第五話 術式
知っての通り、この物語のタイトルは「きっと明日は来る」でしたが、作者のいろいろな事情によって「バトルフロンティア」と改名しました。
「良いですか?魔法というのは全身の魔力に自らが命令して発動させるものです。その命令を出す決まった式のことを術式と言います。術式は決まった式ではなく、そこにアレンジを加えることによってオリジナルの魔法が発動することが出来ます」
「つまり、応用魔法ってことですか?」
セバスチャンは軽く頷いた。
「ユウトさんが何故魔法が使えないのかというと、その術式が分かっていないからです。ケイジさんは少々説明が大雑把しすぎたんですね・・・」
若干呆れ顔だった。
「ですが、大体の魔力の流れは殆どの人が感で行っています。そこは・・・・」
「やっぱり、その感覚が掴めてないだけですかね?」
「はい・・・・」
ぐはっ!
「そうだ!じゅ、術式はどうやったら書き換えることが出来るんですか?」
そうだ。魔道書に書かれている魔法が使えないのなら、こっちで勝手に使ってやる。
「ほ、本当にやるんですか?」
「やりますやります。他に、他にないんです。何でもしますから!」
セバスチャンは苦笑いして言った。
「術式の書き換えはかなり難しいですよ?」
「やります!」
俺の必死な頼みに、セバスチャンは重く頷いた。
そして、一冊の本を持って来た。
「これは、あなたと同じ魔力があるのに発動出来ない者が書いた本です。そこには、術式を書き換える術が書かれています」
セバスチャンは本を開いた。
覗いてみたが、チンプンカンプンだった。何が書いてあるのか意味不明であった。
「そして、これがこの世にある魔法の存在する術式になります」
そう言って、更に数十冊の本を持って来た。
「多いですね・・・」
「魔道書を書く人は自分の考えた魔法を記載します。基礎魔法は数百種類以上あります。それらを参考にするのもいいですね」
「色々抜粋していくしかないよね」
俺は魔道書を何冊かパラパラと見る。
「ほぇぇぇ、色々あるんだな」
取り合えず、俺は術式の本に目を通した。
呪文のような意味不明な文字が羅列している。
「止めときますか?」
セバスチャンはニッコリと笑った。
「ふっ、何を言う。俺の名はユウト・サカキだ。これぐらいのこと問題ない!」
俺は意味不明の文字を読み始めた。
ふむふむ・・・・。
「さっぱり分からん」
二週間後。
「ただいま。三日とか言ったけど、かなり長引いた」
「いえ、そんなことはありません」
「それで、ユウトはどんな感じなんだ?」
「どんな?と申しますと」
ケイジが帰って来た。ユウトはあれからずっと部屋に籠って魔道書を只管読んでいた。
セバスチャンはこれまで話を説明した。
「なるほどね」
「ええ、私も感心しました。たった三日で基礎の術式を覚え、一週間後には五式魔法の術式さえも解析してしまいました。本人には使えないのに、本当にやりますよ。王都に行けば、学者の称号を得ているかもしれませんね」
「ああ、確かにそれは驚いた話だ。楽しみだな」
ケイジはユウトの部屋を覗いた。
そこには懸命に魔道書に向かう姿があった。
「ふふ、昔のケイジ様を思い出します」
セバスチャンは笑う。
「あんなもんだったか?」
「はい、私がケイジ様に宮廷で仕え始めた時はそれは熱心に魔法や武術について勉強していましたよ」
ケイジはぷぷと笑った後、飯にするぞとユウトに声をかけた。
魔法方程式は案外すんなり頭の中に入った。
「えっと、後は発動時の演算式を・・・・タイミングはこれで合ってるな。てか、発動出来ないから意味ないか。じゃぁ、ここを体じゃない媒介に出来るものがあれば?」
そもそも俺自身は魔力を操作することは確認したが、魔力を火や氷と言った物理的なものに変換することが出来ないのが一番の問題だ。だから、発動させるのを俺の身体ではなく、違うものにしたらどうだろうか?
例えば槍とか?
「いけるんじゃね?」
魔力を槍に流し、槍を媒介にして魔法を発動させる。
「けど・・・」
俺は紙に書かれた術式を見つめ直す。
「試す価値はあるか?」
いや、それ以前に俺の身体で発動出来ないからって言って、槍を身体の代わりにしても発動させることが出来るのか?
「くそ・・・・分かんねぇ」
ベットに寝転がり大量の資料を見る。
疲れたぁ。眠たい。てか、ダルい。
掌に魔力を集中させる。ここまでは安定しているが、発動させようと物理的なものに変換させようとした瞬間四散した。
「ダメか・・・・」
術式を見ることは出来る。式を理解することは出来ている。それを書き換えるのもある程度は出来るが、どうしても発動が出来ない。
やっぱ、試してみるか。
俺は起き上がって槍を握った。
槍に魔力を流す。安定したところで術式を展開した。魔法陣が刃の部分に小さく出現した。
これを書き換える。
魔法陣を操作し、全く違うものに変換した。これで、氷の魔法が発動できる筈である。
「おらっ!」
魔法を発動させた。
すると、氷の塊が出現して本棚に突き刺さった。
「・・・・・・・・・」
二秒の沈黙。
「おおおおおおおおおおおっ!」
館中に広がる声で、歓喜を上げた。
「出来たぞ。やった!やっぱり、やる価値はあったか・・・・へへ」
人生初の魔法発動に俺は顔がニヤケてしまった。
「これで、俺も魔法使い・・・・」
待て待て。俺の武器はこの槍だ。なら、この槍は杖みたいなもんか?
刃が生えた杖だと思えばいいのか。
けど、魔法を使うのに長けてない俺にとっては強力な魔法を発動させるには時間が掛かり過ぎるな・・・。
オリジナル魔法を発動させるにも、書き換えるのが長くなる。
「簡単な魔法ならいいが・・・・」
武術専門の相手が敵ならば魔法は不利か。集中しないといけないし、隙が多い。その分、魔道士は詠唱が速かったりするしな。
本職じゃない俺にとってムリに魔法を使うよりも武術で対抗する方がいいな。
「おーい、飯だぞぉ」
ケイジさんが部屋に入って来た。
「おおう!何がどうなってんだ」
「ふっふー、俺にかかれば魔法の一つや二つ何てことありませんよ」
ケイジさんは大量の資料を見ながら感心していた。
「まぁ、無理はするなよ。久々に帰ってみればかなり無理しているみたいだしな」
「いえいえ、俺が異世界に来てそろそろ二ヶ月経ちます。俺も俺なりの生き方を模索しないといけませんし」
そう言って俺直筆の紙を束ねて机に置いた。
そこには術式に関する理論と、魔道具について資料がまとめていた。
ありがとうございました。
次はユウトの戦い方です。
次回もよろしくお願いします。