第六話 王都
ありがとうございます。
「ほう。いいだろう。相手になってやろう」
結局のところ、俺は三週間も引き籠っていた。食事はセバスチャンが部屋の前に置いていてくれたおかげで、自分の勉強と言うか研究が完成寸前に及んでいた。
そして、ある日。
俺は自分の理論が実証されることを願ってケイジさんに相手をしてもらった。のだが、引き籠っていたので、ある程度鍛え直してから相手になってもらった。
「さぁ、どっからでもかかってこい」
俺は槍を持って構えをとった。
槍の刃に魔法陣が出現し、俺は目を瞑って集中する。
「術式展開」
走り出す。
書き換え完了。
「必殺!『火炎突き』!」
刃は赤く燃え始め、槍に火属性が追加された。
このまま!
火属性付きの渾身の一撃。が、ケイジさんはその一撃を難なく刀で受け止めた。そこで炎は消え失せた。
魔法が解除されたのだ。
「ふむ・・・・」
ケイジさんは一度だけ頷いた後に一言言った。
「いいんじゃない?」
「そ、そうですか?」
「武器に魔力を流してそれを媒介にして魔法を発動させる。しかし、それには少しばかり力及ばず。だから、槍自身を強化するのが得策だと思ったんだろ?つまりエンチャント。付属魔法」
そう、ケイジさんの言っていることは合っている。
俺の戦い方は槍に追加魔法を付けて強化する。
「なるほど。足りない部分を付属魔法で補う。それが、お前の戦い方だな」
「はい。一応、俺みたいな人が他にもいるみたいなんで、そういう人達の資料を参考にしてみました。後は、試行錯誤で何とか」
ケイジさんは軽く言った。
「なら、この戦い方を特訓するしかないな」
「はい、方向性は決まったんで」
するとケイジさんは言った。
「じゃぁ、武器探しだな」
「武器探し?」
「いや、ほらさ。そうやって武器に魔法をかけるんなら、それに似合った武器というものがあるだろ」
「そういうもんですかね?」
「そういうもんだ。それじゃぁ、ちょっと王都まで行くか」
「王都って、リディアス王国ですか?」
「そうだ」
俺達は馬に乗って王都に出発した。ちなみに馬は武術を習っている時に熟知した。
王都までには半日かけて辿り着いた。
「ここが、リディアス・・・・・・」
目の前には活気が良く、賑やかな街並みが広がっていた。その奥には巨大な城が建っていた。
「そう言えば、ユウトは初めてだっけな?王都」
「はい」
「説明はいらんと思うが、ここが大国の一つであるリディアス王国だ。人口はおおよそ三百万。隣国のミストラル帝国とも魔王軍残党討伐のために同盟を結んでいる。いい所だ。ここじゃぁ、馬だけが移動手段ではない」
見れば巨大な塔に飛行船が着いていた。
「あれが、魔力で動いている飛行船だ。艦砲射撃も結構な威力があるんだぜ?他にも、魔道銃と呼ばれる銃もあるんだぜ?」
「銃って・・・」
「まぁ、俺達のいた世界の銃ではないことは確かだな」
俺はケイジさんの後ろをついて行き、少し薄暗い路地に足を踏み入れる。
「おーす」
その薄暗いドアを開けた。
そこには剣や槍。銃や杖が置いてあった。
「武器屋?」
「そうだ。そんじょそこらの武器とはケタ違いに強力だ」
「あら、元帥殿が部下を連れて来るとは珍しいことじゃない?」
奥から一人の女性が現れた。
長い黒髪で大人の女性である。
「私の名前はアディア・グラフ。この武器屋の店長をしてるわ」
「ユウト・サカキと言います」
「ユウトは俺の弟子だ。部下なんて俺は連れて歩かんからな」
「そう、弟子かぁ。いいねぇ」
と、ウィィィィィィという音が聞こえる。
「ミストラル軍の飛行船だな。最近多いんだ」
「まっ、飛行艦隊の保有量はあっちの方が多いし。魔王を倒したからって言っても、残党が残っているんだから仕方ないんじゃない?」
「へぇ、魔王って最近倒されたんですか?」
すると、アディアさんがニコリと笑って、
「いい質問だねぇ。今から三年前。魔王軍は全軍で私達を攻撃して来たんだ。近隣の国々は次々と滅んでいったよ。各国は連合軍を組織して反撃に出たが、そう上手くもいかなかったんだ」
次はケイジさんが言い始めた。
「すると、一人の勇者と名乗る者が現れ、魔王軍を次々と撃退したんだ。連合軍は勇者と共に魔王城を総攻撃。勇者は激闘の末、魔王を打ち滅ぼした。この戦いには俺も出たぞ」
「そうよ、ケイジが私の作った剣折って帰って来たのよ」
そう言ってアディアさんはぷんぷんと怒る。
「悪い悪い。あの件は謝っただろ」
「まぁ、いいけど。それで、魔王は倒したんだけど、どうもその残党がまたいてね。連合軍的には、兵士を帰還させたのにまた魔王がいる大陸。つまりこの大陸まで派遣するのがしんどくてね。そこで、この大陸に国を構えているリディアス王国とミストラル帝国の同盟国が残党を討伐することになったのよ」
「なるほど。それで、帝国の船が引っ切り無しに国の上に飛んでるんですね」
「ええ、同盟国と言うよりも一国と言う方がいいわね。今じゃ、向こうの民間人だってこっちになだれ込んでいるのだから」
「それは向こうも一緒だよ」
なるほどと頷いてから、店内を見渡した。俺はふと惹かれる一本の槍を見た。
「手に取っていいよ」
その槍を手に取る。
刀身は美しく銀に輝いていた。突くだけではなく、斬るにも適した刃を持っている。俺が丁度欲しい槍だった。
「それが、欲しいのか?」
「そうですね・・・・何と言うか・・・・」
「確かに。ユウト君の好み的にはいいんじゃない?」
「好みって・・・・」
「あら、年上好きって感じするけど?」
何だこの人。
「これにしようかな?」
「ん、それな。いくら?」
「えーとっ、三百万ゼル」
「高くねっ!」
ちなみにゼルは通貨である。
「いい槍なの」
「ちょっ、ケイジさんそれくらい自分で払いますよ」
「バカか。三百万なんてお前に払えんだろう。それに、弟子の面倒ぐらい師匠がみねーとな。金は後で持って来るわ」
まいどーと言ってアディアさんは送ってくれた。
「すみません。こんな高価物勝ってもらって」
「いいよいいよ。金はお前が将来払ってくれればいいさ。それまでの貸しだ」
「はい!」
俺は槍を布に包まれた状態で両手でしっかりと持ち、ケイジさんの後ろを付いて行く。
「それで、次は何処に行くんですか?」
「そうだな・・・・王様にでも会うか」
「えっ、難易度高くないですか?」
「流石にいきなりはマズいか。まぁ、いずれ会うことになるだろう」
「は、はい・・・」
その後、ケイジさんと王都を回った。
結構楽しかった。
ありがとうございました
やっと主人公の準備が整った感じです
徐々に物語が始まります