キャラメルはお断り
しかし、そいつの正体が分からない。
誰だろう、こんなことをするのは。隼人だったらかろうじて許してあげようか。
そんなことを思っているとそいつが、やっと顔を離した。
それなのにまだ私の口内には大嫌いな味が残っている。
舌ではなかった。
じゃあ、何だろう。
いくつもの疑問が浮かび上がる中、それは食べ物だと分かった。
そいつの顔が見えた。
綺麗な長髪。
胸元のネックレス。
そいつは、ふっと微笑んだ。
笑うと意外に幼い顔。
美しい女性。
──陽子だった。
「カンナ」
陽子は私の名前を呼んだ。
私の内ももにスラッとした白い手が置かれていた。そのことについては気にならなかった。口の中に含まれている甘い物を一刻も早くどうにかして欲しい。
「えっ──」
*
「カンナ」
目を開けると、隼人がいた。
「陽子?」
何が起きたのか分からない。
私は陽子を探した。
「ちげぇよ」
隼人しかいなかった。
寝ぼけすぎ、と隼人は笑う。
夢…、かぁ。久しぶりに見た。
「あ…隼人だ」
よく見ると、というか上半身裸だった。そうか、あの後私は寝ていたんだ。全てを理解できた。
「俺だよ」
また隼人はバカにして笑う。
「もう」
そうは言いながらも嬉しかった。…夢で良かった。
「カンナは可愛いな」
「だから…」
言いかけた時、隼人は私を抱き寄せキスをした。
キスの後、隼人の上半身を見た。ふと窓を見てみる。
空は青い。嫌になるほど平和空だった。しばらく空を眺めた。隼人は服を着ようとしていた。
──って朝じゃん!
マジかよ。時計は7時を指していた。
「モロ朝帰り…」
呆然とする私を隼人がギュッとする。
「良いじゃん、初朝帰り」
「うん…」
家に帰ると、鍵が閉まっていた。わー、わー、どうなるんだろう、などと思ってみる。
誰もいなかった。良かった。
隼人の家での不安さが馬鹿みたいだ。
何で不在なのかは深く考えないことにした。すぐ帰ってくる気がしたからだ。昨夜帰らなかった言い訳を考えようとした。
リビングの白いソファにドサッと倒れ込む。
この感じ、やっぱり我が家。
ピカピカのフローリングにハンドバッグをテキトーに置く。
あの夢を思い出してしまった。
言い訳よりもあの夢のことについて自問自答させ、二度と思い出さないようにしよう。
このままじゃ、あの夢を思い出す度可憐な陽子と会話が弾まなくなりそうだ。
目を閉じてみる。
陽子が、私にキスをして、キャラメルを口移しする──。手の位置も何だかいやらしい意味が込められている気がした。
まだ興奮状態な頭を整理させて、分かったことが1つ。
あの甘いやつはキャラメル。
おえっ…最悪。
夢にしては味を鮮明に覚えている。よほど衝撃的だったのだろう。