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第二章‐1

 そして迎えた日曜日の昼下がり、倉嶋(くらしま)篤志(あつし)は、数日前の学校帰りに委員長こと蒲郡(がまごおり)紫子(ゆかりこ)と一緒にお茶をした洋菓子店に寄ってケーキを手土産に買い、電車に乗ると、セレストラル星系連邦陸軍第六辺境警備師団第二連隊第一大隊第八小隊駐留基地に向かった。記憶力には自信があるので、先日の念話通信でエリカから教えてもらった住所は暗記している。だが、方向感覚には自信がなかったので、教えられた最寄り駅からその住所までの地図をインターネットを使って検索し、それをプリントアウトして持ってきていた。電車から地下鉄へと乗り継ぎ、三十分少々で辿り着いたその最寄り駅から地上に出る。戦前からあるのではないかと思ってしまうような古びた民家や商店と、見上げるような真新しい高層マンションが入り乱れて建っている、なんだか不思議な街だった。彼の住む、下町らしい街とはまた違った感じだ。その街を地図を片手に歩くこと十分ほどで、奇妙なものが視界に入ってきた。

「なんだ、あれ……? レドームってやつか……?」

 二階建ての古びたアパートの屋根の上で、その年期の入った木造建築には全く似つかわしくない、SF映画等で見掛けるような円盤状の巨大なアンテナがゆっくりと回転している。エリカが住所を教えてくれた際に、近くまで来ればわかると思う、と言っていたのだが、どうやらこのことらしい。周囲の様子を見回し、手元の地図に視線を落として現在地を確認する。目的地までの距離はすぐそこだ。方角も合っている。なにより、あんなに目立つ目印は、他には見当たらなかった。ほぼ確実に、あそこで間違いないだろう。篤志はそのアパートに向かうと、錆の浮いた鉄製の階段を上り、エリカに教えられた通り、二階の一番手前の部屋のドアの前に立った。表札は出ていないが、今どきではそう珍しいことでもないだろう。ドアチャイムが見当たらなかったので、古びた木製のドアをノックしてみた。

「はーい」

 中から聞こえてきた涼やかな声音の返事は、エリカ=デ・ラ・メア=ブラウスパーダ少尉の声で間違いないようだ。篤志はドアに向かって名乗った。

「アッシュだけど」

 篤志は、彼女たちの間では『アッシュ』で通っている。

 ギーッと蝶番が軋む音を立ててドアが開き、長い金髪をポニーテールにまとめた、先日と同じような清楚なブラウスにパンツルックで、その上からエプロンを掛けたエリカが顔を覗かせた。その顔に笑みを浮かべて会釈する。

「いらっしゃいませ。わざわざ、ご足労をお掛けして申し訳ありません」

「いや、いいよ。どうせ暇だ」

 篤志はそう返事をしたが、半分は嘘だ。用事がなければ、今日一日、アルバイトに精を出しているところだろう。

「先日はお見苦しいところをお見せしまして、失礼致しました」

「あ、ああ……」

 少し照れたようにエリカが言った。すぐに、先日の念話通信のときの勘違いの慌てぶりのことだと理解し、曖昧な相槌を打つ。篤志は反射的にエリカの湯上り姿を思い浮かべてしまい、それを彼女に悟られないように、速やかにその想像を頭から追い出した。そんなことを考えているとは知らないエリカが、一歩引いて、篤志を玄関に招き入れる。

「どうぞ。お上がり下さい」

「おう。お邪魔するな」

 エリカに促されて、篤志は玄関に入り、後ろ手にドアを閉めた。エリカが、彼の顔の眼鏡に目を留める。

「あら。アッシュ、目がお悪かったんですね」

「ん? ……あぁ、そっか。この前のときは眼鏡を失くした後に会ったから、眼鏡を掛けてるのを見るのは初めてなのか」

 篤志は、なんとなく眼鏡の位置を直しながら独り言のように呟いた。少し気になったので、尋ねてみる。

「……変か?」

「いえ、そんなことは。ただ、私どもの星では視力は手術で矯正してしまうので、この星に来たばかりの頃は見慣れなかったですね」

 エリカが軽く手を振って答えた。

「まぁ、この星でも視力矯正の手術は既に実用化されてるけど、まだあんまり一般的じゃないんだよ」

 靴を脱ぎながら、篤志は言う。話題が一段落したと見て、それよりももっと気になっていたことを聞いてみた。

「ところで、あの屋根の上のレドーム、あんたたちのか?」

「レドーム、とはなんですか?」

「円盤状のアンテナだ」

 聞き返してくるエリカに説明してやると、彼女は首肯する。

「はい。私どもの魔力監視装置のアンテナです。あのアンテナで、静止衛星軌道上の魔力監視衛星の観測結果を受信しています」

「へぇ、そうなのか。――じゃなくて、いいのか、あんなもん立てて?」

「勿論、このアパートの賃貸契約を結ぶ際に、きちんと、アンテナを立ててもよろしいでしょうか?と確認して、承諾を頂いています」

 エリカはそう答えるが、不動産屋も、まさかあんなものが立つとは思ってもみなかっただろう。そう考えて、篤志は苦笑を押し殺し、彼女の為に、それについてのコメントは差し控えておくことにする。

 エリカは、玄関のすぐ脇にあるキッチンでなにか料理をしていたらしい。とろ火にしたコンロに鍋が掛けられていた。それを目にして、篤志は、ふと口を開く。

「今日は外の仕事じゃないんだな」

 まぁ、自分でこの日時を指定したのだから当たり前だろう、と篤志は思ったのだが、エリカの答えは彼の予想の斜め上を行くものだった。

「えぇ。今日はお客様をお迎えするので、とお話しして、午後から、アルバイトはお休みを頂きました」

「……アルバイト?」

 怪訝そうに問い返す篤志に、エリカは、しまった、という顔をする。篤志は、さらに問い掛けた。

「あんたたち、軍人なんだろ? 給料出てるんじゃないのか?」

 追求されて観念したように、エリカは俯き加減に言葉を紡ぐ。

「はい。勿論、俸給は頂いておりますけれど……、このような辺境地域の未開惑星の、しかも統一政府も存在しない星の中の一国家の通貨などは、どこの銀行でも両替を取り扱っていないもので――」

 『銀行』とは、彼女たちの文明圏であるセレストラル星系内の銀行のことだろう。異星文明の存在が公に知られていないこの星の銀行で、そのセレストラル星系の通貨を扱っているはずもない。それにしても、『彼女』もそうだったが、人の星を秘境の孤島かなにかのように言ってくれる。

「この星に赴任してきた当初は、本星で貴金属や宝石類を購入してきて、こちらでそれを売却してみたりもしたのですが、この星の鑑定書がないので、思っていた以上に安い値段を付けられてしまいまして――」

 最近よく見掛けるようになった、半端物のアクセサリー等の貴金属や宝石を買い取る店にでも持っていったのかもしれない。

「あまりにも換金効率が悪いので、結局、それは止めにしまして――」

「それで、任務のほうが暇だから、現地のアルバイトで生活費を稼ごうと?」

「……はい」

 エリカは完全に俯いてしまった。単純に興味本位で聞いてみる。

「なんのバイトやってるんだ?」

「商店街の……、お惣菜屋さんで……」

 エリカが、俯き気味に上目遣いで、少し恥ずかしそうに答えた。それを聞いて、篤志は、この金髪金眼の異国風の顔立ちの凛々しい美少女が、割烹着を着て三角巾を掛け商店街の惣菜屋のレジに立っているところを想像してしまい、必死に笑いを堪える。玄関のドアに右手を突いて俯き、声を殺して肩を震わせている彼に対して、エリカが表情を一変させ、むきになったように主張した。

「お惣菜屋さん、いいんですのよ!? 売れ残ったお惣菜を頂いて帰れますし、食費が助かりますわ!」

 なるほど。先日の夕食の大量の惣菜の出所は、こういうことだったらしい。篤志はようやく笑いを飲み込んで、らしくもなく荒ぶる彼女をなだめるように、包帯に包まれた右手を軽く上げた。

「いや、済まん。俺もバイトで生活費を稼いでるから、エリカの苦労はよくわかる」

「おわかり頂ければ、結構です」

 照れ隠しなのか、少し拗ねたように言うエリカ。そこで、ふと、先日見たこの基地の昼間の様子を思い出す。

「それで、エリカがバイトしてる間、アリーセはアニメ見て、サーニャはネット見て遊んでるのか?」

 まるで、ニートを二人も抱えたお母さんのようだった。

「それは……、あの()たちは、この国ではまだ働けない年齢なものですから……」

 エリカは二人を擁護するように答える。だが、篤志はそれを聞いて、すぐに思い付いたので提案してみた。

「どうせ、履歴書なんか偽造なんだから、年齢も誤魔化しちまえばいいのに」

「確かに偽造ですけれど、必要以上に虚偽を書くことは出来ません」

 それは如何にも、生真面目な彼女らしい答えだ。

(しかし、そうか……。履歴書どころか、ビザもパスポートも全部偽造だろうしな。彼女たちの星の資格なんかは当然通用しないから、ろくな職にも就けないし、勿論、保証人もいないだろうから、こんなボロアパートに住んでるってことか)

 篤志は一人、納得する。そこで、エリカは、はたと気付いたようだった。

「あぁ、申し訳ありません。お客様をこんな玄関先で、長々と立ちっぱなしにさせてしまいまして。とりあえず、お掛けになって下さい。今、お茶でもお淹れします」

「いや、話を長引かせたのは俺のほうだから」

 慌てたように言うエリカに、気にするな、と右手を振ってみせる。そこで、篤志のほうも気付いた。左手には、軽い紙箱を持ったままだ。まだ、せっかく持ってきた手土産を渡してもいなかった。篤志は、左手のケーキの紙箱をエリカに差し出す。

「あぁ、そうそう。これ、差し入れのケーキな」

「ケーキ!?」

 その単語を聞いて、ぱぁっとエリカの顔が明るくなった。今まで見た彼女の表情の中でも、一番の笑顔だったかもしれない。と、すぐにエリカは取り繕うように表情を引き締めた。こほん、と一つ、咳払いまでする。

「そのようにお気遣い頂きまして、かえって恐縮です。では、紅茶を淹れますので、皆で頂きましょう」

 受け取ったケーキの紙箱を大事そうにテーブルの上に置くと、エリカはヤカンに水を入れてコンロの火に掛けた。その動作がなんとなく、うきうきしているようにも見える。篤志はその様子を眺めながら、ダイニングのテーブルの椅子を引いて腰掛けた。居間のほうへ視線を移してみると、部屋の隅に置かれた、この古びたアパートの居間には似合わない、SF映画にでも出てきそうな、この星のミニチュアらしき球の立体映像(ホログラフィー)を浮かび上がらせている魔力監視装置が目に留まる。おそらく、今日もこれは警報を鳴らすことはないのだろう。居間のテレビの前のソファでは、先ほど自分たちが話題になっていたことも知らずに、アリーセ=フィアリス軍曹が、ミニスカートから伸びた縞々のオーバーニーソックスに包まれた足を投げ出すようにして腰掛けて、相変わらずアニメを見ていた。どうやら、少し前に流行ったバトルものの魔法少女アニメに夢中なようだ。テレビの中では、白いドレスの魔法少女がド派手な砲撃魔法をぶっ放していた。思わず、アリーセとテレビの中の白い魔法少女を、交互に見比べてしまう。

(リアル魔法少女が、魔法少女アニメ見てる……)

 メタな構図だった。

 そのとき、ガラリと音がして、居間から彼女たちの寝室へ続く襖が開く。反射的にそちらに目を向けると、サーニャ=ストラビニスカヤ伍長がそこに立っていた。

「ケーキという単語が聞こえました」

 寝ていたのか、銀髪のおかっぱ頭には寝癖がつき、いつもは無表情な碧眼も眠そうに半目になっている。おまけに、へその見える短いキャミソールにショーツ一枚の下着姿だった。しかし、何故かソックスは履いている。

「回れ、右!」

 エリカの号令と、篤志が背を向けるのとでは、どちらが早かっただろうか。寝惚けているのか、上官の号令が聞こえたせいで、サーニャまでもが後ろを向いていた。エリカが慌ててその背を押して、寝室の中へと押し戻す。

「サーニャ、ちゃんと服を着てきなさい」

 本当にお母さんのようだった。

「ケーキぃ?」

「うわっ!?」

 いつの間にか、アリーセが膝立ちでダイニングのテーブルの上に顔だけ覗かせて、くりくりした青い眼で篤志を見つめている。どうやら、見ていたアニメが終わって意識がこちらに戻ってきたところで、気になる単語が頭の上を行き交っていたことに気付いたらしい。

「あ、ああ。今、エリカが紅茶を淹れてくれるから皆で食べような」

「わぁい!」

 篤志が答えると、頭の右上で括った赤毛をぴょこぴょこ揺らし、飛び跳ねて喜ぶアリーセ。そんなサーニャとアリーセの様子に、篤志は、この子たちはどれだけ甘いものに飢えていたんだろうか、と少し不憫になる。

 やがて、ヤカンがピーッと音を立てて蒸気を噴き出し始めたので、エリカがコンロの火を止めた。それから、ティーバッグではなく、きちんと茶葉から紅茶を淹れる。その間に、少し興奮が醒めたらしいアリーセが、ダイニングのテーブルに両肘を突いて、篤志の顔を見上げるようにして言ってきた。

「眼鏡ぇ」

「ん? あぁ。変か?」

「うぅん。似合ってるよぉ」

 ファッションで掛けているわけではないので、似合っている、と言われてしまうのも微妙な気分だ。だが、似合わないと言われるよりは全然いいか、と思い直す。そもそもコンタクトレンズを入れずに眼鏡を掛け続けているのは、ある種のこだわりだろう。つまり、ファッションだと言えないこともない。アリーセとそんなやりとりをしていると、ガラリと再び寝室へ続く襖が開いて、今度はきちんと、先日同様のゴスロリ風の服を着たサーニャが姿を現した。彼女も、感情の見えない碧眼で篤志の顔を見て言う。

「眼鏡です」

「……いや、その話題はもういい」

「?」

 もう三度目になる同じ話題に篤志がそう言うと、サーニャは無表情のまま小首を傾げた。そんな彼女に、篤志は、気にするな、というように右手を振ってみせる。サーニャは、寝起きの為か、なんとなくぼんやりした雰囲気を漂わせて、こくんと頷いた。

「サーニャは眼鏡似合いそうだな。ちょっと掛けてみろよ」

 篤志は眼鏡を外してサーニャに差し出してみる。彼女は素直にそれを受け取って掛けた。アリーセがそれを見て、率直な感想を述べる。

「うん。似合うねぇ」

 物憂げな雰囲気の文学少女がそこに出現していた。

「次、あたしぃ」

 アリーセがサーニャの顔から眼鏡を取ると、今度は自分に掛けてみる。それを見て、篤志は吹き出した。失礼だが、マンガでよくあるような、おばかなキャラが無理に賢く見せようと借り物の眼鏡を掛けているようにしか見えない。

「あぁー、笑ったぁ!」

「悪い悪い」

 篤志は軽く謝罪して、アリーセから眼鏡を返してもらった。そんなことをして遊んでいるうちに、エリカが紅茶を淹れたカップと皿に乗せたケーキをトレーに乗せて、居間のテーブルに運んでいく。それを見た篤志たちも居間のテーブルを囲んで着席し、四人はケーキと紅茶でお茶会を始めることにした。

「ねぇねぇ」

 定番の苺のショートケーキを食べながら、右隣のアリーセが話し掛けてくる。

「『お兄ちゃん』って呼んでもいいぃ?」

 いきなり、大変な懐かれようだった。

「……なんで?」

「だってぇ、この国では、歳上の男の人をそう呼ぶんでしょぉ?」

「まぁ、確かに、呼ばないことはないが……、『お兄ちゃん』は止めてくれ」

 篤志は、アリーセの提案をやんわりと拒否する。しかし、アリーセは諦めずに、さらに言ってきた。

「じゃあ、『お兄ちゃま』でもいいよぉ? それとも、『兄くん』とか『兄チャマ』とか『兄や』とかのほうがいいぃ?」

「それ、もう、一般的な歳上の男性の呼び方じゃないだろ……」

「では、『お兄様』と呼びます」

「乗ってきた!?」

 先日の試食で気に入ったので買ってきたラズベリーのタルトを食べていた、左隣のサーニャまでもがそんなことを言い出したので、反射的に突っ込んでしまう。正面を見ると、いつもは大人びた落ち着いた物腰のエリカも、歳相応の少女のような幸せそうな笑顔を見せて、チョコレートムースケーキを口に運んでいた。さすがに彼女は、『お兄ちゃん』などとは呼んでこないようだ。だが、アリーセやサーニャを止めることもしてこない。そんなことよりも、目の前のケーキに夢中なようだった。

(ケーキの魔力、恐るべし……)

 そういえば、『彼女』もファミレスでパフェを幸せそうに食べていたな、と思い出す。あの委員長ですら、ケーキを食べているときはお説教が止んだのだ。どうやら、女の子が甘いもの好きなのは、どこの星でも共通らしい。

「……とにかく、兄呼ばわりは止めてくれ。今まで通り、アッシュでいい」

 篤志は軽く嘆息してそう言うと、自分の前のブルーベリーソースの掛かったレアチーズケーキにフォークを刺そうと――。

「じぃーっ」

 擬音を口にしながら、アリーセがこちらを見ている。正確には、彼の前のケーキを凝視していた。自分の苺ショートは、早くも食べ終わってしまったようだ。

「……食うか?」

「いいのぉ!?」

 篤志が聞いてみると、アリーセは満面の笑みを浮かべる。

「ずるいです」

 サーニャがフォークを銜えたまま言った。いつもの無表情も、なんだか睨むような雰囲気を醸し出している。

「わかったわかった。じゃあ、二人で半分こな。……あ、エリカも欲しいか?」

「いえ……、私は……」

 篤志が聞くと、エリカは、欲しいけどそれを言うのははしたない、と思っているのが見え見えの表情で否定した。彼は苦笑して、自分の前のレアチーズケーキを分配する為にフォークを入れる。

「じゃあ、三等分な。――って、難しいな、おい」

 なんとかケーキをだいたい三等分して、皿を差し出した。

「ありがとぉ!」

「ありがとう」

「……ありがとうございます」

 三人はそれぞれに礼を言って、皿の上のケーキに手を伸ばす。エリカはレアチーズケーキの欠片を口に運びながら、ふと思い出した。迎える客というのが男性だと知ったアルバイト先のパートやお客のおばさまがたから、男を落とすには胃袋を掴むのよ、と料理のレシピを教わってきたのだ。『落とす』という言葉の意味はよくわからなかったが、今、胃袋を掴まれているのは自分たちのほうではないのか、と思い至った。負けん気の強い彼女は、雪辱を誓って篤志を見据える。

「?」

 篤志は、何故、急にエリカに睨まれているのかわからずに首を捻った。

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