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邂逅

 旅立ってから丸一日が経った。未だに山道に出ないことから、あそこがいかに辺境にあったか分かる。

 ここまでの道中、途中で魔物に襲われたり、野営したりと初めてだらけだった。魔物は解体して『ストレージ』でしまってある。村に着いたら売って金にするのだ。一人での野営は危険極まりないが、ジャリスさんから貰った『魔物避けの臭い付テント』のおかげで何とかなった。魔物は、基本的に人間より嗅覚がとても敏感だ。よって、人間は臭いを感じず、魔物は感じる、という便利グッズになる。その分とても高く、テントであるがゆえに嵩張る。だが、『ストレージ』を使えばこうしてノーリスクの便利グッズとなるのだ。

「る、か……ルビー」

『イコール』

「またるかよ……瑠璃色」

 俺は景色が変わらない森の中をひたすら方位磁針を頼りに進んでいた。東に進んでいる。で、あまりにも暇だからジョーカーと『しりとり』をしながら進んでいるのだ。それも三十分も前から。

『ロール』

「る、る……」

 この野郎、『る』で縛ってきやがったな。なら、

「ルーブル!」

 こっちも『る』で終わる言葉で返してやる! ちなみに、これはロシアの通貨単位だ。

『ルール』

「ぐはっ!」

 また『る』で返された。俺は落ち込み、ジョーカーは俺を指さして爆笑。

「ま、参りました……」

『きょきょきょきょっ!』

 語彙が尽きた俺は降参宣言をし、ジョーカーは癪に障る笑い方で爆笑。目から涙まで零れてやがる。

 あ、今『類する』って言葉を思い出したぞ。くそっ……しりとりって終わった後にいい言葉が思いついちゃって後悔することあるよなぁ……。

「はぁ……周りの景色が変わらないとつまらないなぁ」

 俺はそう言いながら周りを囲んできているハウンドドッグ三匹を即座に無詠唱の風属性下級魔術『カマイタチ』で仕留める。風の鎌がハウンドドッグたちの首を切断した。俺はその死体を一つ一つ解体して『ストレージ』で仕舞う。

 とりあえずのところは、一番の適正属性が無属性であること、それと全属性に適性があることを隠していくつもりだ。で、俺が選んだのは風属性と土属性。この二つの使い手としてしばらく誤魔化していく。

「あっ! やっとだよ……」

 遠くの方にやっと木々が途切れているところが見えた。あれが山道だろう。いやはや、ジャリスさんは世間から離れすぎだな。普段の食事は全部自給自足だし、あの人はやはり相当立派だ。

「ここからは歩きやすいなぁ」

 俺は山道に出ると、そこで一息つくべく水筒を取り出して水を飲む。はぁ、生き返る。疲れは無いが、長い間歩いていると汗をかく。こうして水分補給はこまめにしないとな。

 山道を眺めながら俺はしばしの休憩をすることにした。山道は舗装されてはいるが、所詮田舎だ。石ころとかが転がっているしデコボコしている。それにそもそも土がむき出しだ。まぁ、こんなところに石畳やコンクリートを求めるのは無茶だよな。

 それでも、今までの木々の中に比べたら断然歩きやすい。根っこや落ち葉や動物の死骸、それに生い茂る葉で日光も遮断されているしで散々だった。俺は魔力量を活かして常に『レインフォース』で身体能力を強化しているからいいものの、通常だったらとんでもなく疲れるだろう。

「ここからは『レインフォース』を解除するかね」

 俺はそういって強化を止めた。頼ってばかりいると筋力が落ちるからだ。ここからは楽な道だし、ちょうどいいだろう。ジャリスさんに強化なしでも散々鍛えられたから、これくらいの道なら一日歩いても疲れまい。……見栄を張ったな。多分ちょっと疲れるかも。

 俺は干し肉を食べながら空を見上げる。快晴だ。雲一つ無い。気持ちのいい天気だが、正直俺は暑くない分曇りの方が好きだな。

「さて、そろそろ行くか」

 俺は立ちあがり、山道を下りていく。うーん、長い間一人だと独り言が多いな。ジョーカー? ああ、あいつなら笑うだけ笑って姿を現すのをやめたよ。畜生、いつか見返してやる。

 精霊は、不可視、半透明、具現の三つの状態がある。不可視は実体がなく見えない、半透明は実体がないが見える、具現は見えるし実体もある。後に行けばいくほど魔力を消費するのだ。ジョーカーは気分屋なため、不可視状態と半透明状態を自分の気分で決めている。ちなみに、契約者だけに見えて他人には見えない、という状態もあるそうだ。

 ただ歩くというのもつまらないので、俺は鼻歌で頭に浮かんできた行進曲をメドレー形式で歌いながら歩いていく。曲と曲の間にはつなげるために即興のドラムマーチを入れながら歩いていく。当然、行進曲のリズムに乗せてだ。山道に出てしまえば気楽なもので、魔物もほとんど出てこない。そう、魔物はね……。

「きゃあああああっ!」

「くっ! 何よ!」

 しばらく歩き、四回目のドラムマーチに差し掛かったところで俺の進行方向から女の子の叫び声が聞こえた。その後に、野太い男たちの声も聞こえる。

「おい女! 荷物をすべて差し出せ!」

「命だけは助けてやるよ」

「へへっ、命だけはな」

「くっ、野盗ね! 厄介な!」

「どうしましょう……私達じゃあ……」

「頑張るしかないわよ!」

 女の子たちの声も聞こえてくる。声だけ聞くと女の子は二人、野盗は五人か。女の子の声からして、この後の展開が予測できるな。うーん、これは……。

「不愉快だな」

 そう言って俺は駆け出した。悪人は放っておけないよな。そりゃあ俺の手が届かない範囲なら仕方ないし助けなくても罪悪感は沸かないが、こんなに近くで事が起こっているんだもんな。

 五秒ほど走ったところで、その事が起こっている場所が見えた。

 野盗は五人で全員大人の男性、女の子は二人で囲まれているうえに劣勢と。

「食らえ!」

 俺は不意打ちとして今の場所から『アースボール』で土の球を五つ作り、野盗の頭部を狙って飛ばす。

「げふっ!」

「ふがっ!」

「えふっ!」

「にゃっ!」

「えふんっ!」

 全員が変な悲鳴を上げる。見事命中したようだ。女の子二人はそれを見てきょとんとしている。おいおい、びっくりするのは分かるがそこはチャンスなんだけどな。

 俺はその場に向かって歩きながら地属性下級魔法『アースバインド』を発動。地面から土が盛り上がり、五人の野盗の両足を強く拘束する。そして、

『がふっ!』

 風属性下級魔法『エアハンマー』を野盗の鳩尾に叩き込む。今度は全員シンクロして悲鳴を上げて気絶した。足が固定されているため、変な体勢で倒れるだろう。起きた時に相当痛いだろうな。

「大丈夫かい?」

 俺はきょとんとしている女の子二人に声をかける。

 片手剣を持っている女の子は艶やかな金髪をポニーテールにしていて、目の色は透き通るような青だ。一方の短剣を持っている女の子は輝くような銀髪をボブカットにしていて、目の色はこれまた透き通るような緑。どちらも顔の造形が整っていて、可愛い部類に入るだろう。というか普通に可愛いのでは? 二人とも、俺と同い年かそれ以下くらいだろう。銀髪の子はどうも年下っぽいな。中学生くらいかな?

「あ、あんたがこれをやったの?」

 金髪の女の子が俺に戸惑ったように問いかけてくる。

「そう。危なそうだったからね」

 俺はそう言って、某ダーク系魔法少女アニメのオープニングのジャズアレンジを鼻歌で歌いながら野盗どもの両手を後ろ手にかなりきつく縛る。縄は必要以上に貰っておいて良かった。ついでに靴を脱がせて裸足にして、身体検査の後危険なものは回収。ついでに上半身の服も脱がせてそれを口に結ばせて猿轡の完成だ。それにしても鍛えられているなぁこの人たち。ウッホ……となるのはホモだけだ。俺はノーマル。

「あ、ありがとうございます!」

 もう一人の女の子がさらさらの銀髪を揺らして頭を下げてそう言ってきた。それに続いて金髪の子も頭を下げてお礼を言ってきた。

 俺は鼻歌のリズムに乗せて「どういたしまして」と言ってまた作業しながら鼻歌を続ける。全員縛り終わったところで、次に犬の首輪のようにして全員縄でつなぐ。これで俺が掴んでおけば逃げられまい。これはジャリスさんから教わった『野盗捕縛法』だ。多少鬼畜なくらいがちょうどいい。

 後は木の幹の縄を縛り付けてっと……これで終了だ。こいつらは村まで連れて行く。起きるまではここで放置だ。

「本当に助かったわ。あたしたちだけだとやられていたわね」

「本当にありがとうございます」

 二人は作業が終わったのを見計らってまた声をかけてきた。俺の作業を不思議そうに見ていたから、多分やり方を知らないんだろうな。

「あたしの名前はエリスよ。よろしくね」

「私の名前はリリアです。よろしくお願いします」

 自己紹介をしてきたので、俺も自己紹介をすることにした。

「俺の名前はユウスケだ。よろしくな」

 苗字は名乗らない。この世界では、苗字を持つのは貴族とか偉い人だけだ。ジャリスさんは一般市民だったが、そこから成り上がったので苗字を持っている。

「あ、そうそう。もう先行っていいぞ。俺はこいつらが起きてから連れて行くから」

 どうやら俺の事を待っていてくれたみたいなので、遠慮せずに先に行くように伝える。

「そんなわけにはいかないわよ、助けて貰ったんだから」

「野盗たちの監視ぐらいなら出来ると思います」

 二人は笑顔でそう言った。そうか、ならお言葉に甘えて、

「いやはや済まんね。じゃあ頼むわ」

 俺は初対面の緊張をほぐすべく、あえて軽くそう言った。


                ■


 野盗どもたちが目覚めるまで二人と雑談に興じていた。

 二人は冒険者になり立ての初心者さんのようで、ハウンドドッグを狩りに来ていたらしい。で、そこをあの野盗どもに襲われたそうだ。

 野盗どもが目覚めた時、五人そろってぎゃあぎゃあ騒ぎ出した。五月蠅かったのでリーダーらしき人を除いて口の中に布を突っ込んでやった。決め手は装備の質だ。

「で、一応聞くけど、何でお前らはあの二人を襲ったの?」

 あえて無表情で相手の首筋にナイフを当てながら問いかける。

「その口ぶりからして分かってんじゃねえかよ」

 素直じゃないようだ。でもそのツッコミは正しいな。

「予想は出来ちゃいるんだけどね。本人から聞くのが一番だろうと思ってさ。あ、嘘ついたら首筋が斬れるよ」

 俺はまだ無表情でそう言った。ちなみに、相手が嘘を言っているか本当の事を言っているかは目を見ればわかる。手品師は目の動きにも敏感じゃなくちゃね。

「ちっ……わぁったよ」

 そう言ってそいつは話し始めた。

 まず、こいつは予想通りリーダーだったこと。スラム街出身の奴らばっか集まった集団であること。目的は金品強奪と人攫いだそうだ。

 にしても、初心者冒険者が来るようなところで活動しているとは、なんて小物なんだろう。恐らく、金品強奪はついでで、人攫いがメインだろうな。初心者冒険者の持っているものはたかだか知れているが、奴隷として売り払えばそこそこの金になる。……らしい。ジャリスさんから教わった知識だ。人を攫って奴隷に落とせるとか、やはりこの世界の治安は良くないようだ。日本人基準だけど。

「よし、とりあえず事情聴取終了だ。じゃあこの先にある村に皆で仲良くいこうかね」

 俺は皮肉を込めてそう言いながら幹から縄をほどき、五本の縄を持つ。これで野盗のリードになる。

「何が仲良くだよ……」

「犬の散歩みたいだろ?」

 先ほど事情を聞いたリーダーのツッコミに俺は侮蔑で返答した。

 こうして、俺たちは再出発した。当然、俺は鼻歌で行進曲を再開する。野盗どもが裸足だと痛いとかせめて服は着させてくれとか五月蠅いが、それは仕方のないことだ。靴を履いていると逃げられやすくなるし、服を着ているとその下で何かされても気づきにくくなる。

 だが、そう言っても無駄なので俺は、

「全裸よりはましだろ?」

 と歌っていた行進曲のメロディーに乗せながら言って見せた。すると、野盗どもは全員激しく頷いた。さすがにこいつらもゴツイ男五人、全裸で並ばされて犬のように連行されているのなんか嫌だろうな。しかも手綱を握っているのまで男である。何の地獄絵図だと言う話だ。

 うーん、それにしても、この世界に来て会った二人目以降がエリスにリリア。こっちはいいとして、あとはこいつら五人と言うのがなぁ……。実質全員が二人目みたいなもんだし、ありがたみもへったくれも無いな。


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