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夢の中のお話

作者: 永遠

今でも忘れることができない、夢の中で出会った少年の話。




みのりは小学校4年生の友達が少ない少女だった。動物や花に優しく、根は悪い子ではないのだが、無表情でいることが多いため周りの子には暗い子だと誤解されていた。


夜になると、いつも通りみのりはベッドで眠りについた。




「ここは…どこ?」


気づくと日差しがかかる森の中に迷い込んでいた。しばらく前に進むと、大きなお屋敷があった。


「お腹すいたな…誰かいないかしら」


ドアをノックしてみたが何の反応もなかった。鍵が開けっ放しだったので、そっとドアを開け「誰かいませんか?」と尋ねてみた。


「いらっしゃい、お嬢さん」


声がした方を見ると、整った顔立ちの少年が立っていた。


「君をずっと待っていたんだよ、さぁ入って」


少年はみのりを迎え入れると個室に案内して、暖かい紅茶とお菓子を運んできた。


「わぁ、美味しそう」


「どうぞめしあがれ」


みのりは甘くて可愛いらしいお菓子を、美味しく味わった。


「食べ終わったら遊ぼうね」


「あの、お兄さんは…誰なんですか?」


「そんなこと、気にしなくていいんだよ。ここは自由な世界。君の望むものがすべてある」


「でも、食べ終わったら帰らなくちゃ…お母さんが待ってるから」


「いいから、遊ぼう?僕のことが嫌いかい?」


みのりは少年に手をひかれて、ダンスルームに移動した。


「ほら、踊ろう、…君は笑った方が可愛いよ」


いつの間にかみのりの格好は、綺麗なドレスに変わっていた。


みのりと少年は広いダンスホールでたくさん踊った。


「みのり、今度はみのりの好きなお人形で遊ぼう」


「どうしてわたしの名前を知っているの?」


「そんなこと、気にしなくていいんだよ。みのりにこのお人形をプレゼントするね」


「でも、そろそろ帰らなくちゃ」


「だめだよ、帰ってはいけない」


「どうして、ずっとお外が明るいの?」


「ここには夜はこない。君の理想の世界だから」


少年は笑顔でそう言った。


「そろそろディナーの時間だね。みのりの大好きなハンバーグだよ」


目の前にはジュージューと音をたてる美味しそうなハンバーグ。


「みのりと一緒に食べるご飯は、美味しいね」


「ほんとうだ、すごく美味しい…」


ここは、現実の世界なの?本当に帰らなくてもいいのかな。


「ごちそうさまでした」


そうだ、ここが私の理想の世界なら何をしてもいいんだ。


「そうだよみのり、ここは君の世界なんだから」



暖かい日差し、豊かな緑、おいしい食べ物


うるさい人間もいないし、悪い人もいない


ここってなんて素敵な世界なのかしら



「お兄さんの名前は、なんていうの?」


少年は一瞬、困ったような表情をした後、ゆっくり口を空けた。


「僕には名前がないんだ。君がつけてくれるかい?」


「うん、じゃあ○○○」


「素敵な名前をありがとう、みのり」



『みのり、起きなさい、みのり!』



「!!この声は・・・」


「お母さんがわたしを呼んでる・・・行かなきゃ!」


「だめだよ、行ってはだめ。行かないで」


「大丈夫、またくるから」


「もう、戻ってこれないかもしれない。それでも行くの?」


「ごめんね、ずっとはいれないの」



「みのり、これだけは覚えていて、僕の名前は○○○。君がつけてくれた名前。君が行ってしまったらきっと忘れてしまう名前。だけど、もう一度思い出したらきっと会えるから」


「どうして、忘れてしまうの?」


「僕は君だから、君が大人になるにつれてこの世界も変わるんだ。だからいつか思い出して、この世界を」



少年がだんだんと遠のいていく、暖かな世界が歪んでいく。



「またいつか、会おうね」




目を覚ますと、鬼の形相をした母が立っていた。


「何時だと思ってるの?早く起きて学校に行きなさい!」


「あれ、名前・・・思い出せない」


「名前?なんだか知らないけど、早く準備して!」


「はぁい・・・」




みのりはそれから数年その夢を見ることはなかった。


名前はずっと思い出すことができなかったが、それでも少年のことはずっと忘れなかった。


「大人になったらお嫁さんにしてくれるかな。ああ、あれはわたしなんだっけ」


不思議な不思議な世界の夢は、まだ少女の元にくるのだろうか。




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― 新着の感想 ―
[一言] どことなく切なく、私自身の過去に体験したようなものを感じ、惹かれました。 夢って起きると思い出せなくて、何か寂しい気持ちになる、そんな儚く切なく、そして美しいモノをこの文から感じました。
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