第三話 決心
ありがとうございます!!
男は俺に背を向けたまま言った。
「お前は、生きたいか?」
「へ?」
いきなり槍を向けられた。
「お前は!生きたいのか!」
「い、生きたいです!」
「そうか。なら、着いて来い」
「・・・・・」
けど、俺は行こうとしなかった。
「どうした?」
「ま、待ってくれ!せめて、せめてこの人達を埋葬出来ないのか?」
「分かった」
男は軽く頷いて、自警団とシャドさんの遺体を埋めるのを手伝ってくれた。
手を合わせ、一礼をした。
「さっ、着いて来い」
何となく着いて来たが・・・どうなんだ?
助けられたのは感謝している。無警戒しすぎないか?
それでも俺は足を止められなかった。
俺と男との間は大よそ三メートル。それ以上はひらかなかった。
本能的な感覚だった。この男とこれ以上距離を作れば死ぬ。
「ジャァァァ・・・・」
よく見れば木や林の影に隠れている獣や魔物の声が聞こえる。
いわばテリトリーだ。この森で恐らくこの男は最強。だからこそ誰も、何も襲ってこない。
本能が察知しているのだ。
これ以上近づくことは出来ない。と。
「着いたぞ」
通されたのは森の中にポツンと洋館が建っていた。
「何をしている?」
俺は誘導されるように足を動かした。
中は広く、豪勢な金属器や綺麗な絵画で飾られていた。
「あの・・・・」
男は振り向いて言った。
「俺の名は風間圭司。この世界ではケイジ・カザマと名乗っている。単刀直入に聞こう。お前も異世界人なんだろ?」
後姿ばかりでよく見えなかったが、俺と同じ黒髪で、今まで見たことのない黒の瞳をしていた。感覚で分かる。
「お、俺は・・・・俺は・・・・・」
そうだ。
俺は何処か勘違いしていなかったか?表向きはこの世界で生きる!とか言って、結局のところ覚悟も何にも出来ていなかったんじゃなかったのか?
ついさっきまで死にそうになりながら、一体どうしたいんだ?
「俺もお前も同じだよ。ある日事故に巻き込まれ、目が覚めればここにいたんだ」
「どういう・・・・」
「結局は覚悟だった。俺がこの世界に飛ばされた時、一緒に二人程来たんだ」
「ほ、他にも!」
男は俺を応接室に入れてソファーに座らせた。
すると、メイドがやってきて紅茶を淹れてくれた。
「七年だ」
「え?」
「この世界に来てから七年になる。俺の時は兎に角酷かった。友人と旅行に行った時、信号無視をしたトラックが俺達の乗っていた車に衝突しやがったんだ。それで、意識が戻ればこの世界にいた」
俺と同じだ。状況は全く違うが、事故という面では一緒だ。
「それでだ。俺達三人は混乱したが、それも時間が解決してくれた。結局、俺以外の友人は死んだ。俺はこの世界が生きていくと誓ったが、二人とも一ヶ月経っても現実に帰りたいと言って、必死に帰る方法を模索した。俺は二人に引き換え、兎に角力を付けた。この世界で生き延びるための力を」
ケイジさんは真っ直ぐに俺を見て言った。
「そして、恐れていたことが起きた。二人は元いた世界を最後まで諦めず、俺達が拠点にしてた王都から出やがったんだ。外の知識なんてある程度しか持っていないのにな。そして・・・」
「そして・・・」
「魔物に襲われて死んださ。俺が行った時には遅く、残骸だけが残っていた。覚悟だったんだ。俺とあいつらの差はこの世界で一生を生きるかの覚悟」
「覚悟・・・」
「この世界じゃ誰も守ってくれない。自分で自分を守るしかないんだ。まぁ、あれだ。この世界で生きていくんなら、俺は一人でもこの世界を渡っていける術を教えてやれる。ないなら、何処かでひっそりと暮らすのも悪くないだろう・・・」
ケイジさんは立ち上がった。
「決まるまではここにいればいい。それと今日は休め。疲れただろう・・・整理も必要だ」
「そう、させてもらいます・・・」
俺は通された部屋のベットに倒れ込んだ。フカフカだった。かなり気持ちが良かった。
それとご飯も美味しかった。
俺は目を瞑った。
「今日は・・・本当に・・・・あったな・・・・」
色々。
シャドさんは死んだ。俺を庇って死んだ。死に際の言葉も聞けなかった。それはシャドさんに限らず自警団の人も一緒だ。
俺以外は皆死んだ。
ケイジさんは言った。この世界で生きるには覚悟が必要なのだと。
「覚悟・・・か」
疲れていたのか、俺は直ぐに眠りについた。しかし、確かに肩が震えていたことだけは覚えている。
最悪の目覚めだった。
体は重く、頭が痛い。
「おはよう。朝食にするか?」
「あ、おはようございます。はい」
何とも美味なスープを胃に流し、パンを齧る。
「覚悟はついたか?」
俺は黙って首を振った。
「まぁ、俺としては何日いてもいいが、速いとこ決めろよ。それじゃ、俺は仕事に行くんで」
「仕事?」
「ああ、言ってなかったな」
ケイジさんは立ち上がる。すると、老人が一人出て来て剣を持って来た。その他メイド達はケイジさんに騎士のような装備を持って来ていた。
それをケイジさんに着せていく。
「あなたは・・・」
「俺か?俺はな・・・」
最後に剣を手に取った。
「俺はリディアス王国軍四大元帥の一人だよ」
元帥?
「何だ?知らねぇのか?まぁ、無理もないが・・・元帥ってのは、軍最強の称号を指すんだよ。今日は会議だ。それじゃぁな。ゆっくりしろ」
そう言って洋館を出て行ってしまった。
「何かあれば、この私に何なりとお申し付け下さい」
そう言って剣を持っていた老人が礼をして来た。
「えっと・・・」
「これは失礼をしました。私、セバスチャンと申します」
「俺はユウト・サカキだ。よろしく」
そう言って、俺はセバスチャンと握手をした。
「リディアス王国って・・・・」
「ええ、ここからそう遠くない場所にかなり大きなリディアスと呼ばれる王国があります。王は第四十五代国王エルド・グレイド。情があり、大陸の中でもかなり繁栄している国です」
「へぇ。けど、どうしてケイジさんはここに住んでいるんですか?」
「それが、ケイジ様の意向で。委員会は元帥がどうして王国に住まないのかは疑問に思っていますが、ケイジ様はうるさい場所はあまり好まれないと申していました」
「そうなんだ」
セバスチャンは言った。
「それでも、ケイジ様はあなたの事を随分と気に入っているようですよ。ケイジ様は助けた相手を泊まらせてくれる程、優しくはありませんから」
「そんな風には見えないけどなぁ・・・けど、ケイジさんと俺の素性は、皆は知っているんですか?」
「そうですね。異世界人というのはこの世界では一応は知られています。ケイジ様も異世界人というのを隠してはいません。しかし、それだけの実力がある為、元帥として選ばれたのです」
「この世界での異世界人との区別は・・・」
「黒の瞳。という点でしか・・・」
「なるほど。見つけるなら目を見ればいいのか」
俺は軽く頷いた。
「そう言えば、ケイジさんは結局どのような人物なんですか?」
セバスチャンはうーんと悩んでから言った。
「ケイジ様は傭兵として活躍していました。そして、国の仕事で大きな成果を上げた為、エルド王が直接声をかけられました。王が傭兵に直接声をかける。普通はどの世界もありえないことです。そして、王国の聖騎士となり、今では四大元帥の一人という訳です」
「つまり、最強ってことですよね?」
「はい。ケイジ様の武器。つまりあの剣。あれはデュランダルと呼ばれる伝説の中の伝説の武器。闇を払い、この世に光と栄光をもたらす剣です。本当にお強い。長話になりました。それでは、私は仕事に戻ります。何かあれば、直ぐに入って下さい」
「は、はい」
そう言って、セバスチャンは奥の方に消えていった。
「・・・・・・」
俺はそのまま外に出た。
太陽の光が眩しく、思わず手をかざした。その指の間から光が頬に指す。
命とは何か。生きるとは何か。実感が湧かなかった。
あの時、別に死んでも良いと思った。そう思いながらも俺はここにいる。どうして?
「分かんねーよ」
俺はため息を吐きながら芝生の上に寝転がった。
青い空をバックに白い雲がゆっくりと流れて行く。
仮に、もし本当に仮にだが、この世界が俺の死後の世界だとしよう。だったら、天国でもない地獄でもないここは一体何だ?
異世界の一言でまとめたくはない。
死後ではないのなら、俺は何故ここにいる?あの後、俺は一体どうしたんだ?
全く分からないことを俺はその一日ずっと考えていた。
太陽が傾き、オレンジに光るようになった。
俺は場所を変えて丘の上に寝転がっていた。
「なーんだかなぁ」
体を起こし、夕日を見る。元の世界じゃ見られない綺麗な夕日だった。
「こんなとこにいたんだな」
見ると、後ろからケイジさんがやって来た。
「仕事、終わったんですね」
「まぁな。魔王軍の残党に対しての作戦会議だったからな」
「魔王軍?」
「ああ、この大陸を支配していた魔族の王だ。丁度五年前に魔王ってのは人間の勇者引き入る連合軍に打ち破られたんだ。その残党ってのは・・・そのまんまの意味だ。そいつらが最近各地で暴れているらしくてな」
魔王軍の残党・・・そんなもんがあるんだな。てか、勇者いるんだ。
「何にせよ、俺は何も言わない。それじゃぁな」
そう言ってケイジさんは丘を降りていった。すると、一度だけ振り返って言った。
「考えるな。俺達はここにいて、ここの物を食って、ここで息をして、ここで生きているんだ」
そして、振り返ることなく洋館の方へ歩き始めた。
俺は空を見上げた。
「そう・・・だよな。俺は・・・・」
そうだ。
俺が生きている場所はここだ。元の世界じゃない!
「俺に、俺に戦い方を教えて下さい」
俺は深く頭を下げた。
ケイジさんはニッコリと笑って、明日から大変だぞ。と言った。
ありがとうございました。
次回はいよいよ本格的な修行になります。
修行が終われば、王都やらクエストやら色々やる予定です。