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蒼い空

吉城が俺の部屋の椅子に座って声をかけてきた。

 「あー、吉城か・・・何の用だっけか?」

 「俺に言われてもなー」

 吉城は、あきれた顔をして言い返した。

 「あー思い出した!」

 「お!で?」

 「飲みに行くって話ししてたろ?」

 「あー、あれね」

 「どこで飲みに行くか、決めてなかったからそれの話だ」

 「そうだなー、兄貴食うからなー・・・食い放題は必須だなー」

 「食うってお前もだろうが」

 「何々?兄貴たちどっか行くの?」

 どこで聞いていたのか洋二も部屋に入ってきた

 「何って飲み屋に行く予定を決めてるところだ」

「俺も行きたい!」

洋二は、目を輝かせながら言った。こいつまだ二十歳になってないから連れて行けないのだが

「お前、まだ未成年だろ?飲みに行くのに連れて行けないだろ」

「ふーん・・・兄貴いいのかな?そんなこと言って」

「なっなんだよ?」

「兄さん、兄貴恋人できたみたいだぜ」

「な!あの女に永遠に縁のなさそうな兄貴が!」

「恋人じゃない!てか吉城!それは言いすぎだ!」

「「噓つくなよー」」

二人は声を合わせて言った。なんだか腹立つ

「はぁー、こいつはそんなんじゃないよ。それに」

「「それに?」」

こいつら・・・息合いすぎだろ・・・

「一方的な告白だからな、俺は興味ない!」

「うわー、兄貴噓つくの下手だよねー。なぁ兄さん」

「そうそう、兄貴―噓ってばればれだぞ。実は気になってるくせにー」

半分正解だった。興味は無いと言って入るけど正直、少しだけ興味を持ち始めている。

「ねえーよ。それよりも場所決めるぞ」

「えー、兄貴の初恋の話聞きたいんだけどなー」

「OK、飲みの話はなかったことにしようか」

「えー、折角休み取ったのにー」

 「んじゃまず言うべき事は?」

 「調子に乗りました。ごめんなさい」

 「はぁー、俺もあいつのおかげで疲れてるんだ。少し休ませろ」

 「あえて、なんでかは問わないよ」

 そうしてくれるとありがたい。まぁこれ以上は本当に怒るけど

「とりあえず、俺が知ってる居酒屋でいいか?あそこ食べ放題だし飲み放題もあるからな、食い物の取り合いにはならんだろう」

「そこって、この前行った居酒屋か?」

「ああ、悪くは無いだろ?」

「まぁねー」

「なぁ兄貴達・・・俺も行きたい」

洋二が恨めしそうな顔で聞いてきた。吉城とは良く飲みに行っていて洋二はいつも連れて行かないから拗ねているようだ。

「兄貴、あそこなら飲まないって言えばいけるんじゃないか?」

「それもそうだな・・・行くか?」

「当たり前じゃん!初めてかも、兄貴達と食いに行くの」

「そうだな・・・母さんに言っとけよ。吉城と行くことはもう言ってるからいいけど、お前も許可とっておけよ」

「おう、今すぐ行ってくる!」

「元気だな、あいつ」

「あいつは、いつも勉強してるからなー。色々疲れてるんだよ」

「お前は、洋二のこと良く見てるな」

吉城は、洋二のことを良く見ていると思う。俺は良く見えていないのかもしれない。頑張ってるのは知っているけど、それ以上は何も知らない。吉城は兄弟思いのいい弟だと思う・・・本当は俺がそうしなきゃだめなのに

「んじゃ、今日は疲れたからもう寝るか」

「お疲れ様だな吉城・・・お前も体に気をつけて仕事に励めよ」

「兄貴より根性あるから大丈夫だよ」

苦笑を浮かべながら吉城は言った。こいつは昔から無茶ばかりするから俺はずっと心配してきた。

「頑張れよ、吉城」

「ああ」

それだけ言うと吉城は部屋を出て行った。

「・・・もう十一時か・・・何しよ?」

特にすることもなく横になっていた。レポートは、苗村と作るから問題ないし、デート・・・綺道との出かける計画もあいつに任せるし・・・飲みに行くのはもう決まったしなー・・・あれは、綺道と出かける日と被ることはないと思うけど。暇だ・・・することがない・・・もう寝ようかな?

それなら風呂に入ってさくっとベットに入って寝よう。

俺は風呂に入って今日は寝た・・・午前0時・・・久々に早いな。



     日曜日

 この三日間はあっという間に過ぎた。

 レポートのできは良し!ということで終わったし、綺道がいきなり電話を切ったことに対して抗議してきたり、それに乗って全員に攻められたり、バイト行ったりしていたらあっという間に日曜になっていた。朝九時俺は起きて適当に着替えて朝食を取っていた。

 「ふぁー・・・眠い・・・」

今日は、良く眠れなかった。初めて女と出かける・・・ただそれだけのことなのに・・・

「まぁ今日はもつだろ・・・」

朝食のパンをかじりながらブツブツ独り言を言っていると

「おやおや、兄貴、デートなのにそんな服装でいいの?」

洋二が二階から降りてきて言ってきた。余計なお世話だ。俺はこの服しか持ってないんだ。

「お前・・・俺がこういうのしか持ってないの知ってるだろ?」

ジーパンにチェックの入った上着に普通のシャツ・・・どう見ても地味だし、デートをする服装でないことは自分が一番よくわかっている。

「まぁねー、けどデートだろ?勝負服くらいあるだろ?」

「ねえよ!」

「ふーん」

ニヤニヤしながら洋二は自分の部屋に戻っていった。

「全く・・・けどまぁー確かにこの服装は無いよなー。まぁ、今日、買うと言ってたし少しはマシになるだろう」

ちょっと、綺道の趣味がどんなものかわからないからどんな服になるか少し怖い・・・けど、女がそんな変な服を選ばないだろう。

「真ちゃん・・・外に女の子がいるんだけど?誰?」

「んー・・・あー、俺の友達だ」

「真ちゃんが女の子・・・彼女?」

「友達と言ってなんで彼女になるんだよ!」

「冗談よ。やぁねー、顔真っ赤になってるわよ」

「もう、母さんなー・・・はぁ、わかった・・・今行くって言っておいて」

「はいはい、早くご飯済ませない」

「わかったよ」

俺は、残りのパンを口に放り込んでミルクで流し込んだ。

 「おはよう!竜胆―!」

 玄関を開けたら綺道が元気良く挨拶してきた。

 「おう、あれ?車で来たと思ったけど、徒歩?」

 「違うよ。車で来て帰ってもらったの。竜胆と一緒に大阪まで行きたかったからさ」

 「ほう、でも俺はバスで駅まで行かんぞ?」

 「え?何で行くの?」

 「こいつ」

 おれは自分の自転車にまたがりながら言った。

 「・・・え?」

 「ほら、ボーっとしてんな。後ろ乗れ」

 俺は、自転車の後ろに乗るように言った。

 「でもこれ・・・痛くない?」

 「それもそうだな・・・ちょっと待ってろ」

 俺は、家から適当な座布団を持ってきて後ろの荷物おきに括りつけた。

 「これでよし」

 「これに乗るの?危なくない?」

 「んー、嫌か?バスは使いたくないんだけどなー」

 綺道が少しボソボソ一人ごとを言った後こっちを向き

 「どうした?」

 「うん、やっぱり乗っていく」

 「ん?」

 「だって・・・恋人みたいじゃない?」

 「恋?・・・な!」

 そういえばそうだ・・・普通こういうことは男女ではしないするとすれば恋仲・・・無意識に言った事だけど急に恥ずかしくなった。

 「んじゃ行こ」

 そう言うと綺道は自転車の荷台に座って言った。

 「うー・・・」

やっぱり恥ずかしい

 「わかったよ、行くぞ。落ちないようちゃんとしがみ付いてろよ」

 「うん、竜胆も乱暴な運転しないでよ?」

 「悪いな、荒っぽい運転はいつものことだ」

 「うわー、ちょっと不安だなー」

 綺道は笑顔でそういうと俺にしがみ付いた。

 「あんまり引っ付くなよ・・・その、恥ずかしいから」

 「・・・フフフフ、やーだ」

 綺道は、俺に強くしがみ付いて言った。胸が軽く当たってるのがわかった。なんとも言えない気持ちになった。嬉しいというのか、恥ずかしいというのかもどかしい感じだ。


 「綺道・・・その・・・胸当たってるぞ・・・」

 「んー?竜胆って結構むっつりなんだねー」

 「落とすぞ?」

 「照れちゃう所がかわいいー」

 「っ!」

 早く駅に着いてしまおうと俺は、全力で駅へと走り出した。

 「うわ!竜胆!落ちる!」

 「・・・・・」

 「無視?キャ!もう!」

 俺は、一秒でも早く駅に着くように急ぎ足でこいだ。

 「ねぇー、もっと話しようよー」

 「・・・話すって何を?」

 「あ!やっと反応した!もう、ひどいよ!」

 「お前が人をからかうからだろう!」

 「だって、可愛いんだもん」

 後ろで座っている綺道の表情がわかる。こいつが後ろでニヤニヤしてるのが

 「お前なー」

 「でさ、今日なんだけど」

 急に話を切り替えやがった。こいつ人の話を聞くの苦手だな。

 「どんなお店がいい?」

 「なんの話だ?」

 「竜胆は、どんな服装が好み?」

 「どんなって、適当でいいよ」

 「完全に私の趣味でいい?」

 「好きにしろ」

 「・・・どんな服にしようかなー」

 こういう時の、女は少し怖い・・・服なんて適当でいいだろうに。なんで楽しそうに話せるんだろうか?

 「ウフフフフ、楽しみだなー」

 「そうかい・・・駐輪所に着いたから降りて」

 「え?もう?・・・ここで待ってるね」

 「はいはい、大人しくな」

 「あー!子供扱いしないでよー」

 そう言って俺は駐輪所のいつものところに自転車を止めた。こういうときに定期を持ってるのって便利だと思う。金を払わなくていいから・・・こういうとき貧乏性って怖いと思う。自分のこととはいえ

 「お待たせ。さて、行くぞ」

 「うん、行こ行こー」

 綺道に手を引かれて駅に向かった。

 「あんまりせかすなよ。大阪はどこにも行かんぞ」

 「こうしてる時間がもったいないんだもん」

 「そうかい」

 俺は、大阪行きの切符を買って綺道に渡しながら言った

 「電車は・・・もうすぐか」

 「みたいだね。さて、何を話す?」

 「ここでも話すのか?」

 「嫌?」

 「別に」

 俺は、大阪に着くまで他愛も無い話をしていた。


      大阪

 「さて、どこから周る?」

 「んー?とりあえず、お前のオススメの店からで」

 「そう、んじゃ。こっち!」

 俺は、綺道に連れられて小洒落れた店に着いた。

 「・・・なぁ、綺道」

 「何?」

 「この店・・・俺に似合う服あるのか?」

 「・・・ウフフフ、竜胆完全改造計画の第一段階!派手な服を着せて見よう!」

 「派手を通り越してチャライぞ?」

 「そうだねー、けど、着て見ないとわからないじゃない」

 「着なくてもわかる・・・これはだめだ!」

 「そんな事言わずにさー!ほら、行こー」

 綺道に引きずられながら俺は派手な服しか置いてない店に入っていった。

 「ええとねー、これとこれとこれ!ほら、試着してみて!」

 「これ?本気か?」

 「うん、本気!着て!ほらー早く」

 「・・・・まじか」

 俺は、渡された服を着てみた。派手にもほどがある赤の上着に紺色のズボン・・・おまけにファッションを重視しすぎで動きにくい。

 「綺道・・・これ・・・」

 「プッ!アハハハハハ、竜胆ハハハ、似合わないアハハハハ」

 綺道が爆笑しながら俺を見ていた。こいつ・・・わざとだな。

 「わざとだな!」

 「ちっちがうよプフフ・・・」

 「・・・着替える」

 「うっ・・うん」

 笑いを堪えてるのがよくわかる。肩が小刻みに震えながら下を向いている。

 「ここはだめだな」

 「う・・・うん・・・プッ・・・」

 「もういいから、行くぞ」

 俺は綺道を置いて店を出た。

 「待ってよー、竜胆―」

 後ろから、綺道が走り寄って来る。

 「もう、置いて行かないでよー!」

 「次は、もう少しまともな店にしようか・・・」

 「うん、あれは頭の中だけに閉まっておくね」

 「忘れてくれるとありがたいのだけど」

 「どうしようかな?」

 思い出し笑いをしながら綺道は次の店を考えていた。

 「それじゃ、今度はこっちのお店ね」

 「・・・さっきとは、何か違うな」

 さっきとは、打って変わって落ち着いた感じの店に着いた。

 「フッフッフ・・・ここは、私のお勧めのお店だよ」

 「なんで、最初に選ばなかった?」

 「着てみないとわからないじゃない。それに・・・」

「それに?」

「・・・・面白いものが見れたし」

本当にこいつは・・・

 「で、ここはどういう意味でお勧めなんだ?」

 「竜胆って地味な服装でいること多いから、たまには渋い服装もいいかな?って」

 「渋い服って・・・黒の・・・」

 黒をメインの服が渋い?よくわからない。ただ、綺道の顔に自信に溢れていた。ここは本当にこいつのお勧めなんだろう。

 「んじゃ、適当に選んでくれ」

 「うん、・・・んー、これだとちょっとオヤジぽいしなー・・むー」

 今度は本気で迷っているようだ。さっきの店は本当にネタとして連れて行ったのだろう。はぁ、初めからそっちにいって欲しかった・・・。


 「よし!これを着て!」

 「今度のは・・・黒ばっかだけどいいのか?」

 「うん!さぁ、早く」

 背中を押され俺は試着室に入った。この服・・・黒のジーパンに黒のシャツ・・・黒の上着・・・黒尽くめ・・・いいのか?これ

「なぁ、綺道―」

返事が無い・・・。どこ行った?俺は試着室のカーテンを開け周りを見渡した。

「竜胆、今度は・・・竜胆かっこいいー」

「お世辞ありがとう。俺がかっこいいはないよ」

「お世辞じゃないよ。本当にかっこいいよ」

「へぇー」

俺は、綺道に生返事を返した。

「本当だって!渋くていいじゃない」

「渋いねー」

「今度は、こっち着て!次はこれとこの組み合わせで!」

「おい・・・何着持ってくる気だ?」

「何言ってるの!今日は竜胆のために服を買いに来たんだよ?」

こんなに服を買ってどうする気だ?女はたくさんの服の買い物するというがここまで買うのか・・・女のすごいさを今思い知った。

「はいはい、でこれを着たらいいんだな」

「うん、待ってるね」

俺は、ささっと着替えた。今度のはきつい・・・体にぴったり過ぎて動きにくい。何よりさっきより明るめの色の服装だ

「この服・・・町でよく見るな・・・」

「竜胆―着替えたー?」

 「着替えるには着替えたけど・・・」

 「んー、やっぱり今の流行に合わせたけど似合わないね」

 綺道が苦笑しながら言った。あーそれで町でちらほら見るのか

 「次はこれね」

 「今度は黒と白?」

 「うん、ちょっと渋くしつつ、清潔感があるようにしてみたんだけど」

 「なるほどね、だから白か」

 「さっきのは、黒で組み合わせたからね」

 「んじゃ着てみるか」

 「待ってるね」

 「ああ、けど何着も服持って来るなよ。そんなに買わなくていいし、持って帰るが大変だ。」

 「そうだね、この後私の服も持ってもらうからそんなに選べないよね」

 「え?」

 「ん?どうしたの?」

 「今日は、俺の買い物だよな?」

 「うん、けど終わったら次は私だよ」

 「・・・わかったよ。服奢ってもらうんだ。何でもするよ」

 そう、俺なんかのために服を選びそれに対して代金も支払ってくれるんだ。それをしただけでも足りない。

 「んー・・・こんな感じかな?」

 「・・・・」

 綺道が沈黙してこっちを見ていた。そこまで似合わないのだろうか?

 「竜胆・・・」

 「なっなんだよ」

 「似合う・・・似合うよ!うわー、もっと好きになちゃった」

 「似合うのか?」

 「うん!ここまで似合うなんて思ってなかったよー」

 「そこまで言うか?」

 「だって、かっこいいよ!」

 熱のこもった声で綺道が俺に言った。

 「そうか、ならこいつをもらおうかな?」

ちょっと照れくさかった。まさかここまで褒められるとは思ってもいなかった。

 「それと、これもね」

 「おい、それは・・・」

 「いいの、だって渋い服装の竜胆私好きなんだもん」

 「そうか・・・でもいいのか?値札見たけどどれも高いぞ?」

 「え?・・・余裕だけど?」

 「さすがお嬢様と言うべきかな?」

 「その言い方嫌いなんだけど?」

 さっきまで笑顔だった綺道の顔が急に不機嫌になった。何か嫌な思い出でもあるのかな?俺ではわからない部分だな。こいつのことを詳しく知ればわかるのだろうけど今はわからない。

 「そうか、すまないな。おっと、もう昼飯時だな」

 話を逸らしながら俺は時計を見た。

 「で、綺道のお勧めの店楽しみにしてるぞ」

 「え?あ、うん。そうだね。んじゃ会計を済ませてくるね」

 そういうと、レジに一直線に歩いていった。初めて奢ってもらった・・・それも女性に・・・

 「竜胆―お待たせー・・どうしたの?ボーっとして」

 「え?ああ、大丈夫少し考え事」

 「ふーん、はいこれ!」

 「あー、サンキュー。この借りいつか返さないとな」

 「いいよ、楽しかったし。それにこれから私の買い物の荷物持ちなってもらうんだからね」

 万満の笑みで俺に言ってきた。俺の中で何かが動いた気がした。

 「何着でも持つよ。その前に飯行かないか?俺は空腹だ」

 「あ、私もお腹ペコペコー、美味しいお寿司屋さん見つけたから楽しみにしてて」

 「高そうな臭いが・・・」

 「まさか、大丈夫。高いお店じゃないよ。雑誌で最近話題なお店だし、安くてうまいって評判なお店なんだー」

 「ほうほう、んじゃ早速行くか」

 「うん、こっちね」



 俺は、綺道に連れられて、大阪の町を歩き出した。結構複雑な道のりだった。徒歩で二十五分かかった。俺なら真っ直ぐたどり着ける気がしない道のりだった。そんな道中綺道は、俺との会話を楽しんでいたようだ。俺は普通に話してるだけなんだけど。そんなことしてると店に着いた。

 「結構かかったな。正直迷ったのかと思ったぞ」

 「え?ええとーそれはー」

 綺道が少し動揺した。まさか・・・

 「綺道?」

 「実はね、少しだけ迷ちゃった」

 「はい?」

 「本当は十五分未満で着くはずだったんだけど」

 「迷ったのか」

 「・・・うん」

 「そうか、いいんじゃないか?俺だったらたどり着けなかっただろうし。それに、少し楽しかったぞ」

 「ほんと?」

 「ああ、少しお前のことわかったからね」

 「うんうん」

 「だからと言って付き合うなんてことはないぞ?」

 「もう、少しは空気読んでよー」

 「俺は、俺の読むべき空気は読むよ」

 「私は竜胆のこと好きなんだよ?」

 「それは一方的な好意だろうに。それに、俺は遊びで誰かと付き合うほど適当な人間じゃないしな」

 「真面目だねー」

 「真面目でなかったらお前は惚れなかったろ?」

 「それはそうだけど」

 「・・・・・」

 「・・・・・」

 少しの間二人の間に沈黙が流れた。

 「ふむ」

 俺は、綺道の頭を撫でながら

 「まぁ、大丈夫。お前のことはどちらかというと好きなほうだから」

 俺は何を言ってるんだろ?

 「・・・後一押しってこと?」

 「さぁね」

 「もう意地悪!」

 俺は、綺道の頭を軽く叩いて

 「ハハハ、さて飯食おうぜ」

 「もう!竜胆!」

 俺は、先に店に入った。今の時間は午後二時なのにかなり賑わっていた。

 「おお、これはこれは」

 「・・・予想以上だね。席あるかな?」

 「聞いてみよう」

 俺は近くの店員を呼び止めて聞いた。

 「どうだった?」

 「二人ならカウンター席が空いてるってよ。そこでいいか?」

 「竜胆の近くに座れるならどこでもいいよ」

 「そうか」

 店員さんにそれでいいと言うと空いているカウンター席に連れて行ってもらった。

 「こちらになります」

 「ありがとうございます」

 俺はお礼を言って、席についた。端っこの席で隣の席にカップルがイチャイチャしながらお寿司を食べていた。この回転寿司でイチャつくとは・・・これだから最近の若い人はって言われるのがわかる気がした。

 「はい、竜胆。アーン」

 そんな事を思ってると綺道が俺の口元に寿司を持って来た。

 「・・・おい、綺道。それはちょっと」

 俺は引き気味に答えた。

 「なんで?」

 「色々言いたいことはあるけど」

 「うん」

 俺は綺道の耳元に顔を近づけて

 「隣のカップルみたいなのって周囲は不快に思う。だからやめとけ」

 俺は冷静に答えた。

 「・・・そうだね」

 綺道は、残念そうにそういうとさっき俺に食べさせようとした寿司を自分の口に運んだ。

 「美味しい・・・美味しいよ!竜胆!」

 「どれどれ・・・ふむ。確かにうまい・・」

 寿司の味は、ネタの鮮度と米と酢の混ぜ方で決まる・・・と思う。詳しくは作り手ではないから詳しくわからないけど・・・

 「そうそう、竜胆」

 寿司を食べながら綺道が声をかけてきた。

 「なんだ?」

 「これからの予定なんだけど・・・これも美味しいー」

 「あー服を買うんだっけ?」

 「そうなんだけど。その後にね」

 「ん?」

 「映画見に行かない?ちょっと気になるのがあるんだー」

 「ほう、いいぞ、映画好きだし」

 「ほんと!よかったー。これを見たいんだけど」

 「?」

 「ほら、最近有名なラブロマンスを描いたって言う映画」

 「あー、最近、泣ける映画だって評判のあれか・・・確か、心臓に重い病気を持ってる少年が昔の幼馴染に再会して恋になるってやつだっけ?」

 「おおー、良く知ってるねー」

 「この前、映画見に行った時に予告が流れてたからな」

 「あれ?お金ないって言ってなかった?」

 「うっ!・・・いいんだよ。学費を出しながら学校生活送ってるんだから。たまにはこういう贅沢くらい」

 「へぇー、自分でーうちの大学の学費平均クラスより少し高めなのに頑張ってるんだね」

 「自分が決めたことだからな」

 「なんかかっこいいね」

 「そうか?貧乏人だからこれくらい当たり前だよ。それに・・・」

 「それに?」

 「高校卒業して、親に世話になるのは少しね」

 「へぇー。私、パパに甘えてばっかなのに、竜胆は大人なんだね。少し羨ましい」

 綺道は普段俺に向ける表情とは違う眼差しで俺を見た。


 「お前はお前だよ。俺が俺であるようにな」

 「竜胆は優しいね」

 「前も言ったろ。普通だよ。それを言ったらお前の方がお人好しだよ」

 「そんなことないよ・・・」

 なんだか、優しい目で俺を見てくる。なんだか照れくさい。

 「さて、行くか」

 「え?いいの?六皿しか食べてないよ?」

 「いいんだよ。お前の買い物の時間減るだろ?」

 本音を言えば、思いのほか安かったけど、普通の場所より高かったからお金の余裕が・・・財布を開けたら少ないお金が・・・あれ?二万入ってる?そんでメモ用紙?

 俺は、メモ用紙を開けて読んで見た。

 『兄貴、これは俺からの選別だ 吉城と洋二より』

 あいつら、余計なことを・・・ありがたく使わせてもらうよ。

 「さて行くか」

 「うん、会計済ませるね」

 「いや、俺は自分の分くらい出せるからいいよ奢らなくて」

 「大丈夫?」

 こいつにどこまで貧乏だと思われてるんだろう?

 「大丈夫、俺だってそこまで貧乏じゃない」

 「・・・無茶してない?」

 「してない!大丈夫!」

 「そこまで、言うならいいけど・・・」

 俺は、綺道の言葉を遮って

 「大丈夫、俺を甘く見るな」

 「うん、わかった」

 「さて、どこから行くんだ?」

 俺は会計を済ませながら綺道に聞いた。

 「ええとねー・・・だいたい、六店くらいかな?」

 「そんなに?」

 「何言ってるの!映画のために回りたかったお店三件諦めたんだよ!」

 「そこまで・・・何時間かかる買い物だよ・・・」

 「うーーん」

 綺道は、少し考え込んで

 「だいたい五時間くらい?」

 「うわー・・・三件抜いて?」

 「それで四時間くらいだね」

 それでも長い・・・

 「そうか・・・」

 「じゃ、まずはこっちからね」

 「はいはい」

 「なんだか楽しいね。竜胆」

 満面の笑みで俺に言ってきた。

 「そうか、それはよかった・・・けどまぁ、映画の時間わかってるのか?」

 こいつの買い物に付き合って映画の時間が気になった。

 「うん、九時からあるから間に合うよ」

 「・・・今、三時か・・・長い買い物になりそうだな」

 「そんな嫌そうな顔しないで買い物楽しもうよー」

 「そうだな」

 俺はそう言うと笑顔を綺道に向けた。

 「じゃあ、まずはあそこからー」

 「ちょっと!先に行くな!」

 俺は、綺道から離れないよう手を伸ばした。

 「え?」

 綺道は、不意をつかれたような声を上げた。

 「あ・・・」

 俺の手が綺道の手を握っていた。自分も意識した行動ではなかった。

 「あ、すまん」

 俺は、綺道の手を離した。握った腕が軽くしびれるのがわかった。

 「・・・」

 綺道も動揺が隠せないのか黙り込んでしまった。

 「行こうか」

 「う・・うん・・・」

 俺は、綺道の隣に立った。

 「・・・・」

 「・・・・」

 お互い、どうしていいものかわからず大阪の町を黙って歩いていた。

 「なぁ綺道―」

 俺はこの気まずい空気を変えるために口を開いた。

 「え?あ、なぁに?」

 少しびっくりしたのかビクッとしてこっちを向いた。顔が真っ赤だった。

 「その・・・」

 「うん・・」

 「その服屋ってどこなんだ?」

 「え?・・・あ!」

 いきなり綺道は大声を出した。

 「どうした?」

 「気がついたらお店過ぎちゃった」

 「え?」

 「だって・・・いきなり手をつなぐんだもん」

 綺道は、真っ赤な顔を逸らしながら言った。

 「そっそれはお前が先行くから・・・」

 「・・・・」

 「・・・はぁー、なんだこの恋愛小説みたいな流れは」

 俺は頭をかきながら綺道の手を掴んで来た道を戻った。


 「え?」

 「行くぞ!」

 「ちょっと・・・痛い・・・」

 「映画・・・見たいんだろ?」

 「え?うん」

 「なら早く戻って店行くぞ!」

 「うん・・・」

 綺道が黙り込んでしまった。・・・・綺道の手って暖かいんだな。

 「ところで綺道」

 俺は、立ち止まって綺道を見た。なんだか優しい目でこっちを見ている。

 「その店ってどこ?」

 「あ、場所私しかわからなかったね」

 「あー、先導したはいいけど場所がわからない」

 「フフフ、ごめん。こっちだよ」

 「どうしたんだよ。なんかにやけて」

 「ううん、なんでもないよ」

 「ん?」

 この時の綺道の顔が気になった。なんで俺に優しい顔で見るのかわからなかった。俺のことが好きなのは知っているけど、今までこんな表情で俺を見たことがなかったからどうしていいのかわからなかった。

 「さ、行こ」

 「あ、ああ・・・そうだな」

 俺は、綺道に引っ張られて店に入っていった。なんだか、心の中が暖かった。女性と一緒に居てこんな気持ちになったのは初めてだった。なんだか楽しい・・・


四時間後

 もう・・・嫌だ・・・

 「竜胆―、大丈夫?」

 「ああ、これくらいはな」

 俺の服合計六着に綺道の服合計二十六着に靴二足・・・重い・・

 「さて、映画行こうか」

 綺道は、満面の笑みで言った。こいつの体力は底なしか?あれだけ『この服がいいなー』とか『ああ!これかわいい!』とか言って何時間もはしゃいでいたのに・・・

 「元気だな・・・お前・・・」

 「だって竜胆との初めてのデートなんだもん」

 「それ関係無くないか?」

 「ううん、なんだか竜胆といると元気が出るの」

 「そうかい、だが俺はヘトヘトだがな」

 「ウフフフ、そんなに荷物持ったら疲れるよねー」

 「・・・かなり重いんだが女の買い物っていつもこうなのか?」

 「え?んー、みんなと買い物してもそこまで買わないかも」

 「・・・いい荷物持ちがいてよかったな」

 「竜胆を荷物持ちだなんて思ってないよ。少し持とうか?」

 「・・・俺の服を頼む」

 「うん、わかった」

 「サンキュー」

 「・・・なんか変だね。お互いに相手の服を持ってるなんて」

 綺道が笑いながら言った。

 「お前の服を持つって言ったろ。だから、最後まで持つよ」

 「頑張れ竜胆!」

 「まぁ問題は・・・」

 「何?」

 「映画館でこの服をどこに置くかが問題だな」

 「あ!・・・そこは考えてなかった・・・どうしよう?」

 「なら最後尾の席でも取るか。通路側の席取れば荷物置けば問題ないだろう」

 「そうだね、空いてるかな?」

 「そう思うなら急ぐとするか。行くぞ」

 そういうと俺は映画館に向かって走り出した。荷物が重くて走りにくいけどあいつが楽しみにしている映画が見れるか見れないかの瀬戸際だと思うと自然と足が前に進んだ。

 「竜胆足・・・速い・・・」

 「え?」

 俺は、後ろを振り返るとかなり後ろで綺道が走っていた。

 「ああ、すまん」

 俺は、立ち止まって綺道を待った。

 「お前、足遅いんだな」

 「ちっ違うよ!今日は走りにくい靴なんだよ」

 「そうか、すまんな」

 「そうだよ!女性を置いていくなんてだめだよ!」

 「ああ、悪かった。なら歩いていくか?」

 「反省してるなら良し!ってあ!待ってよー!」

 「はいはい」

 綺道は、俺の急ぎ足に着いて行くだけで精一杯のようだ。追いついたと思ったらまた離されて行く。

 「大丈夫か?」

 「うん、ちょっと疲れただけ男の人の足幅って大きいんだね」

 「そうだな、体大きいからな。とと、映画館に着いたぞ」

 「あ、ほんとだ!ほら竜胆早く!」

 さっきまで疲れたと言っていた人間が映画館まで走って・・・元気だなあいつ

 「おい!全く、男は置いて行ってもいいのかよ」

 俺は小さく呟くと綺道の後を追った。

 後ろの席を確保するのは成功した。・・・店員が俺の荷物を見て少し驚いていた。まぁ普通これだけ荷物持って映画館に来る人間はそうはいないだろうからな。

 「ふぅー・・・シート以外に広いな」

 普通の映画館は、人一人座るのが精一杯だけど、ここは足を前に出しながら座れるスペースがある。さすが、人気の映画・・・この映画が上映して二ヶ月過ぎてるというのに席がほぼ埋まってる。

 「運がよかったな。後ろの席はほとんど空いてて」

 「そうだねー・・・けど、ちょっと見にくいね」

 綺道は苦笑しながら席に着いた。

 「ん?いいじゃないか。大画面なんだし、この大きさを楽しまないと」

 映画は、映画館で見るのが好きだ。大きい画面で映される映画は家で見るより迫力もあり感動も違う。

 「なぁ綺道・・・」

 「何?」

 「これはさすがにひどいな・・・」

 俺は、持って来た荷物を見ながら言った。通路に置いた大量の服・・・人がいないとはいえ邪魔だな・・・

 綺道は、苦笑いをしながら「そうだね」っと言った。


 

 映画が始まった。

 いい話だった。少年は、残り時間がないというのに彼女のために尽くしてそれで最後まで彼女の事を考えて死んでいく。少年は最後は笑顔で死んでいった。残された彼女は何を思うのか・・・少しそれを考えると切ない気持ちになった。綺道も涙目で画面をじっと見つめていた。こいつはこれを見て今何を考えてるんだろうか?少し気になる。まぁ普通、この映画みたいな別れ方はしないと思うけど。

  

映画が終わって俺は、伸びをして綺道を見た。号泣していた。もし俺が死んだらこいつは何を思うんだろう?今みたいに泣いてくれるのだろうか?それとも・・・・いや。これ以上考えるのはよそう。

「ねぇ竜胆・・・」

涙声でこっちを見た。

「ん?」

「いい映画だったね・・・」

「そうだな。けど」

「けど?」

不思議そうな顔で俺を見て綺道は尋ねた。

「嫌な話だな・・」

「そう?私感動して涙が出ちゃったよ」

「けど、残されたあの女性はどうするのか・・それを考えるとな・・・」

「竜胆―映画でそこを追求するのはどうかと思うよ?」

「つい考えてしまうんだよ」

「ダメダメ!せっかくいい映画なんだから楽しまないと!」

綺道が俺の顔に人差し指を立て振りながら言った。楽しめかそれもそうだな・・・いつもアクション系しか見ない性かこういうラブロマンスはどうもなれない。

「そうだな、せっかくの映画だもんな・・・」

「そうだよ!私もああいう恋愛したいなー」

「おいおい、それだと俺最後には死ぬことになるぞ」

俺は冗談まじりに笑いながら言った。

「違うよ!そうじゃなくて、あの映画みたいにお互いを深く愛し合って最後まで笑顔でいられる・・・そんな恋愛!」

「へぇー」

「さりげなく死ぬ相手を自分にしたところ見ると私のことそういうふうに見てくれてるのかな?」

「そうだな」

「え?」

「なーんて、調子に乗るな」

俺は軽く綺道のおでこを小突いて言った。内心少し興味はあるけど付き合いたいとは思っていない。俺なんかよりもいい相手を探して欲しいと思ってる。

「ひどーい!私を騙したなー」

「ひっかかるお前が悪い」

「「アハハハハ」」

二人で笑いながら夜の大阪の街を歩いた。本当のカップルのように・・・俺は、彼女のことをどう思ってるんだろう?ふと、その言葉が頭に浮かんだ。

「さて、もう十一時か・・・帰るか」

「うん、今日はクタクタだねー」

「そうだな・・・荷物もすごいことになってるし家まで送るよ」

「え?いいの?」

「女性を一人で帰すわけには行かないだろ?それにこの量、お前じゃ無理だよ」

「ウフフフ」

「ん、どうした?」

「なんでもないよ」

綺道が微笑みながら俺の前を歩いた。

「気になるなー」

「なんでもなーい」

「・・・そうかい」

「そうそう、竜胆」

「何?」

「送ってくれるのは嬉しいけど」

「ああ」

「帰りはどうするの?」

「・・・あ!」

 そこまで考えてなかった。・・・綺道を送って帰る頃にはもう終電終わってる・・・どうしようかな・・・・

「考えずに言ったんだ。竜胆も抜けてるねー」

クスクス笑いながら、綺道は答えた。

「私の家に泊まっていく?」

「それはいいよ、迷惑だろ」

「部屋なら余ってるから大丈夫だよ?」

一般人とお金持ちの差を感じた。

「それに親も何か言うだろ?」

「親は・・・そうだね。確かにパパが怒りそう・・・」

「だろ?でも・・・どうしようか・・・」

「あ、そうだ!車用意するからそれで帰るといいよ」

「お前運転するのか?」

「ううん、今日送ってくれた人に頼むの」

「あー俺の家まで運んでくれたって言う」

「うん、喜多見さんって言うんだけど、いい人だから送ってくれるよ」

「そうか、なら頼もうかな?その人がよければだけど」

「大丈夫だよ。いつも私の我侭に付き合ってくれてるし」

「お前、いつも付き合わせてるのか・・・かわいそうに」

「それってどういう意味?」

「さぁて、どういう意味でしょう?」

「竜胆って本当意地悪だよね!もう!」

綺道は、少し頬膨らませながら俺の前を歩いた。なんか楽しい・・・こいつの怒る顔がなんだかかわいく感じた。

「先行き過ぎだぞ!おおーい」

俺は先々進む綺道を追いかけた。

「すまんすまん、俺が悪かったよ」

「知らない!」

「・・・・」

「どうしたの?」

「ん?お前がそっぽ向くから俺も黙ってるだけだよ」

「・・・ほんと意地悪だよね」

「・・・プ、クククク・・・」

俺は笑いを堪えながら綺道を見た。

「な・・何?私何か変なことした?」

 「ハハハ・・・すまんすまん、綺道ってからかいがいあるなーって思ってつい」

 「あ、竜胆ひどい!わざとやってたなー!」

 最初は、悪気はなかったけど、こいつの怒る顔を見てかわいかったからついからかってしまった。

「お、駅が見えてきたな。置いてくぞ」

俺は、そう言うと大荷物をしっかり持って駅に走り出した。

「あ、竜胆!待ってよー」

今日一日だけでなんだかこいつのことが好きになった気がする。



大阪駅

 「しかし、今日は買い物したなー」

 「そうだね。大丈夫?」

 「んー・・・京都までもつかな?」

 「新快速だし、最寄の駅三十分くらいかな?大丈夫?」

 「うっ・・・頑張ってみる」

 俺はそういうと少し大丈夫かな?っと思いうつむいた。その時綺道の携帯がなった。

 「あ、ゴメン。電話だ。ちょっと待っててね」

 そう言うと、綺道は俺から離れた。話を聞かれたくないのかな?少し気になるけどこういうのは聞いちゃ駄目なんだろうと思い少しの間荷物を両手に抱えた体勢でボーッとしていた。

 「竜胆お待たせー」

 綺道が帰ってきた。

 「お帰り、なんの電話だったんだ?」

 「パパが帰ってくるの遅いって電話かけてきたの」

 「それもそうだな、今十一時回ってるし帰ったら十二時こすもんな」

 「まぁそうなんだけど、私ももう二十歳だよ!」

 「俺に言われてもな。まぁお前のことが心配なんだよ」

 「わかってるけどー」

 「あーそういえば帰りはどうする?」

 「そのことなんだけど駅に喜多見さん来てくれるって!だから、京都まで頑張って」

 笑顔で、綺道は言った。簡単に言ってくれる・・・腕がかなりやばい・・・三十分もつかな?あーだこーだ考えていたら電車が来た。


    京都府の某所

 腕が悲鳴を上げていた。もう腕を上げる力がでなかった。

 「竜胆・・・大丈夫?フラフラしてるけど」

 「大丈夫に見えるか?・・・腕が」

 「ほら、あと少しで車が待ってるから頑張って」

 俺は綺道に背中を押されて改札を出た。そこには、黒い車・・・どこの車かな?高級車ぽい車が止まっていて運転手がこっちを向いて手を振っていた。

 「喜多見さーーん!」

 綺道が大きく手を振ってそれに答えた。

 「恵お嬢さんお帰りなさい」

 敬語口調でその人は話しかけてきた。

 「おや、この方が今日のお出かけの?」

 「うん、今朝はありがとね」

 完全に置いて行かれた・・・

 「ええと、竜胆と申します」

 俺は、とりあえずこの会話に混ざろうと自己紹介をした。

 「あ、わざわざどうも。喜多見です。お話はお嬢様から色々聞いてますよ。お嬢様がお好きになられた方だとか」

 「はぁ?そうですか」

「はい。立ち話もなんですから、お乗りください」

そういうと、喜多見さんは車の後部座席のドアを開けてくれた。

「ささ、乗ってのって」

綺道が俺の手を引いて車に乗せた。

「では、行きましょうか」

そういうと喜多見さんは車を走らせた。

この空気は少ししんどかった。綺道は喜多見さんと今日あった事を話している。俺は取り残された気持ちになりながら黙って座っていた。気まずい・・・

「ね!竜胆!」

いきなり呼ばれて俺は我に帰った。

「ん?何?」

「もう!そうやって人の話聞かないの竜胆の悪いところだよ!」

と言われても俺も俺で色々考えてるんだよ。

「ああ、すまんな。でなんだ?」

「だから、今日のデート楽しかったねって!まさか全然聞いてなかった?」

図星だった・・・俺は綺道から視線を逸らしながら軽く頷いた。

綺道が「もう!」と言いながら俺に説教を始めた。喜多見さんはクスクスと笑いながら俺たちの会話に耳を傾けていた。助け舟を出して欲しいと思ったけど出してはくれなかった。

「そのくらいにしてあげてください。竜胆さんが困ってますよお嬢様」

 少し綺道の説教をくらってから喜多見さんが助け舟をくれた。

 「けどー喜多見さんもひどいと思うでしょ!」

 「そうですね、大事な人のお話を聞くことも大事ですよ竜胆さん」

 「あ、すいません。考え事してて聞いてませんでした」

 「フフフ、そうですか。しかし、お嬢様がここまでされるなんて珍しい。そこまで気に入ってらっしゃるようですね」

 喜多見さんは、まるで自分の子供を見るような目で綺道を見ながら言った。今までそういう男性を連れてきたことは無いのだろうか?少し気になったが黙っておいた。

「うん、だって私の大好きな人だもん!ね!竜胆」

「・・・だな。こんな俺を好きになるんだから綺道は変わってますね」

俺は少し皮肉を込めて言った。

「変わってるんじゃないよ!竜胆が自分の魅力に気づいてないだけだよ」

「俺の魅力ねー。喜多見さんわかりますか?」

「私ですか?そうですねー」

喜多見さんには答えられないであろう質問をぶつけてみた。たぶんそんなのものはないと言って欲しかったんだと思う。

「竜胆さんは優しい方だと私は思います。そこにお嬢様は惹かれたんでしょう」

予想していなかった返答に俺はどうしていいのかわからなかった。自分が優しい?今までそんなこと言われたことがなかった。綺道に言われてたけど、冗談だとばかり思っていた。優しい・・・その一言で何か違和感を感じた。

「そんなことないですよ」

動揺を隠しながら俺は答えた。

「そんなことあるよ。だって、私竜胆のそういうところ大好きだもん」

「フフフ、ほらお嬢様もそうおっしゃってるんですから間違いはないですよ」

「そんなに出来た人間じゃないですよ」

俺は二人から視線を背けて窓の外を見た大きな家が見えてきた。恐らくあそこが綺道の家なのだろう。

「お嬢様、着きましたよ」

「あ、本当だ!竜胆ここで待っててくれる?」

「この荷物、女のお前が持つには重過ぎるだろう」

「大丈夫、これくらい・・・うっ・・・大丈夫だからここで待ってて」

なんだろう?家族に俺を見られたら困ることでもあるのだろうか。

「わかったよ。気をつけろよ」

「うん」

そういうと、あわてた様子で家に向かって歩いていった。


「大丈夫かな?」

 俺がそうボソッと言うと喜多見さんが話しかけてきた。

 「竜胆さん、あなたはお嬢様のことをどう思っているんですか?」

いきなりこんな質問をされて少し困ったが俺は正直な気持ちで答えた。

「そうですね・・・俺は・・・綺道のこと好きだと思いますよ。けど恋愛対象として好きというわけではないんですよ」

自分でも何を言ってるのかわからなかったけど、自分の本心を言った。

「そうですか、その目噓はついてないようですね。もし、お嬢様を騙してるような輩ならお嬢様から離れるよう言おうと思っていたのですが」

一瞬、喜多見さんの顔がこわばったように見えたけどすぐに優しい顔に戻って言った。

「大丈夫ですよ。俺は綺道にいい人が出来たら身をひくきですから」

「そこまで考えてるんですか・・・若いのに色々考えてるんですね」

「いいえ、あいつに自分はもったいないだけですよ」

俺は初めて会った人に何を話してるんだ?けど言わなければならない気がした。

「フフフ、お嬢様が好きになるわけだ」

「はい?」

俺はその言葉の意味が理解できずに聞き返した。

「いえいえ、こちらの話です。それよりもお嬢様が戻ってきましたよ」

話を逸らされた気がしたけど、玄関から綺道が出てきた。

「ごめん、竜胆!」

「いきなり謝ってどうした?」

「実は・・・パパに私も一緒に送るのはダメだって言われちゃって・・・けど、竜胆を送って上げるのはいいって」

綺道は残念そうな顔をしながら俺に言った。

「そうか、ならしかたないな」

「本当にごめんねー」

「気にしてないよ」

「それじゃあ喜多見さんお願いね」

「はい、お嬢様」

そう言うと喜多見さんはエンジンをかけた。

「また明日ね」

「ああ、また明日」

その後、喜多見さんの世間話を聞きながら俺は帰った。喜多見さんは本当にいい人だった。綺道のことを本当の娘のように思っていると話してくれた。そして、綺道の父親を大変尊敬していること・・・色々話してくれた。


  次の日

俺は、綺道に買ってもらった服を着ようか悩んでいた。買ってもらったからには着るのが礼儀なんだが、あいつらにこの服装を見られるのが少し恥ずかしかった。普段着ない服だし、何より綺道に買ってもらったことが恥ずかしかった。そんなことを考えていると綺道からメールが来た。

『昨日買った服を着て学校に来てね』

・・・これは着て行くしかない様だ。俺は、綺道が好きだと言った服とは違う服を着て大学に向かった。さすがにあれを着ていくのは恥ずかしかった。


   大学

「おはよう」

俺は、少し恥ずかしいのを我慢していつもの席についた。

「・・・うわー、真がお洒落してるー」

黒崎が俺を見てそう言った。他のメンバーも同じような反応だった。俺がこういう服装をするのは珍しいようで唖然とこちらを見ていた。

「なんだその反応は、少しくらいお洒落してもかまわんだろう」

女性陣の反応は少し違った。綺道は、自分がお気に入りの服を着てくれなかったのが残念だったのが少しふてくされて見えた。他のメンバーは・・・

前原の場合

「うわー、普段あんな服装してるからこういうの着ないと思ってたけど着るんだね」

物凄く普通の回答だった。

橘の場合

「・・・・お前熱でもあるのか?」

こいつ・・・もう少し他の言葉あるだろ

金井の場合

「へー、まぁ似合うじゃん。いつものダサい服より何倍も」

これには予想外の一言しか言えなかった。こいつは、俺のことを駄目だししかしないだろうと思っていた。けどダサいは余計だろ・・・

「けど、いまいちだね」

一瞬こいつを見直した自分がむかついた。

全員の評価はいまいちだったようだ。

しかし、その後色々服のことを聞かれた。本当に似合ってないのだろうか?少し気になった。みんな口を揃えて「へー」とか「ほー」とか言ってきたけど。綺道もみんなの評価に怒らなかったし。なんだかよくわからない。お洒落は少しずつ勉強していこうと思った。

その後みんなで授業を受けて帰ろうとした時、喜多見さんが車で大学の前でいた。笑顔ではなく少し険しい顔をしていた。

「喜多見さん?」

俺は小さく呟いた。喜多見さんがこっちに気づいたみたいで頭を下げた。下げたと同時に車の中から誰かが出てきた。

「斉藤君・・・」

急に後ろから声が聞こえた。綺道だ・・・あっちも綺道に気づいたようでこっちに歩いてきた。

「竜胆・・・」

綺道が俺の服の裾を掴みながら不安そうな顔でこっちを見た。

「どうした?綺道・・・」

言い終わる前に斉藤と呼ばれた男が

「恵、今日は迎えに来たよ」

「斉藤君、今日はどうしたの?」

「君に会いたくてね。迷惑だった?」

「いや、そんなことはないけど・・・」

綺道がおどおど話していた。どうしたのだろうか?こいつがここまで動揺するなんて・・・どうしたんだろう?

「ほら、一緒に帰ろう。美味しいレストラン見つけたんだ」

斉藤と呼ばれた男が綺道の腕を掴んで無理に連れて行こうとした。綺道が「イタッ」と言ったのが聞こえた。

「ほらほら、速く行かないとお店が閉まっちゃうよ」

「わかったから、痛いよ斉藤君」

「君が遅いから・・・何?」

俺は斉藤の腕を掴んでいた。自分でも驚いたがその驚きよりを感じるより先に口が動いた。

「おい、あんた・・・綺道が痛がってるだろ。離せ」

自分で何を言ってるかわからずしゃべっていた。

「君は?」

「そんなのなんだっていいだろ!痛がってるんだ離せ」

俺は二人を離した。なんでこんなことをしたかはわからないけど、なんとなく綺道の嫌がる顔が見たくなかった。

「竜胆?」

綺道も不意だったらしい不思議そうな顔をした。

「君ねー、部外者なんだから人の恋路を邪魔しないでもらえる?」

「・・・部外者だと?」

「そうだよ。君みたいな庶民が僕みたいなエリートと同じ世界だと思わないでもらいたいね」

「そうか」

 「わかったなら邪魔しないで・・・っておい!」

 俺は斉藤が言い切る前に綺道の手を掴み大学の中に入っていった。


 

 大学の中は軽く入り組んでいるからあいつを撒くには丁度よかった。

 「いきなりどうしたの?驚いちゃった」

 「・・・わからない。体が勝手に動いた。」

 「・・・そう」

 俺は、綺道を連れて一つの教室に入った。大学って言うのは教室がたくさんある割りに全部使っているわけでないので空いている教室に隠れればやり過ごすのは簡単だった。

「ここでいいだろう・・・ん?」

俺は綺道の手を握ってることを思い出して離した。

「すまん・・・色々と・・・ええと、あいつは誰だ?」

「あの人は私の婚約者の斉藤 真・・・竜胆と同じ名前なんだ・・・」

俺と同じ名前・・・ちょっと嫌な気分だ・・・

「あの人何かにつけてお金お金で私好きじゃないんだー。私に会うたびに何か高価なプレゼントをくれるし。いらないって言っても無理やり渡してくるし・・・いつも自分の意見ばっかりで私の話を聞いてくれないんだよ!」

途中から大事な話から愚痴に変わってた。・・・だけど、どうやら綺道が斉藤のことを良く思っていないことがわかり、なんだか安心した。・・・何に安心したんだろうか?俺は今の気持ちを振り払って愚痴を言い続ける綺道を見た。

「なぁー綺道・・・お前はあいつのこと好きなのか?」

俺は何を期待してこの言葉を言ったのだろうか?

「ううん、あの人は私を見てくれない。いつもパパの仕事やお金のことばっかり・・・婚約も向こうから一方的に・・・パパも押し切られて合意しちゃったの」

自分の父親のことを言いたがらなかったのはこれがあったからか・・・

「そうか・・・」

「竜胆は本当に好きなんだよ!」

「そうか。俺も好きかもな」

「え?なんて?」

「二度も言わすな」

なんだかとても恥ずかしいことを普通に言ってしまった。照れくさくて俺は綺道から目を逸らした。

「もう!もう一回言ってくれてもいいでしょ!」

「さて、もうあいつは俺達を見失っただろう。行くぞ綺道」

俺は綺道の腕を掴んで教室の外に出た。

「いないな・・・ん?メール?」

 俺はメールが着てるのに気づいて携帯を開いた。

 『今、あいつ大学の中に入ったから今のうちに出て来い』

苗村からのメールだった。

「綺道、あいつ今この中にいるらしい。行くぞ」

「え、あうん。竜胆・・・また聞かせてね」

「・・・・」

俺は、無言で綺道の腕を引っ張って大学の正門に出た。そこには苗村達が待っていてくれた。喜多見さんも待っていてくれた。

「すまんな。待たせた」

「んー?かわいい恋人のためにしたんだろ?それならしかたない」

黒崎が笑顔で言った。いつものからかい口調ではなかった。

「チェッ、お前が動くから私の出番が無かったよ」

橘が不服そうだったけど俺の肩をパンパンと叩いて「よくやった」と言った。

「んじゃ、帰るか。あいつが戻ってくる」

俺はそう言うとみんなの先頭を取って歩いた。喜多見さんに一礼してから駅に向かった。

 

  自宅

俺は、ふぅーと一息ついて部屋に横になった。今日は色々あった。みんなに買ったばかりの服を披露したり、斉藤という綺道に婚約者がいたこと、そいつのことを良くは思っていないこと色々聞けた。色々ありすぎて頭がこんがらがってきた。

ふと、自分の携帯を見ると着信が一件あった。綺道からだった。恐らく今日のことだろう。

「もしもし綺道か?」

「あ、竜胆!ええとね・・・今日は本当にごめん」

「気にしてないよ」

「ほんと?怒ってない?」

「なんで?」

「私が噓ついてたから」

「ん?言いたくなかったんだろ?なら仕方ないさ」

「うん・・・あのね竜胆!」

急に言葉に力が入った。

「なんだ、あらたまわって」

「実はね、私・・・」

「ストップ」

電話の向こうで綺道が思いつめてると思って俺は止めた。こいつの苦しむ姿なんて見たくもなかったし、何より今は聞きたくなかった。

「ううん、今言わないと後悔するから」

「そうか。なら教えてくれ」

綺道は本気のようだ。

「私ね、婚約した時にパパにある約束をしたの」

「約束?」

「うん、私ね・・・大学四年間の間に好きな人が出来てお付き合いが出来たらパパに婚約を破棄してもらうって」

「ふむ」

「だから・・・」

「色々わかったよ」

「ごめんなさい」

「お前も焦ってたんだろ?なら仕方ないさ」

こいつが色々順序を飛ばして俺に告白したのが頷けた。

「それに・・・まだ一年半あるんだ。少し気長に行こうぜ」

「私、竜胆を利用したんだよ?怒ってないの?」

「でも、俺のこと好きなんだろ?」

「うん・・・」

「なら問題ない」

「え?」

「気にしてないってことだよ」

なんだかこんな重たい話をされたのに俺は何故かなんとも思わなかった。むしろなんだか安心したような気がした。

「それだけ聞けたらいいよ。またな綺道」

俺はそういって電話を切った。また明日・・・そうまだ時間はあるんだ。俺はゆっくりあいつのことを知っていけばいい。


   次の日

今日は、すっきりとした気持ちで起きれた。今日も楽しい一日になりそうだ。

「真―!真―!」

母さんが下で呼んでるなんだろう?

「真ちゃん」

部屋に入ってきた。急ぎの用事なのかな?

「真ちゃん、外で女の子が来てるから早く行ってあげなさい」

「はい?誰だって?」

「この前来た子よ」

綺道?俺は窓から玄関を見た。綺道だ。あれ?なんでまた?

「ほら、女の子を待たせるものじゃないわよ」

そう言って母さんは部屋から出て行った。あれ?なんで?

俺は、早々と着替えて玄関に行った。

「あ!竜胆おはよう!」

「あれ?なんでお前ここに?」

「ええと・・・実は近くのアパートに引っ越してきたの」

「はい?」

「竜胆と一緒に居たくて来ちゃった」

笑いながら綺道は言った。そんな簡単に決めていいのか?つか、そこまでする必要あったのだろうか?

色々考えていると綺道が俺に話しかけてきた。

「どうしたの?難しい顔して」

昨日あれこれ重い話をしてたのにもう笑顔でいられるとは切り替えが早いな。

「いや、お前が気にすることじゃないよ」

訳がわからないような顔をしてる。

「んじゃ行くか」

「え?あ、うん」

俺は、前みたいに綺道を自転車の後ろに乗せて俺は自転車をこぎ始めた。

「なぁ、綺道」

「何?」

「本当に俺なんかでいいのか?」

俺は何を聞いてるんだろうか?

「竜胆しか嫌だよ。だって・・・」

何か言ったみたいだけど、風の音で最後の部分が聞き取れなかった。



   大学

今日は二人で一緒に登校したのをあいつらに夫婦とか色々言われたが不思議と嫌じゃなかった。なんだか、このメンバーで授業を受けるのも悪くない・・・そんな気がしてきた。

俺をネタにふざける黒崎と徳山、追い討ちをかけてくる苗村、そのノリに平然と入ってくる橘・・・なんだか、俺の立場どんどんひどいことに・・・それを横からクスクス笑ってる前原、金井は、相変わらず俺のことが嫌いらしい。話しかけても無視をする。

綺道は、俺のことをフォローしてくれるけど、天然のこいつのフォローはむしろ俺をひどい状態に持っていく。こいつ本当にフォローへたくそだなーと思いつつ笑っていた。正直いつもの流れだ・・・こんな日常がいつまでも続いて欲しいと思った。

授業も終わって夕方前だったからみんなでカラオケに行ってワイワイやった。これは綺道がいてくれるから楽しいのか?今の俺にはわからなかった。けどこの時間はこの大学三年間で一番楽しかった。心の中で綺道に『ありがとう』と言った。本人に言うのがなんだか恥ずかしくて黙って心の中で言った。後で聞いたんだけど橘、今日授業がなかったらしい・・・理由を聞いたらお前達のことが気に入った!の一言だった。

ひとしきり遊んだ後、空は暗くなっていた。

「んじゃ帰るか」

俺が駅に向かって歩き出すと苗村と綺道が着いて来た。苗村は、綺道が同じ道を来るのを不思議そうに見ていた。

「綺道さん、なんでこっちに?」

「あ、言ってなかったね。今日、竜胆の家の近くのアパートに引っ越してきたの」

引っ越してきたくらいで本当に楽しそうだな・・・俺はなんとも思ってないのに。

「本当に?」

「こういうの噓ついても仕方ないじゃん」

それを聞くと苗村が俺の所に来て「・・・どういうこと?」と一言言った。

「ああ、なんやら家の近くに引っ越してきたらしい。一緒にいたいんだとさ」

俺はちょっとやる気なく答えた。

「・・・ああ、そういうことね。罪な男だねー真も」

「そうかい、俺は何もしてないけどな」

「羨ましいねー、俺も恋したいわ」

「ふーん、お前、前原さんとよく喋ってるじゃん。あれはどうなんだ?」

「んー、あの子は・・・俺に興味ないみたいだ」

そういいながら笑ってた。俺から見るに少なからず興味はあるように見えるんだけどな。

「まぁいいか、帰るぞ」

「おう」

「あ!二人とも置いて行かないでよー」

綺道が置いていかれまいと走ってきた。

これからは、これが俺の日常になるのかな?それはそれで楽しいんだろうなー。

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