オーバーチュア
以前こちらで投稿させて頂いたものを削除し、再投稿したものです。
以前とは大幅に場面がカットされております。
「はい、この通り!」
俺が手を開いて隠していた『トランプのジョーカー』を見せると、それを見ていた観客はどっと盛り上がる。
「それでは皆様、ごきげんよう。お粗末さまでした」
俺がそう喋り、格好つけて一礼すると、盛大な拍手が鳴り響き、俺が作曲した幻想的かつ壮大な音楽とともに舞台が終了する。
「ふぅ……上々だな」
緞帳が下がり切るまで頭を下げ続け、観客の視界から俺が消えたところで顔を上げ、一息ついて呟いた。
そうして、俺は先ほど使ったトランプ一式を箱にしまって学ランのポケットに突っ込む。
俺の名前は神楽遊助だ。この高校に通う一年生だ。
俺が先程までやっていたのは、文化系の部活動での校内定期発表会の演技だ。俺は特技を活かして『手品部』と『吹奏楽部』に所属しており、どちらでもいい感じの地位を占めている。
特に手品は好評で、俺は学校中で『手品師』との渾名を貰っている。また、『奇術師』と呼ばれていたりもする。
そう言って、見た目以上に『重い』制服を一旦脱いでストレッチをする。一通り体がほぐれてくると、また俺は重い制服を着て、前のボタンを止める。
「さてさて、じゃあ控え室にでも行きますか」
わざわざ体育館でなくて近くの市民館のホールを貸し切って行われるこの発表会は、演目のグループごとに控え室が用意されている。
このあと、ほかの演目を見るのもいいが、しばらくゆっくりと読書でもしていたい。読『書』というと語弊があるかもな。実際はスマートフォンで異世界トリップ物の小説を読むだけだ。
愉快、痛快、爽快。まるでRPGで勇者になったかのような満足感が気軽に得られる小説は好きだ。といっても……自分がなりたいかは疑問といえば疑問か。そのあたりは大体の主人公と同じ考えのようだがな。
舞台裏特有の暗さの中、すでに始まった別のグループによる演目の邪魔にならないよう、明かりをつけずに階段を下る。その時、
(あ……れ……?)
いきなり視界が真っ白になり、意識が曖昧になってきた。体の力が抜け、崩れ落ちる。
(や……ば……)
力が入らないまま階段から転げ落ちる。その衝撃で、俺はどんどん視界が白から黒に染まっていくのがわかる。
(これ……は……)
転げ落ちていく中、必死に体勢を整えようとするも無意味。
そして、
俺の視界と意識は完全に真っ黒になった。
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遊助が気を失っただいぶあと、遊助が行方不明になったと学校関係者の間で大騒ぎになった。警察沙汰にまでなるも、結局、行方不明になった遊助は見つからなかった。