第二話 残酷な世界
ありがとうございます!
その日から俺の日課に槍を突くという習慣が増えた。一日百回以上。朝と夕暮れにするようにしていた。
おかげか、最近筋肉が付き始めている。
言い忘れたが、あれから三日後に王都から派遣された傭兵によってオーク達は討伐された。
村も安全になり、最近は平穏な日々が続いている。
「ふんっ!ふんっ!ふんっ!ふんっ!ふんっ!」
昼前、俺は特にすることもなく槍を突いていた。水無月曰く、日々の鍛練こそが奥義の秘訣。だそうだ。
結局のところ、こういった基礎をしっかりしないと、大きな技へは繋げれないということなのだろう。
俺はその言葉を信じた結果、一ヶ月程度で何とか槍を思い通りに操られることが出来るようになっていた。
見上げれば怪しき雲が空を覆っていた。
「・・・悪い予感がする」
第六感というのだろうか。そんなモヤモヤするものが胸の中で騒めいていた。
「お疲れ様です」
後ろを見ればシャドさんが籠を持って来ていた。
「お昼にしましょう」
そう出されたサンドイッチを食べる。コップに注がれた暖かい紅茶を飲む。
「ふぅ・・・旨い」
こうやってまったりする時間は時には大切だ。慌ただしい毎日も楽しいが、その中でゆっくりする時間はかなり貴重だし、良いものだ。
「ユウトさん。あなたの故郷というのは一体何処なんでしょうか?」
「故郷ですか・・・」
何か、こうして落ち着いた時にやっと思い出した。
そうだった。すっかり忘れていた。
日本、今頃どうなってんだろうな・・・・。
「俺の故郷はここからずっとずっとずっと遠くにあるんです」
「帰りたいとは思わないんですか?」
「はい、思いますよ。けど、帰る方法が分からないんです。俺はとある事故で意識を失って、気がつけばここにいました。だから、帰る方法が分からないんです」
すると、シャドさんは重い口調で、
「そうだったんですか、それは無神経なことを聞いてしまいました。すみません」
「いえ、そんなことないですよ。俺は俺なりの明日を目指しています。あっ、別に可哀想だなとか言わないで下さいよ。こういう喉かな毎日も好きですし」
「そうでしたか・・・・」
俺は立ち上がった。その次の瞬間だった。
眩い閃光が辺りを包み、光の柱が遠い森の中に出現した。
「何あれ?」
「あれは・・・」
後ろからシャドさんがやって来た。
「あの光は村の外れにある祠の封印が解けた印。速く避難しないと大変なことになる!」
「一体!あの祠に何が封印されていたんですか!」
「あれには・・・オルトロスが・・・・」
「オルトロス・・・」
確か、頭が二つある魔物だよな。
対して大きな奴じゃないはずなんだけど・・・。
「オルトロスはケルベロスと違って狼より少しだけ大きなサイズなだけで・・・あんまり脅威じゃ・・・」
「あそこに封印されているオルトロスの数は二十頭です」
「に、二十頭!」
一頭なら何とかなると思っていたんだが、二十頭は・・・。
「皆を速く避難させないと。あいつら脚が速いから」
そう言ってシャドさんは大声を出しながら村中を駆けまわった。
「俺もだな・・・」
俺もシャドさんや自警団と一緒に村人の避難を手伝った。
「シャドさん!オルトロスが川まで来ている。今、自警団が向かった」
「分かりました!僕も行きます!」
そう言ってシャドさんは走り始めた。俺も当然の如く後ろから付いて行く。
「ユウトさんは下がっていてください!」
「結局のところ、俺は一ヶ月もここに住んでいたんです。恩返しぐらいさせて下さい」
「わ、分かりました・・・・」
そう言ってシャドさんの隣を走る。
自警団は村を出て直ぐに遭遇したようで、村の入り口付近で戦闘していた。
「せいっ!」
飛びかかろうとしたオルトロスを一頭貫く。
「加勢します!」
「ありがてぇ!」
「こちらもかなり疲弊している。しかも二人もやられた。あんたらが来て七人」
「村人が逃げる間、どうにか持ち堪えないと」
「了解!」
自警団と俺とシャドさん。そして、二人の男を踏まえた七人は互いの背中を守るように円状の陣でオルトロスと戦い始めた。
俺はリーチが長い槍の為、向かって来るオルトロスの胸や口に次々と槍を突いた。
が、他の皆は片手剣だったりした為、一頭殺した瞬間横から来た一頭に腕を噛まれたりなど、かなり体力が削られていた。
どうする?このままだと全滅だぞ。どうにか残り十頭。けど、皆の体力が・・・。
「うっ、うわぁ!」
と、隣の男が隙を突かれて飛びかかられ、首に噛みつかれた。
「たっ、助けてっ!」
突いた時には遅く、目の前で血が飛び散る。
「・・・・死んだ・・・・人が・・・」
オークとの戦いで死んだ人は見た。
けど、目の前で自分のせいで死んだ人間は初めてだ。
そんな動揺を隠せず、俺は槍を落としてしまった。
その隙を突いて一頭のオルトロスが噛みつこうとした瞬間だった。
「しまっ―――」
俺を誰が突き飛ばした。
突き飛ばした本人はそのままオルトロスの牙を首に受け、大量の血を流しながら倒れた。
「え・・・・・シャド・・さん?」
そこには血塗れの青年が倒れていた。
決してそんなに長い時間を過ごした訳ではない。それでも、この世界に来て初めて知り合った人だった。
大した思い出もないが、それでも優しい人物だったと俺は思っている。
残酷なこの世界。
強い者が弱い者を喰らう。
単純だ。
この世界は俺がいた世界とは違う。力こそがものをいう世界なのだ。
自分を守れないのなら、他人すらも守れない。
身を持って感じている俺は、槍を握り直した。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
小さく呼吸をして、渾身の一撃をオルトロスの集団に向けて放つ。
動きを最低限にして!
速く!速く!
「お前らにやられるか!」
必要最低限の動きだけで犬を殺し、槍を振るう。
時を忘れ、自分を忘れ、呼吸をするのさえ、忘れていたかもしれない。全てを無にしながら、俺は槍を振り回した。
気が付けば終わっていた。
周りは血の海で、俺以外は何も動いていなかった。
人も魔物も誰も動かない。孤独の世界だった。
まるで、時が止まっているようだ。
「・・・・俺が、やったんだな・・・・」
真っ赤な掌を見て、俺は虚空の中で呟いた。
「ガルル・・・」
俺は全身の血が引くのが分かった。
やばい。今の俺は走る体力すら残っていない。
「くそ・・・・」
死を覚悟した訳じゃないが、俺は目を瞑った。
「・・・・・・」
ん?
「・・・・・ん?」
ん?
「・・・・・ん?」
死んでない?噛みつかれていない?
俺は自分が死んでいないことを確認し、ゆっくりと目を開けた。
「誰?」
そこには光る剣を持った一人の男の後ろ姿があった。
ありがとうございました!!
次回も出来るだけ速くに投稿したいと思っていますww