娯楽には費用もかかる俺もバイトしてギリギリの生活だからだ。


「城井君凄い! 水槽もやってるんだね。すごく綺麗……」

「それくらいならちょっとかじれば器用な人には簡単にできるさ。度会はやらないのか?」

「う、うん。私はあんまり器用じゃないから」


 少し苦い表情をするが俺が頭を撫でてから台所に立つとこちらに気づいてついてくる。どういうことだろう。興味があるのか? 俺の横に立つだけで何かをしたいという訳ではない様子だ。冷蔵庫から鳥の胸肉を取り出して小さなペティナイフで皮を削ぐ。削いだ皮ももちろん使うが今は使わない。胸肉を一口ぐらいの大きさに切り分け、少し辛めの味付けをしたあとに赤みが完全に引き、内部まで日が通ったことを確認してから取り上げてさらに移す。そこにたいてある飯をフライパンに乗せて鶏肉の脂と共に炒め軽く肉と同じ味付けにし、レタス…もしくは千切りキャベツを乗せた上に先ほどの肉を乗せて完成。

 度会の方にはデザートをつけて俺は軽くチューハイを出しておく。どうせ彼女のことだ、俺の方に何かないと気にするだろうしな。先手を打てばいいだろう。少々その辺りを気にしていたらしいけれど夕食を口にした瞬間に頬に明るみが出てパクつき始める。不味くはなかったようだ。一安心だ。自分で食べだしたところで女の子に食事を提供するのは初めてだと気づいた。なかなかできない体験をしていたようだ。


「ふふ」

「ん?」

「な、何でもないですよ?」

「いや、美味しそうに食べてくれてるし俺はそれでいいよ」

「……えっと、城井君もお酒好きなの?」

「『も』ってことは度会は好きなのか?」

「ち、違うよ。朱里ちゃんとか他の女の子はみんな好きみたいなんだけど。私は弱くて……」

「はは、なら同じだよ。大好きってほどじゃないし、たまに飲んでるくらいだよ。よく一緒に飲み会する西寺井とか本寺なんか、特に本寺は強いぞ」


 そういえばこの子とこんなに親密に話すのは初めてになるかも知れない。話す事が希だから話したときのことはよく覚えている。入学式の日に彼女は俺に道を聞いてきた。その時のことをよく……。

 そして、いきなりパソコンの方から特徴的なアラームがなる。度会はビクッとしてパソコンの方向から身を引いてベッドのところに歩いて行く。デザートに渡したプリンをもってそちらに座ったことを確認すると俺はいつもなら画面通話にするチャットソフトを音声通話だけにして通話を開始する。それを不審がる地元の友人達。


『なんだよ。今日は音声か?』

「あぁ、ちょっと来客があってな」

「あ、えと。お構いなく……」

『女の声?』

『城井君の彼女?』

「ちげーよ」

『そんな事言って、隅におけないなぁ。このこの!』

「切るぞ」

『本庄君はきっていいけど僕はダメだよ。フォーチュンのシステムバグについてとこれまで変な改変をされていた場所の修正が終わったよ。あと、武器だけじゃなくてストーリーの進行も君が書いてくれた部分までが組みあがってデバグを開始できるレベルかな』


 今はヘッドフォンを付けている。それだから度会には何も聞こえていないはずだ。背中に度会の視線を受けながら会話するのがなぜかやりにくくてしかたない。いつも他の人に見せている姿と少し違うためにパソの画面に映る度会の表情はまた違う物だ。興味というか…小さな不安とでも言うべき所が強い物で何かを探しているときの表情、もしくはかくれんぼなどで隠れている時の様な不安さを含みながらもワクワクする様な……。いかん、仕事モードだと文章にいちいち回りくどい比喩や流れを作る脈の様な物を作り出してしまう。それを機械越しではあるもそれなりに付き合いの長い連中に悟られるのもあまりいい気分ではない。もちろんこちらの人間もだ。恐らく大学の四年間の連みで本当に仲良く慣れたメンツ以外は疎遠になり何も関わりなくるだろう。俺は人間と深く濃密に関わることを嫌う。それだからここでも気の置けない友人以外に枠を広げるつもりもなかった。まぁ、それだけではなく…少しの間仲良くできても馬が合わないならば俺は切らなければそいつのせいでいらいらしてしまう。きる事が俺の自身を健康に保つ防衛戦でもあるのだ。考えすぎる人間にはこういう弊害もある。


『ヘッドフォン外せよ。話してみたい』

「アホか、相手のことも考えろ。いきなり初対面、しかも機械越しの電話で話しかけられたら誰でも戸惑うぞ」

『それより本庄君? 企画の話は?』

『そ、そうだな。この前に悠染(ユウゼン)が書き出したストーリーと詳細文(シナリオ)をベースにグラを作ってなんとか24のメインストーリーと14のエピソードを完成させた。これだけ作れば当分の分岐は増やさなくていいしな』

『もちろん、その間のことは新しくシナリオのサブをしてもらうことにした子達にも伝えて急いで詳細にしてもらった文書で他の設定を書きおこしてもらってる。城井君にはかなりのオーバーワークをさせていたからね。少し休んで本編の編集とかに行き着いたら連絡するよ』

「了解、シナリオやストーリーは外枠を練っておく」

『うん。それから父さんが直に会いたいって』

「断れないのか?」

『うん。昼にも話したとおり僕は乗り気じゃないことや…君は嫌がるかもしれないけれどご実家のことも外枠だけ伝えたんだ。それでもってことはこっちもそれだけ本気なんだよ』

「わかった。次回の帰省の時に行く」

『ありがとう』

『ほんじゃ、彼女と水入らず、楽しめよぉ』

「……」

『はは、それじゃ、お休み』


 度会は既にプリンを食べ終えているのにこちらに視線を送り続けている。パソの外枠のプラスチックの部分は光沢をもっていて反射して彼女の表情はよく見える。その時、珍しく度会の方から言葉がこちらに向けられた。俺が過去を掘り返されるのが嫌いなことは地元の人間はよく知っている。まぁ、メンタルの弱い俺は色々と語りはするがそこまでキツい部分は語らないようにしているのだ。かなり……深い部分だけはね。別にそんなドラマのように死別とかいじめとかDVとかのようなキツい訳ではなくとも俺は嫌なのだ。


「地元の友達とか?」

「そうだよ」

「もしかして……お仕事?」

「少し違うかな」

「え?」

「フリーのゲームサークルを俺たちやってんだけどね? それのシナリオとストーリー運用の担当が俺なの」

「お話を作る人ってこと?」

「ざっくり言えばね」

「凄い…何でもできるんだね」

「いやいや、多趣味で器用貧乏なだけ。どれもたいして優れちゃいないよ。度会みたいに勉強を頑張れる訳でもない。めんどくさがりだしね俺」


 大きな目をさらに見開く。前髪が長いから少し地味に見えがちなこの子は実を言うとけっこう大きな目と少し厚めの唇のために肉付きも平均的で小さいから華奢だが、幼く可愛らしくみえる。もっと細かくいうなれば睫毛も化粧をしてもらなくても長いし頬骨があまり主張しないからエラもはらないうえに顎も細くて輪郭も小さめだ。顔だけではなくそれは全身に言える。小さいからと言って細すぎないけれど…ちらっと見ただけでは華奢に見えてしまうし少々猫背気味だからか地味に見えてしまうのだ。

 性格もそう言う意味ではかなり引っ込んでいて抑え気味だからなおさらだろう。勝手な分析だが実験中に見た彼女の感覚とたまたま授業の時に後ろに座った時に感じた彼女の印象だ。髪が長すぎるのも一因ではあろうがキャラ設定のしすぎでけっこう歪んだ趣味の俺にはあれは好印象である。もっと長くてもいいけれど。それはいいとしてそろそろ風呂をすすめておかなければな。


「度会、そろそろ遅くなるし明日は早いからシャワーを浴びたらベッドで寝て」

「え? わ、悪いよ。私、座椅子で大丈夫だから」

「だめ、女の子にはそんなことさせられないよ。ベッドで寝て」

「う…。じゃ、じゃぁ」

「一緒にはダメ」

「ふぇ?!」

「一応、俺もそう言う年齢の男だからさ。何かあるないじゃなくて恥ずかしいから。あとお客さんだからね。今日の度会は」

「じゃぁ!!」

「はい、タオル。お風呂使ってね」


 これ以上行くと俺の理性の方が持たない。嫌いではないし、むしろ小さくて愛らしい度会の様な女の子は珍しいことからできればものにしたいという下心もあるが……。ゆくゆくは…という策略を回す上での前半は紳士である必要性が濃厚だ。最初から飛ばすのは俺としては自身のチキンな所も含めて避けるべきだし、ここで彼女に俺が本当はそう言う人間だという印象を与えてはいけない。度会は落ち着いていて少しばかりシャイなことから周りとの意思疎通が苦手なだけだ。俺のように人間が心底嫌いなやつとは違う。ピュアな分だけ傷つければ大きく傷を残してしまうだろうから彼女との関係は慎重に運ばなくてはな。彼女に限らずだ人間との関係は慎重にしなければな。

 いかん……。こういうことは本当はいけない。心が下向きになると自傷じみたことを考えて止まらなくなることはないだろうか…俺にはよくあることだ。ポジティブに考えられる人間はそれが強みで羨ましい限りである。俺にはそれがない。俺は心を自分なりに生理してブロックのように積んで汲み上げないと生理できない人間なのである。誰かを導いて行ける程に器用な部類ではない。もう、そういう意味では疲れたのだ。掘り返すだけで嗚咽ばかりが出てくる。


「あ、ありがとうごさいます」

「おっと…。ごめんよ。着替えね。俺ので良ければあるよ」

「ありがとうございます」

「うん」


 恥ずかしそうな度会ではあるもにこやかに笑っている。ジャージを貸すとそれを来て現れた。貧乏学生の部屋などそこまで広くはない。俺もその類だ。地価が高くないからここはそこまでだが地下が高い都心なんかだともっとだろうな。玄関を入って台所とろうかを兼ねた部分に雪っとではないからここを選んだのだが風呂とトイレがあり奥は一間だ。そんなことはさておき、俺も風呂に入るか……。

 明日から釣り大会である。…いいや、キャンプか。こういう場合は野郎で準備をしっかりしておかなくてはならないな。どうせ、田島の魂胆は簡単には彼女をここで作ろうなどということだ。藍緋 紫神に関しては俺の友人でもある石岡の彼女だから関係なくても……。引き立て役として呼んだのだろう。女子の後のメンバーは明るくて凛々しい表情で人気の来栖の友人メンバーだ。学科内ではレベルが高いなどと言われいる。二次元にどっぷりの俺にはよく解らないがな。あいつの薄い魂胆なんて見え見えだ。まぁ、その低俗なやつだから扱いは簡単だし他とは違う扱いだがね。


「…度会?」

「すぅ……すぅ……」

「結局こうなるのか……」

「……」

「よいしょっと…やば、鍛え直さないとな。ちっこい度会でさえこれか」


 そして、ベッドに寝かせてから俺も座椅子に座る。毛布は二枚あるしこの早は冷房をかけてある。主に魚とパソコンのためだ。自分のためではない。よって、省エネ温度の28℃に設定されている。熱くも寒くも無いだろう……。明日の準備も早朝にしたらいいだろう。そのためにいつもとは比べ物にならない速さでの就寝なんだ。10時前後なんてこれまでじゃ考えられないことだった。まぁ、度会もいるしな。

 いい経験をさせてもらったし……明日も家族サービスというか友人サービスするかな。


「ふぁぁ…気を緩めたらいけないな。やっぱり……」

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