第一話 始まりの始まりの、そのまた始まり
第一話になります。
変な部分があるかもしれませんが、最後まで読んでもらえると幸いです。
「坂木優斗!」
正面から放たれたハイキックを難なく避ける。
「避けるな!」
二度目のキックは腕でガードする。
「防ぐな!」
「あっ、靴紐が・・・」
三度目のキックもヒョイと回避する。
「避けないバカが何処にいる?」
キックを放った張本人はそのままつまづいてコケてしまった。
「くぅぅぅぅぅぅ・・・・」
俺の目の前で涙目になっているのは、ここの生徒会の副会長。水無月綾乃である。
美しい栗色の長い髪を揺らしながら、俺を睨んでいる。
「どうした?副会長?」
「あれほど窓から登校するな!っと、何度言えば言うことを聞いてくれるんですか!」
「はいはい、気を付けますよ」
そう言ってさっさと行く。後ろでは副会長がギャーギャー騒いでいるが、取り合えず無視という選択で間違っていない。
教室に入れば友人達が言う。
「まーた副会長と何かあったのか?」
「いや、遅刻寸前だったからよ。窓から入ったら、校則違反だ!って言って、いきなりハイキックして来てよ」
「そりゃ、お前が悪いだろ」
「まぁ、喧嘩する程仲が良いって言うし」
そんな他愛もない平穏な日常が、この日突然終わるなんて、俺はその時は思ってもいなかった。
ちなみに俺の名は坂木優斗。とある高校のとある一年生である。
副会長とは・・・まぁ、悪い因果関係である。
放課後。
いつものルートを歩く。
「それじゃぁな」
「おう」
友人と別れ、家へと帰る。
と、道路を渡ろうとした時だった。
「あ、副会長じゃん」
見ると、水無月綾乃が本を読みながら横断歩道を歩いていた。
声をかけようと歩くが、赤信号なのに減速しないトラックが気になった。 徐々にスピードも上がっているし、止まる気配がしない。
水無月はそのことに気付いていない。ここから声かけても遅い。
「くそっ!」
自慢の脚力を使って、水無月に向かって走り出す。思った通り、トラックはスピードを上げたまま水無月に突っ込んで来た。
「え?」
水無月はトラックに気付いたが、突然のことで体が動かないようだ。その瞬間、俺は水無月を思いっ切り突き飛ばした。
同時に俺の体が大きな衝撃と共に空中にぶっ飛んだ。ありえない激痛が全身に走る。内臓は破裂し、骨はバキバキに折れているに違いない。
永遠ともいえる長い時間の末、コンクリートの地面に背中から落ちて行った。
「え、何で?」
薄らと見える視界の奥で涙を流している人物がいた。
「今回の教訓は・・・・・横断歩道でも・・ほ・・んは読まない・・・」
「バカ!こんな状況で何言ってんの!」
泣くなよ、副会長。
そう、最後の俺は呟いた。
「ん?」
目を覚ます。長い長い眠りから覚醒したような気分だった。
時刻は夕方のようだ。オレンジに輝く夕日が山の向こうへ沈んで行くのが見える。その夕日は今までに見た夕日の中で一番綺麗だった。
そんなことを思いながら、辺りを見渡す。
薄暗い森や、奇妙な鳴き声がする。どうやら、何処かの森の中だろう。ていうか、何で俺はこんな所で寝ていたんだ?
「確か・・・」
確か、水無月を突き飛ばしたらトラックに跳ねられて、それで・・・意識が無くなって・・・。夢の中ではなさそうだな。
こんなリアルな夢見たことないし・・・。
「ゲーム!」
でも、なさそうだ。アニメとか小説とかでやってそうなゲームの中にドンッ!って、訳でもない。
だとすると・・・。
「ダメだ・・・」
考えても仕方がない。それに、夜の森は危ない。それは万国共通だ。
俺は今いる森から一刻も早く抜け出す為に歩き始めた。
「ってもなぁ・・・」
歩き始めて一時間。俺は今だに森の中を彷徨っていた。出口がどっちなのかも解らないこの状況で、体力のみが少しずつ削られていく。
と、その時だった。
直ぐ後ろの木がメキメキと音を立てて粉砕した。
ビックリして後ろを見れば、巨大な化け物がいた。人間を数倍でかくさせて、小汚くさせた感じの。言うならば、トロールに似ているかもしれない。
いや、最早トロールなのかもしれない。
「久々の人間だぁ!」
トロールは俺を捕まえようとその巨体を走らせた。得意の素早い動きでその手の動きから逃れる。
「すばしっこいなぁ・・・」
愚痴っぽく言うが、その顔は笑っていた。それも当然。普通の人間ならばこんな夜に森などうろつかないだろう。それに、今の俺は丸腰だ。しかも制服。
「撤退!」
俺は恐怖で動かない脚を必死に動かして、逃げる。
「待てぇぇぇぇ!」
最初こそ遅いが、徐々にそのスピードは増してくる。次第にドスドスと地響きがする。
「ひっ!」
俺はその巨体に恐怖し、必死に逃げ続ける。丁度、太い幹の間をすり抜ける。トロールはその木の間には入れず、腕を伸ばしてくるが俺には届かない。
「何てこと・・・え?」
と、二本の木を迂回して来た。
トロールってバカじゃないっけ?
「おおおおおおおおおおおっ!」
方向転換すると、走り出す。
こちとら副会長相手に逃げ続けて来たんだ。てめぇなんぞに追いつかれるはずねぇ!と、意気揚々と走る。
割と距離が出来て来ると、少しスペースを落とす。
「ふっふー、悪いがチョロチョロと動くのは得意でね」
すると、谷が見えて来た。見ればボロい橋が架かっている。これさえ越えれば勝ったも同然だな。
俺は笑うと橋を渡り始めた。
くっ、流石に俺でもギシギシ言う。こりゃ、さっさと渡った方がいいな。
と、中間まで渡った時だった。橋が揺れる。
おいおい、ただえさえボロいのに・・・え?
その揺れの正体は直ぐに解った。
「ふふふふふふふふふふふ・・・・」
「てめぇ!それ以上動かすんじゃねぇ!」
見ると、トロールが橋を揺らしている。ギシギシと橋が悲鳴を上げている。
トドメのように、その大きな指でデコピンを橋に食らわした。同時に大きく揺れ、トロールがいる側から崩壊して行く。
「おわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
なす術なく、俺は濁流の中に飲み込まれていった。
そして、誓った。いつか殺す。と、
「・・・ん・・・・・ん・・・・・ん?」
いつもの天井・・・では、ないよな。
俺は見慣れないベットで目を覚ました。
「起きましたか?」
声を掛けて来たのは一人の青年だった。
「あの、助けていただいてありがとうございます」
「いえいえ。川に行ったら、上流からあなたが流れて来たので、驚きましたよ」
「いやぁ、トロールに追いかけられていたもんで」
「そうですか。しかし、トロールから逃げられるとはいい脚をお持ちですね」
「あ、ありがとうございます」
「まぁ、食事を用意したので食べてください」
用意されていたのはスープとパンだった。結構旨かった。
俺はその後この状況について考え始めた。
結果、異世界だな。
「ファンタジーの世界か・・・・」
俺は異世界もののアニメや小説を読んでいたりしたため、あっさりこの状況を飲み込むことが出来た。
まぁ、一回死にかけたけどね。
「さて、これからどうしよう・・・」
その世界のルールに従え!
よし、まずは帰ることを考えないでおこう。考えたってしょーがない。
「えっと・・・」
「ああ、僕はこの村で農家をやっているシャド・リーヘンです」
「あいさつが遅れました・・・・ユウト・サカキです」
「失礼と承知なんですが、少し妙な格好ですね」
制服だしな。これからの活動にもこいつは不要か。
「これは・・・俺の故郷の物でして。まぁ、ここからは必要ありませんかね」
俺は上着を脱いだ。
「ああ、そういうことでしたか。それでは、私が使っていたこちらを着てください」
そう言ってシャドさんは旅人の服の一式を持って来てくれた。
「い、いいんですか?」
「構いません」
俺はシャドさんから貰った服に着替えた。
中々いい感じの服装だった。茶色をベースとしたズボンとシャツ。その上に革の上着とベルト。最後に長いマントを付ける。
「あの、火を貸してもらっていいですか?」
「はい・・・・」
俺は松明を受け取り、外に出た。
地面に制服を置き、松明の火をそっと移した。
「何を・・・」
「俺なりのけじめですかね?ここに来たのなら、未練タラタラに生きるよりも、割り切った方が楽なんですよ」
制服が全部燃えると、俺は立ち上がった。
「ユウトさんは今からどうなされますか?」
「そうですね。あまり、考えてないんですよ」
「行く所がないのでしたら、ここにいますか?」
「い、いいんですか?」
「ああ。その代わりに畑作業を手伝ってもらうことになりますが」
「ありがとうございます!」
俺は深々と頭を下げた。
取り合えずはこの世界で生きる術を持たなければならない。その為にはここよりも、都市の方が自由に出来るかな?
色んな世界を見て回りたいし。
「さて・・・」
俺は体を伸ばし、村に出た。
朝は取り合えず村人に挨拶をして周り、昼からはまき割りをした。
「うーん、暇だ」
そんなこんな日が三日続いた。
村人達と仲良くなり、シャドさんの畑以外も村人達の畑仕事も手伝っていた。
「よし、こんなもんですかね?」
「おう、ありがとよ」
農家の男性の畑を耕し、草の上に寝転んで休憩していた。
「何つーか、平和だな」
俺はウトウトして、そのまま寝てしまった。
次に目が覚めたのは魔物の唸り声だった。
「なっ、何だ!」
俺は飛び上がった。
目の前では逃げ惑う村人達の姿が見えた。
「い、一体どうしたんですか?」
俺はシャドさんに聞いた。
「オークです!この森に棲んでいるオークが攻めて来たんです。あまりこういうことは無いんですが・・・」
「オーク・・・」
「ユウトさんは逃げてください。ここは僕と自警団で何とかします!」
そう言ってシャドさんは自警団と共に唸り声と叫び声が聞こえる方向へ走って行った。
「お、俺も!」
興味本位か、それとも心配なのか。分からないが俺も後を追って走った。
俺は目を見開いた。
オークだった。
オーク達がこちらに向かってゾロゾロとやってきている。武器は片手剣や斧。大剣まで持っている奴もいる。
ざっと見て三十人程度。村を襲うには十分すぎる人数だ。
「男共は殺っちまえ!女、子供は捕まえろ!」
リーダーらしきオークが叫ぶ。その指示通り、周辺で戦闘が開始された。
明らかにこちらが劣勢である。
少人数であるし、しっかりとした装備もない。
防具を持たない男達も剣を振りかざして戦っていた。
「くっ、来るな!」
一体のオークが剣を振り上げて走って来た。
こんな命を賭けた戦いなんてやったこともないので、俺は一目散に逃げた。
それを追うオークは唸り声を上げながら迫ってくる。
「っ!」
地面のくぼみにつまづき、コケてしまった。
「ヒヒ、死ねぇぇぇ!」
な、何か!
俺は地面を這いながら倒れている剣士が持っていた槍を持った。
オークは俺の体制が整えるのを待たず、剣を振り下ろした。それを何とか槍で防ぎ、弾き返した。
「はぁ・・・はぁ・・・」
「やるなぁ。けど、死ねぇ!」
「くっ、来るなぁ!」
俺は迫ってくるオークに向かって必死に槍を振り回した。その時だった。
槍がオークの胸に突き刺さった。
「がっ!」
オークはそのまま黒い血を吐いて地面に倒れ、絶命した。
「俺が・・・俺がやったのか・・・・・」
俺は錯乱することもなく、素直に目の前の現実を受け止めた。
殺したんだ。けど、殺さなかったら、俺が殺されてたんだ。だから、
「悪く思うなよ!」
俺は槍を引き抜いて、今にもシャドさんを殺そうとしているオークの喉を貫いた。
「ユウトさん!」
「俺の目の前じゃ、誰も死なせない!」
水無月を守ったように、俺は駆け出した。
不器用に槍を振り回し、オークを殺した。おかげか、体制を立て直した自警団が追い上げ、残ったオーク達は森の中へ逃げて行った。
「ふぅ・・・」
俺は槍を地面に置き、息をついた。
素人風情が・・・・よくやった。
心の中でそう呟くと、俺は空を仰ぎ見た。
ありがとうございましたww