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トリィ

※グロ表現あります。

 幸せだ。

 そう、思う。





 明日は、約束の5年が終わる日だから、パーティしよう。


 トリィの一言で、今日は食卓にご馳走が並ぶことになった。

 3日前から借りている、小綺麗なコテージハウス。

 2人は前日からバカみたいにたくさん買い込んでは、パーティの準備をした。

 バッシュは料理担当。トリィは部屋の飾り付け担当。

 手際のいい2人が、たっぷり時間とお金をかけて用意した2人だけのパーティ会場。他人がみれば、なぜここまで力を尽くしたのか、と突っ込まずにはいられないような出来栄えだ。

 トリィが作った、繊細な切り絵が天井から下がり、キャンドルの光を受けて壁や床に芸術的な影を落とす。

 テーブルには目にも美味しい盛り付けの料理が並ぶ。

 シェフの意向で今回のディナーには、肉を一切使用していない。

 オレンジ色のカクテルが入ったグラスを軽く鳴らして、静かに、穏やかに、2人だけのパーティは始まった。


「早かったなー、5年」

 いつもよりずっと上品に、トリィはサラダを口に運んでいる。


「お前…さ。まだ、俺とずっと一緒にいたいって、思ってる?」


 問いの意味を把握しかねて、バッシュはナイフとフォークを置いて静かにトリィをみつめた。

 5年側を離れなかったのは、トリィとずっと一緒にいるためだ。その条件を出したのは他ならぬトリィ本人なのに。

 トリィは少し笑みを浮かべた。

「お前、変わんないな」

 トリィはオレンジ色のカクテルに口を付けた。薬同様、アルコールもトリィには効かない。


「なら、俺の話を聞いてくれないか。…“家族”には、知っていてほしいから」


 家族。


 バッシュは、一つ頷いた。


「聞く。トリィの、“家族”だから」


「…お前な」

 あんまりバッシュが大真面目な顔をするもんだから、つい吹き出してしまう。笑いが落ち着くと一度深呼吸をし、トリィは静かに語り出した。




「俺にはお前の他に、5人、家族がいた」


 あぁ、実の両親は除いてな、とトリィは付け足した。


「俺にとっての“家族”は、苦楽を共にし、…そんでもって、自分よりも幸せになってほしい人を差す言葉だ」


 トリィは優しく微笑んだ。


「最初の家族の名前はディンデ、だ」

(ディンデ…)

 トリィがうわ言で口にしていた名だ。



「俺は10歳の時に親に売られて、人間爆弾にされたんだ。それを救ってくれたのがディンデ。ディンデは俺を拾って面倒をみてくれた。いろんなことを教えてくれた。…俺がお前にしたように」

 その当時を思い出して、トリィは穏やかに笑った。

 その微笑みが、バッシュの胸をざわつかせる。


「俺は、ディンデの息子の代わりだった。ディンデの息子は…少年院にいて、まぁ、つまり素行が悪かった。ディンデの国では少年院の悪ガキを兵役につかせるんだよ。あの国、絵に描いたようなアホ軍事国だからなー、大抵はロクな訓練もさせず前線送りにしたり、人体実験の被験者にされんだけど…。身代わりっつーシステムがあって、その兵役に就くことになった少年よりも心身共に優れた子どもを差し出せば、兵役を免れることができるっつー…ほんとアホだよな」

 まぁ、そのおかげで俺は人間爆弾にならずに済んで、おまけに勉強までできたわけだけど、とトリィは笑った。


「ディンデに拾われて2年後、ディンデの息子は兵役に就くことになって、で、俺がそいつの代わりにヘルズキャンプっつー、地獄みたいなとこに行くことになった」


 バッシュの目に剣呑な色が浮かぶ。

 地獄という言葉には聞き覚えがあった。

 トリィを身代わりにした?そいつの代わりに、トリィが拷問の訓練を受けたの?身体中、傷だらけにして?

 バッシュは目を細めた。


(そんなの、八つ裂きでも足りない)


 ディンデも、その息子も。


「まぁまぁ、んな顔すんな。もう終わったことだよ。過去に腹立てても何も良いことないぞー。って、教えたよな?」

「…」

 バッシュはぐっと息を飲み込んで、大きく吐き出した。体から、力を脱いて気を鎮める。そう、過去は過去。終わったこと。



 手出しできないものに執着するなんて阿呆らし。そんなに気になるんなら、手も足も出せる現在(いま)に執着したほうがマシだろうに。



 トリィが教えてくれたことだ。…忘れるわけがない。


 バッシュはいつもの無表情に戻ると、トリィに続きを促した。


「よし、良い子。…で、まぁ。ひどい場所でな。俺も含めて5人しか生存者がいなかった。そいつらがディンデを除く、4人の俺の家族だ」


 トリィはほうれん草のキッシュを口に運んだ。


「ヘルズキャンプは、俺たち5人の反乱で幕を降ろした。忍耐強く入念に準備して。…施設の人間を、殺して殺して殺しまくって、キャンプを脱走、当時の大将と議員を脅して、軍からの解放と解放後の身の安全を約束させた」






 皆一緒にどこか遠いところへ行こう、とミムがいった。

 少し寒い、乾いたところがいい、とソノが続けた。

 俺はお前たちが一緒ならどこでもいいよ、とアウラ。

 トリィ、お前はどこがいい?とナキムが聞いた。


 …おれはディンデのとこに行く。

 と、答えた。



「ディンデも、俺の家族だ。あいつがいなかったら、俺は生きてなかった」

「はぁ⁈そいつがお前を地獄に売ったんだろ⁉」

「でもあいつがたくさん教えてくれたから、生き延びることもできた」

「…どうしても行くのか?俺たちと道を別ってでも」

 アウラにトリィは頷きを返した。

「お前たちは強い。4人が一緒なら誰かに殺されることはないだろ。ディンデは弱い。弱いくせに兵士なんかやってる。あいつが引退するまでは、俺が側にいなきゃ…」

 死んじまう、涙ぐんだトリィの頭をアウラが優しく撫でた。

「わかった。それなら引退するまでは、側にいてやれ。そいつが引退したら、お前はかえって邪魔だ。危険に巻き込む可能性が高い。だから、その時は、俺たちのところに帰ってこい」


 アウラ以外の3人には散々詰られながら、トリィは1人、ディンデのいる部隊へと戻っていった。




 部隊に配属されたトリィは化け物のような扱いでディンデの隣に迎え入れられた。実際、トリィは化け物だったので、仕方がない。

 これは捨て駒にされたな、と誰にでもわかる作戦でも、決して死ぬことはなかった。それどころか、部隊ごと救ってみせたりもした。それをきっかけに、トリィの扱いは部隊内では英雄に、外からは本物の化け物に変わった。


 トリィがディンデの所属する部隊に配属されて10ヶ月が経った頃。





「あいつが言ったんだ。死ぬより怖いことはないって」







 なら、こんな仕事辞めちまえよ。

 トリィはそう返した。

 ディンデは疲れた顔で笑って、


「……そうだな。…そうするか」


 そう言うと、トリィの首にナイフを突きつけた。


「お前の首をくれないか」


 ディンデは荒んだ目をトリィに向けた。


「お前の首と引き換えに、自由と金が手に入る。こんな狂った国とおさらばできるんだ」


 トリィはしばらく呆然とした後、突きつけられたナイフをそっと戻させた。


「あんたの腕じゃ、それで俺の首は落とせないよ。首は、何に入れて持ってくんだ?依頼主はこの部隊の中にはいないんだろ?隠して持ってく必要があるんなら、人目につかないとこで、手早くやらないと」

 防腐処理はわかんねぇ。そんなに遠くに届けるんじゃなけりゃ、クーラーボックスでいいのかな?俺、とってくる。あんたは縄と銃と斧、用意しとけ。夕飯時、キャンプ裏手の雑木林でやんのがいいだろうな。

 テキパキと指示を飛ばして、トリィも用意にとりかかった。


 迷ったのは一瞬だった。


 もう一つの家族に、別れの挨拶を直接言うことができないのが心残りだった。

 それでも、元々この命はディンデが救ったものだから、ディンデが望むなら差し出すことに否はない。それで役に立てるなら。

 楽しいことばかりの人生ではなかったけれど、自分よりも大切だと思える人ができた。これ以上、幸せなことはない。

 無意味に生まれて、無価値に死んでいく人間に比べたら、自分の人生はなんて実りの多いことだろう。



 直接言うことはできなくても、アウラたちに事情を伝えておく必要はあった。事の次第を後で知った時、ディンデが報復で殺されてしまうかもしれないから。

 これが自分の望みであること。だからディンデには手を出さないで欲しいということ。

 皆の元へ戻れないことを侘び、家族の息災を願う内容を綴ると、アウラたちだけが使う電波にのせて送った。





「俺もあん時は頭おかしかったんだよな」

 トリィは苦く笑った。

「前、死ぬより怖いことがあるか、って聞いたことがあるだろ?俺は、あの時、生きているのが怖かった。死ぬより、ずっと怖かった」



 さっきまで笑いあっていた仲間が、惨たらしく殺されていく。抵抗は許されない。分け合った温もりが、次々と目の前で失われていく。次は自分の番だ。

 痛い。苦しい。

 傷が膿む。そこから腐って死んでしまうんじゃないかと怯える。そうやって死んでいった仲間を知っているから、余計に怖かった。

 早くに死ねる奴は幸せだ。

 残される恐怖を知らずに済むのだから。

 ディンデの隣に戻ってからも、生きることへの恐怖は薄れなかった。

 敵も味方もバタバタと死んでいく戦場で、自分だけが生き続けるのは死ぬ以上の恐怖をトリィに植え付けた。



 だから、ディンデの申し出は渡りに船だった。


 ディンデはトリィが無意識に暴れることのないよう、手足を縄で縛ると、そっと抱きしめてくれた。

「疲れただろう?生きるのが」

 そう言って。


 知られていた。

 ディンデはわかっていた。

 トリィが壊れてしまっているのを。


「ごめんな。俺がお前をめちゃくちゃにした。あのまま死んでいたら、こんな目には合わずに済んだろうに」

「…ツラいばかりじゃ、なかった」

 トリィは笑った。

 ディンデは、顔を歪めて、ぎゅうっと更に力を込めてトリィを抱きしめた。

 背の小さいトリィはすっぽりとディンデに包まれた。

 それが嬉しくて。心地良くて。

 こんな風にして死ねるなんて、自分はなんて幸せ者なんだろう。ヘルズキャンプで無惨な死を遂げた仲間たちを思い出し、トリィはそっと目を閉じた。

 地面に転がされて、心臓の真上に銃口をあてがわれる。


「ごめんな。…死んでくれ」


 最後にディンデを見ていたいな。でも見られていたら、やりにくいだろうか。…でも、少しだけ。

 トリィはうっすら目を開けた。




 ディンデの喉から、何かが突き出ていた。

 樋のように、その何かを伝って赤い水が落ち、トリィの額を汚した。


「な…」


 ヒュ、と嫌な音がディンデの喉から漏れる。と、同時にディンデの喉から突き出ていたものが、横に払われた。嫌という程聞いてきた、骨肉を断つ音と共に。

 視界が赤で染まった。

 瞬きもできずに、トリィはディンデの首が半ば胴体から離れていくのをただ見ていた。

 血。

 血、だ。

 声も、でない。身体も。全然いうことをきかない。

 トリィは知っている。

 あれは、助かる傷じゃないということを。

 …喉を断つその太刀筋に、見覚えがあるということを。

 ディンデの体が地に倒れ伏す。その後ろから現れたのは、アウラだった。

 トリィの、もう一つの家族。

 手には短刀。…血で濡れた、短刀。

 ピクリとも動けずにいるトリィに、アウラは優しく穏やかな微笑みを向けた。


「迎えに来たよ。帰ろう、トリィ」







「あの時から、俺は肉、ダメになったんだよ。肉も、骨も、血も、俺は嫌いだ。…大っ嫌いだ。見るのも嫌なのに、食うなんて、耐えらんねぇ…」


 トリィは何かを堪えるように、目を閉じた。



「その後の記憶は曖昧で、よく覚えていないんだ。気がついた時には拘束具じゃらっじゃら付けて、ミム、ソノ、ナキムの世話になってた」





 

 そして、ナキムからアウラが一週間前に死んだと聞かされた。

 なんの冗談かと思った。

 あのアウラが。

 俺たち5人の中で1番強いアウラが?


「お前に気付かれないように、お前が軍に戻ってからも俺とアウラは2人で交代しながらずっと様子を見てたんだ」

 ナキムはトリィの点滴を調節しながら、そう言った。

「アウラ、ちょー怒ってたぜ?あと、すげぇへこんでた。お前が壊れちまったから。ディンデだっけ?あいつをアウラが殺してからもう2ヶ月経つ」

「2ヶ月…」

「あいつのクソ息子がメディアに出てなー。お前を悪し様に罵ってやがった。泣いて喚いて、隙あらば自殺を試みるお前を、休むことなくずっと慰めてきたアウラがキレねぇわけないだろ」

 ため息を吐きながら、ナキムはベッド横の丸いすの上に腰を降ろした。

「あいつも限界だったんだろ。お前を1番可愛がってたのはアウラだし。ブチ切れて、あっちこっち暴れ回って、最後は軍上層部に襲撃し掛けて派手に散ったぞ」

 ナキムはトリィの前髪を梳いた。

「おかげで、本当の意味で俺たちの存在を知る輩はいなくなった。…ようやく、自由だな」


 喉が詰まって、視界が歪んだ。


 自由。…自由?

 こんなのが、自由なのか?アウラが、いないのに。

 ディンデがトリィの首と引き換えに得ようとしていた自由とは、こういったものだったのだろうか。

 かけがえのない大切なモノを代償に得られるようなものなのだろうか。

 カチン、カチン、と拘束具が外されていく。

「せっかくアウラがくれた自由だ。無事、目も覚めたことだし。好きにしな」

 トリィは上体を起こして、零れる涙を乱暴に手で拭った。

「生きるも死ぬも、好きにしな。俺たちと一緒にいるんでもいいし、1人でどっか行ってもいい。…自由をあげるから、好きに生きろって。アウラの、最後の言葉」

 すべての拘束具を外し終えると、ナキムは泣きじゃくるトリィを置いて部屋の扉を開けた。

「ただしその点滴は最後まで受けていけよ。お兄さんのお願い」

 トリィは頷いた。

 ナキムが部屋を出ていって、点滴が終わるまで、トリィは声を張り上げて泣き続けた。

 自由とは、なんて重く冷たいものなのだろうか。

 これを抱えて生きていくことが、アウラが最後に望んだことなら。

 そうすることで。罪を、贖うことができるだろうか。

 トリィの育ての親、ディンデはもうこの世にいない。その血の熱さを、忘れない。骨の白さを。肉の重みを。

 アウラ。アウラ。

 どうしても許せない。だけど憎むこともできない。地獄を共に生き抜いたトリィの家族。許してくれということもできないなんて。きっとひどく傷付けた。俺が、弱かったせいで。


 トリィは泣いて、泣いて、そして、点滴の雫が落ち切るのを見届けると、一人ぼっちで「家」を出ることにした。



 トリィは子どもで、人殺しと戦争しか脳がなかったので、傭兵をすることにした。人殺しも戦争も大嫌いだけど、皮肉なことにそれが1番安定して稼げる仕事だった。


 バカみたいだな。


 空虚な気持ちで焼け落ちた街を歩いていた。



 トリィはそこで、死体に身を寄せる変な子どもを見つけた。

 トリィが大嫌いな血と肉を、その子どもは恐れるどころか、食おうとしていた。

 変な奴だなぁ、と思った。

 虚な目をして、それでも生きようと足掻く姿に、妙な感動を覚えた。

 水と食い物をやったからか、懐かれてしまったようで、後ろを一生懸命着いてくる。穴みたいに虚だった目が、トリィを映した時だけ、ビー玉みたいに輝くのが不思議だった。だんだん健気に思えてきて、時々、食い物を分けてやることにした。

 歳を聞くと、10歳だといった。

 自分の10歳の頃とダブった。

 引き取ってみようか。そんな気まぐれを起こした。


 下心はあった。

 ディンデの気持ちがわかるようになるだろうか、とか、この子どもを一人前に育てて自分の代わりに目一杯、幸せになってもらおうか、とか。そんなどうしようもない下心が。




「でも、5年間一緒に居てわかったのは」


 トリィは幸せそうに顔を緩めてバッシュを見た。


「ディンデの気持ちなんて全然わかんねぇってこと。俺はお前を地獄になんか行かせねぇし、そのために身代わりの子どもを捕まえたりもしねぇ。んなことするくらいなら、俺が行く。行ってぶち壊してくる」


 オレンジ色のカクテルに口を付けて、笑った。


「生きるのが怖くて死にたいなんて言ったら、どんな手を使ってでも生きるのが幸せだって言わせてやる」


「俺は幸せだよ。トリィがいる」


 バッシュがそう言うと、トリィはいっそう幸せそうに笑った。


「俺もだよ。お前が可愛くて仕方ない」


 トリィはペロリと口の端しについたカクテルの雫を舐めとった。

 赤い舌を目で追うバッシュに、トリィはイタズラっぽい目を向けた。


「なんか最近、やーらしぃ視線で舐めまわされてっけど」


 言葉の意味を理解すると、バッシュは慌ててサラダの上に視線を移した。

 ばれていた。

 いや、トリィが相手だ。ばれていないわけがなかった。

 ケラケラとトリィは笑った。


「バーッシュ」

 笑いをおさめると、トリィは甘い声でバッシュを呼んだ。

「なぁバッシュ、こっち向けって」

 トリィはズルい。

 バッシュがトリィに逆らえないのを知っていて、無体を言う。

 渋々、といった様子で視線を合わせてきたバッシュに、トリィはもう一度聞いた。

「俺は、こういう人間だ。神さまでもなんでもない。ろくでなしに拾われて、利用されてるってわかっていても尽くしてやりたくて。…大切な仲間を犠牲にして、のうのうと生きてる。幸せになる価値なんてないゴミみたいな人間なのに、それでも、お前といるとなんか…こう、…幸せで。ほんとどうしようもない人間なんだよ。俺、こんな人間だけど、お前、ほんとに俺と一緒に生きていきたい?」

 バッシュはぽかんと口を開けた。

 それから、不思議そうに首を傾げた。


「モノの感じ方は人それぞれだってトリィは言った。…トリィにとって、トリィはゴミかもしれないけど、俺にとってはやっぱり神さまだよ。俺はトリィといると幸せだから、ずっと一緒にいたい」


 トリィはきょとんとして、それからまたぶっと吹き出して笑った。一頻り笑うと、トリィは笑いすぎて滲んだ涙を拭った。


「あー、ほんとお前ってさいこー。大好き。かわいい」


 一緒にいような、と笑うトリィの方がよっぽど可愛いとバッシュは思う。ついでに言うと、涙が滲んだ眦が色っぽい。

 その視線に気付いて、トリィはにやりと笑って、テーブルの上に乗り上げた。


「で?お前は、神さまに欲情すんの?」


 からかうだけのつもりだった。

 つい最近まで小さな子どもだったのが、いっぱしの男の顔をするもんだから面白くて。




「トリィは、俺にとって神さまだけど……時々、すごく食べたくなる。触って、舐めて、…汚したく、なる」




 ね、少しなら舐めてもいい?


 腹をくくったのか、予想外に、隠すことなく雄の目を向けられて、逆にトリィの方が気圧された。


(…ほんと、こいつって)


 どうしようもないっつーか、バカっつーか。


「いままでの話、ちゃんと聞いてたか?俺は“家族”に弱いの。尽くす系なの。可愛い可愛いお前におねだりされたらさ、そりゃ…わかるだろ」


 しかも、俺、自己評価「ゴミ」だぜ。薬だの拷問だのでボロボロの体だけど、これでいいってんなら、どうぞご自由に、ってもんだ。


 仕方ねぇなー、と苦笑いして、トリィはバッシュの形良い唇をペロリと一舐めした。


 トリィに舐められたそこを、確かめるようにバッシュの舌が辿り、指がその後をなぞった。


「トリィ…」


「ん?」


 水色の瞳に劣情をこれでもかと滲ませて、バッシュは15歳とは思えない男の声でトリィを呼んだ。



「食べて、いいの?」



(相変わらずゲテモノ食いだな)


 そんな感想はそっと心に閉まって。

 トリィは優しい笑みを浮かべた。



「どうぞ?好きなだけ召し上がれ?」


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