無属性
その後、思ったより時間が余ったので魔術について教わった。
「魔術とは、簡単に言うと起こしたい現象を強くイメージし、魔力を使ってその現象を起こすというものじゃ。イメージが強いほど成功率が高くなる。また、起こした現象の規模というものがあり、主な要素は範囲や効力と時間じゃ。範囲が広いほど、効力が強いほど、時間が長いほど消費する魔力は大きくなる。消費する魔力は、その魔術の規模に左右されるわけじゃ。また、魔力の扱いが上手かったり、イメージがしっかりしていれば消費する魔力は少なくて済む。その逆も然りじゃな。ちなみに、魔術の発動には例外を除いてその魔術の名前を詠唱必要があるぞ。ここまではいいかのう?」
机を挟んで向かい合って座り、ジャリスさんが俺にそこまで説明してくれる。
つまり、魔術はイメージと魔力が重要でどちらかが欠けるといろいろ不都合。消費する魔力はイメージと規模と技術に左右される、ということか。何だかスポーツみたいだ。激しい運動をすればより消耗するが、上手い人は体力が同じでもコツを知っているから疲れにくい、みたいなもんだろう。あと魔術を使うにはやっぱりその魔術の名前を詠唱する必要があるようだ。定番だな。となると、先ほど魔法を使って見せてくれた時に何も言わずに竈に火をつけていたが、あれは『例外』という奴なのだろう。
「それで、魔術についてだが、さっき話した通り大きく分けて二つある。一つは自分の魔力や空気中の魔力を消費するもの、もう一つは『精霊』の力を借りるものじゃな」
「質問いいですか?」
ジャリスさんの説明に俺は口を挟む。ジャリスさんは頷いたので俺は質問することにした。
「一つめは分かるんですけど、もう一つはどんなもんなんですか?」
『精霊』の力を借りるといってもよくわからない。
「うむ、精霊とは、この世に存在する意志あるものじゃ。普段は目に見えないが、この場にも、どの場所にも存在しておる。精霊は種類ごとに好む場所があったりするがの。で、この精霊とは普段は実体を持たぬ。魂のような存在と思ってくれればよい。精霊は人間をはるかに超えた魔力を有しており、その精霊から力を借りるのじゃ」
ジャリスさんはそう言って指を三本立ててみせる。
「一つ目は自分の魔力を渡して精霊に魔術を行使して貰う場合、二つ目は精霊から魔力を貰い自分で行使する場合、そして三つ目は何かを代償に精霊に丸投げする場合じゃ」
ジャリスさんは手を下し、さらに説明を続ける。
「精霊の力を借りるには、その精霊と契約をせねばならぬ。契約の際には代償を渡して交わすのじゃ。そうすれば、契約者の指示でもない限りずっとそばに居続ける。まぁ、ランクが高い精霊だと自我が強いから気ままな場合があるがの」
ジャリスさんは最後の部分だけ優しい声になって説明した。
「そうそう、精霊にはランクがあってな。下級、中級、上級の三つに格付けされる。その中でも、上級はABC、中級はDEF、下級はGHに分かれる。上に行けばいくほど、契約の代償や、そもそもの邂逅すら難しくなり、アルファベットは順番が若いほど難しくなる。精霊は向こうから契約を持ちかけてくるから、こちらからは選べない。ただ、長い目で見れば最終的に契約者にとって一番結果がいい精霊が付くことがほとんどじゃな。本人の望みは別じゃがな」
ジャリスさんはそういうと、いきなり大きく一発拍手をした。すると、ジャリスさんの右にいきなり、半透明の、全身に炎を纏った三mぐらいの巨人が現れた。
「これがジャリスさんの?」
「うむ、名を『イフリート』といい、上級のBランクにあたる強力な精霊じゃ」
俺が質問し、ジャリスさんが問いかける。厳つい見た目とは裏腹に、イフリートは丁寧に頭を下げてきた。
「こいつは儂が十五歳の時に契約した精霊でな。当時は中級のDランクだったんじゃが、二十年ほど連れ添い、共に戦ううちに強くなってな。初めは名前がないただの中級火精霊だったのに、儂が三十五歳になるころに上級のCランクになり、今ではBランクの、屈指の強力な精霊じゃよ」
ジャリスさんは優しい、穏やかな顔でイフリートを見る。イフリートはそれに頷き返す。
「契約できる精霊の数は個人差がある。0体の者もおれば最大五体の精霊と契約した者もおる。儂は三体じゃな」
ジャリスさんがそう言って手を二回叩くと、ジャリスさんの左側に二つのバスケットボールぐらいの光の球が現れた。それぞれ緑色と黄色だ。
「こやつらはどちらも中級のEランクに相当する精霊じゃ。名は無いが、緑色は中級風精霊、黄色は中級地精霊じゃ。こうしてみると中級精霊は弱いと思われるじゃろうが、大体の者は契約が出来ないか下級精霊と契約を交わす。中級精霊と契約を交わせるものは千人に一人ぐらいじゃろうな」
ジャリスさんがそう言って口笛を吹くと、精霊たちはいきなり消えてしまった。
「魔術師じゃなくとも、この世界の者は皆魔術を使う。それは生活にも使えるから当然の事じゃろう。剣や槍を持って戦う戦士や騎士のような者でも、戦闘中や日常生活で魔術を使う。といても、やはり専門的にやっている分、魔術師の方が平均的に魔術が強力なのは確かじゃろうな」
ジャリスさんはそう言って、しばらく間を置く。俺が整理する時間を与えてくれているのだろう。
なるほど、俺はこの後ある程度この世界で暮らせるようになったら精霊と契約すればいいのだろう。どんな奴が来るのか楽しみだ。いろいろあるみたいだが、そのあたりはゆっくり覚えていけばいいだろう。そういえば……
「さっき火精霊とか風精霊とか言ってましたけど、それってどういうことですか?」
俺は気になったことを質問してみる。
「ん? おおう、すっかり忘れておったわい、先に説明するべきじゃったな。」
ジャリスさんは困ったような表情を浮かべ、頭を掻いてそう言った。
「魔術には火、水、風、地の四つに無属性を加えた五つじゃ。四つの属性のイメージに合った魔術があり、それらのどれにも属さない魔術が無属性となる。ちなみに、無属性魔法は例外中の例外で、初級魔法ですらまともに扱えない奴が多いぞ。一般に広まり、まともに使われているのは両手の指で足りるくらいじゃのう」
ジャリスさんは机に立てかけていた杖を持ち、竈に向かって振る。すると、先ほどと同じように火が点いた。次に、空中に振ると、室内に微風が起こる。その後、コップに向かって振ると、杖先から水が出てコップに注がれた。最後に、窓から外に向かって杖を振ると、地面がポコンと隆起する。
俺はそう言った、なんともファンタジーな光景に目を奪われた。
「今のは、それぞれ初めから順に火、風、水、地属性の初級魔術を使ったぞい。属性には個人によって適性があり、その適正にあった属性の魔術は向上しやすい。しかし、別に適性がなくても生活に困らない程度には魔術を扱える。ちなみに、大体の者は、適正は一つで、百人に一人ほど二つ持っておる。また、ごく少数のみ三つの属性に適性を持つ者がおる。そのうちの一人が儂で、火、風、地の三つに適性を持つぞ」
ジャリスさんは最後の部分を自慢げに胸を張ってそう言った。ジャリスさんは国に仕えていたと言うが、話を聞く限りとてつもなく凄い人だったのではないだろうか。偉い人だったのだろうな。
「そうそう、魔術には下から順に初級、下級、中級、上級、戦略級の五つじゃな。その中でもピンきりはあるがの。普段の生活で使うようなものは初級に分類され、ここまでなら誰でも出来る。その上からは難しくなってきて、上級魔術なんかは使える者はほとんどおらんし、戦略級魔術なんかは上級魔術を使える者が束になり、なおかつ精霊に力を借りてやっと出来るレベルじゃな」
「ちょっと遅いですけど質問いいですか?」
ジャリスさんの説明が一区切りしたのを感じて、俺は質問していいか聞く。頷いたので、俺は質問をすることにした。
「さっき四回魔術を見せてくれましたよね? あの時、魔術の名前を詠唱していなかったんですが、それは何でですか?」
魔術の説明の初めの方に思った疑問を言ってみる。
「おお、そうじゃったな。中々目ざといのう。簡単な魔法なら別に詠唱せずとも発動は出来るのじゃよ。といっても、全体的に効果は落ちるがの。儂がやって見せたのは全部初級魔術じゃ。儂ぐらいになれば息をするように使えるぞい。その魔術を何回も使ったり、魔術に関して熟練してくると、こうして無詠唱でも魔術が発動できるのじゃ。ちなみに、儂は火属性なら中級、風と地属性なら下級まで無詠唱で扱えるぞ。他にも、見せたように初級は全部出来るぞ」
それって相当凄いことなのではないだろうか。基準がいないからよくわからないが、どうもこの人は予想以上に凄い人っぽい。
俺は次の説明を待つが、どうやらジャリスさんはもう続ける気がないようだ。外を見てみると、もう大分暗くなっている。
「さて、いったん中断して夕飯にしよう」
ジャリスさんは立ち上がって先ほどの竈に火をつけ、鍋の中に水を入れると竈の上に置き、いろいろな具や調味料を放り込んでいった。どうやら寄せ鍋に近いものになりそうだ。ちなみに火と水は当然魔術だ。
「待っている間に先ほどまでの説明を整理するとよい」
そう言って、ジャリスさんは鍋の中にスプーン一杯の塩を入れ、かき混ぜた。
■
翌日、俺はジャリスさんに起こされて目が覚めた。魔術で動いている時計は七時を示している。ちなみに、服はジャリスさんのを借りている。
二人で朝食として昨日の寄せ鍋の残りを食べ終えると、
「今日はお主の魔術の適正についてからじゃな」
ジャリスさんはそういってタンスの中から透明な水晶玉みたいなものを取り出した。
「世の中には魔力が鉱石などに集まって出来た『結晶』と呼ばれるものがある。その純度が高いほど効力は強く、輝きも強い。これはその中の一つで、純粋な魔力が固まってできたものじゃ。これは『属性測定結晶』と言って、これに魔力を流し込むことで、色を示す。それが自分の適正属性を示すものなんじゃ。まず、ためしに儂がやるとしよう」
そう言って、ジャリスさんは机の上に水晶玉改め属性測定結晶を置き、それを両手で包み込む。
ジャリスさんから魔力が出る気配がして、その瞬間、結晶は赤い光を放つ。その後に光が緑、黄色と変わっていき、最後には元の透明に戻った。
「今みたいに、適正属性の中でも適性が強い順番に色を示すのじゃ。赤は火、緑は風、黄色は地、青は水に適性がある、ということになるのう。ほれ、お主もやって見せよ」
俺はそう言われたので結晶を両手で包む。ちょっと緊張してきたので、一回深呼吸をしてから、気合を入れて魔力を流し込んだ。さて、どんな色を示すかな?
「「……白?」」
思わず俺とジャリスさんの声が重なる。結晶は『白色』の光を放った。
俺たちがぽかんとしている間にも、光の色は変わっていく。その次に、結晶は赤、緑、黄色、青といった色の光を『同時に』放つ。ちょうど結晶を四分割して、それぞれから光る感じだ。
訳が分からなくなっているうちに、結晶は光を放たなくなった。
「えっと……何が起こったんですか?」
俺は訳が分からなくなったのでジャリスさんに頼ることにした。うん、素人が考えたって無駄だ。生兵法は大怪我の元、下手の考え休むに似たり、だな。ああ、混乱しすぎて普段使わない諺まで出てきたぞ。
「儂だってこんなの見たのは初めてじゃ……分からんことはないがのう……」
ジャリスさんはこめかみを抑えて深いため息を一つ吐いた。
「まず、初めの白い光じゃが……お主は『無属性』に強い適性があるようじゃな」
ジャリスさんはそう言ってまた深いため息を吐く。
「儂だって無属性に適性があるものは長い人生で見たことがないぞ。噂には聞いたことあるが所詮噂じゃ。その噂も一番に適性があるのが無属性というわけではない。ただ、白い光を放つ場合は無属性に適性があるとしか知らん」
俺はその説明を受けてポカーンとなる。口が半開きで格好悪いが、そんなことは気にならないほどの驚きだ。
「つまり……俺は相当特殊だということですか?」
俺の質問に、ジャリスさんは頷いた。
「まだだぞ。次の四色同時に光ったことだな。まず、適性が全く同じぐらいあった場合は同時に光る。これは割とよくあることじゃ。といっても珍しいが、頑張って探せばそこそこ名前が出てくるじゃろう。じゃが……四つ同時は一人しか知らん」
ジャリスさんはぽけーっとした表情で天井を仰ぎながらそう言った。
「えっと、つまり……俺は相当特殊を通り越して異端レベルだと?」
俺はそう問いかけてみる。恐らく首を横に振ってくれるだろう絶対そうだそうじゃなければ俺はどうすればいいんだ畜生! 縦に振りましたよジャリスさん!
俺が混乱と焦りと自分が異端になることを嫌う日本人的習性による自己嫌悪で頭をがしがし乱暴に掻いている中、ジャリスさんは俺に厳しい目を向けてきた。
「いいか、ユウスケ。お主はとてつもない魔力と才能、それにとんでもない可能性と特殊さを秘めておる。その力を欲する者は世界にごまんといるじゃろう。たとえ、力づくでもな」
今まで呼ばなかった俺の名前を呼んでまでの厳しい警告。俺は頭をかきむしるのをやめ、真剣に向き合う。
「お主は、これからかなり危険な目に遭うじゃろう。それを少しでも減らすために、その力をひけらかすのはよした方がいい。少なくとも、ある程度の地位につかないとそれは身を滅ぼす。少しずつ、地位を上げて、まるで成長しているかのように見せて少しずつ力を出していくのじゃ。無論、命の危機の時はその限りでないがの」
ジャリスさんは厳しい……まるで軍人のような目つきでそう言った。その言葉は、まるでその目で見てきたかのような、その身で感じてきたかのような、そんな重みを感じる。
そう言えば、ジャリスさんは国に仕えていたそうだ。となると、もしかしたら本当に軍人だったのかもしれない。
「肝に銘じておきます」
俺はその言葉を正面から受け止める。この言葉は、今の俺にとって大切なものだ。絶対に忘れてはならないのだろう。
「よし、じゃあそろそろ魔術の実践をしようかの。ふむ、無属性か……ならあれがいいじゃろうな。お主、昨日は魔力を制御して自由に放出したり抑えたり出来るようになっておったの?」
「はい」
ジャリスさんの質問に俺は素直に答える。食後、俺は魔力の制御の仕方を覚えたので、それに慣れるべく自主練習をしていたのだ。今では精神を集中したり、特別な姿勢にならなくても、息をするように出来るようになった。ここまでなるのに平均一か月はかかるらしく、俺はジャリスさんに褒められたが、気のない返事をしてしまったのは仕方のないことだと思っている。基準が分からないから何とも言えないんだよな。
「今回やるのは、無属性の初級魔術じゃ。名を『強化』と言い、その名の通り魔力によって身体能力……筋力や膂力、体力や動体視力などを強化する魔術じゃ。あと怪我もしにくくなるし、ほんの多少じゃが回復力も上がるぞ。肉体労働者や戦闘をする職業なら全員、これを使えるのが必須と言ってもいいほどの簡単かつ有用な魔術じゃ。普段の生活の中でも歩いたりするのが楽になるぞ。中には洗濯や買い物に使う者もおるのう。ちなみにこれは昨日話した一般に普及している無属性魔術の一つじゃ」
そう言ってジャリスさんは立ち上がり、窓を開けると、窓の下に有った小石を拾い上げる。
「ためしにどんな効果があるか見せてやるぞ」
ジャリスさんがそう言うと、ジャリスさんの魔力が活性化するのが分かった。それがジャリスさんの全身に巡り、ジャリスさんの力となるのが分かる。また、活性化する前に、俺が作曲する時みたいに魔力が渦巻き、力を増すのも感じた。
「それ!」
ジャリスさんが窓の外に向かって小石を放り投げると、小石はものすごいスピードで飛んでいき、すぐに見えなくなった。しかも、見えなくなった段階でも結構な勢いで高さもあった。老人の身体ではこんなことは出来ないだろう。ましてや鍛えてもいなさそうだ。となると、やはり魔術の力だろうな。
「これを普段から使っておけばいいだろう、と思う者もたまにいるが、それは間違いじゃ。ちょっと発動するぐらいなら使う魔力は微々たるものじゃが、継続して使うとなるとそれだけ魔力を多く消費するのじゃ。だから攻撃を加える瞬間や重いものを持ち上げる瞬間、一瞬で距離を詰めたい瞬間などに使うとよいぞ。また、使う魔力が多いほど効力が上がるから、状況に応じて半ば反射的に適切な魔力を使用することでよりよい効果を発揮するぞ。それと、こればかりに頼っていると筋力などが衰え、いざという時に困るから気をつけるのじゃ。注意点は以上かの」
そう言うと、ジャリスさんは椅子に座り、俺と向き合う。
「魔術を使うのにおいて、魔力とイメージは重要じゃな。また、魔力は量の他に質も必要じゃ。ただあるままの魔力をそのまま使うと効力が半分にも満たなくなるぞ。そこで、より魔力の『質』を高める方法が『錬成』と呼ばれるものじゃ。先ほど、儂の体内で魔力が渦巻き、そこから魔力が全身にめぐるのを感じたじゃろ? この魔力が渦巻いているときに、魔力は『錬成』されるのじゃ。といっても、お主の場合は既に昨日の段階で魔力を錬成しておったからのう、すぐできるはずじゃ」
ジャリスさんの説明を聞いて、俺は頷いた。どうやら、俺はまだ神に見放されていなかったようだ。異世界に飛ばされたと気付いた時は混乱したが、こうして凄くて優しい人にお世話になり、どうやら魔術の練習についてもフライング気味に習得していた。かなり運がいいだろう。
俺は早速魔力を錬成してみる。いつも通り、体の中で魔力が渦巻くのが分かる。それと、魔力が渦巻いているときに力を増すのが感じた。これをこのまま放出するのが昨日の夜までの成果だ。しかし、今回はこれを活性化させ、全身に巡らせて身体能力を強化させるところまでやるつもりだ。
イメージとしては、魔力を体の活力……エネルギーのようなものと捉えて後押しさせる感じだろうか。力を入れると血の流れが速くなるのと同じ感じだろう。
「『レインフォース』」
全身に錬成した魔力が行き渡るのを感じると、俺は魔術の名前を詠唱する。その瞬間、魔力が活性化し、全身が熱く、軽くなるのを感じた。
「むむぅ……お主は凄いな。まさか一発で成功するとは。やはり、音楽をやっているだけあって想像力は高いようじゃな。どれ、そのままちょいとこの石を投げてみるのじゃ。外に向かってじゃぞ。あ、今のまま魔力を使う量が多すぎて洒落ならんからもっと使う量を抑えるのじゃ」
ジャリスさんに小石を渡されてそう言われたので、俺は全身に巡る魔力の量をかなり抑えた。
「それっ!」
窓の外に向けて小石を放り投げる。投げる瞬間は自分でも面白いほどに体が軽く、腕も力強く振れた。小石もとんでもないスピードで飛んでいき、すぐに視力が追い付かない範囲まで飛んで行った。俺は体への魔力の供給をやめ、ジャリスさんの方を向く。
「うむ、成功じゃな。その魔術で魔力を上手く操れば、体の一部分強化なんてこともできる。目に集めれば視力が上がるし、足に集めればより速くなるし、内臓に使えば強くなるぞ。といっても、発動している瞬間だけじゃがの」
ジャリスさんは満足げに頷いて、そう補足をしてくれた。ためしに目に集めてみると、結構遠くまで見られるようになった。あ、今詠唱忘れたけど上手くいってたな。
「お主、今さらっと無詠唱でやりよったな……。そんな風に、感覚を覚えれば自然に出来るようになる。さて、時間が大分余ったから他にもいろいろ教えるかの」
ジャリスさんはそう言って、本棚から本をいくつか抜き出した。