甘いキス
「カンナ」
隼人が私の名前を呼ぶ。
行為を終えた私たちは、ベッドで横になっていた。
「なぁに」
手を頬に当てて、腕で逆三角形を作る隼人が微笑む。
「好きだよ」
「あたしもだよ…今日だって友達が隼人の作ったガトーショコラ美味しいって言って、笑顔になってたの見て嫉妬しちゃった」
「何だよそれ」
隼人が吹き出す。
「何であたしは甘味が嫌いなんだろう…」
「関係ないよ。カンナはカンナだし、そんなこと問題ないだろ」
そう言って私のおでこにキスをしてくれた。
「でも、ショートケーキ頼んだからね。食べれなかったけど…写メは撮ったからね」
「十分だよ」
私と隼人は5秒くらい見つめあった。
「いつか、俺にケーキ作ってよ」
隼人は確かにそう言った。私の本音はとんでもないと思ってしまう。何故、嫌いなものを自ら生み出さなければいけないのだ。そんなことを思いながらも、
「うん」
と私は一応、応えた。
「やった。やっぱ良いよな…彼女の手作り」
嬉しそうにする彼氏を見て、私は作ってみても良いかなと思った。私のつまらない愚論なんかより隼人の喜ぶことをしてあげたい。
それが、何よりだった。
「愛してるよ」
再び抱き合ったのは、言うまでもないだろう。
*
誰かが、私にキスをしている。
私は寝たフリをしているみたいだ。
得体の知れないそいつは、ソファの上に仰向けになっている私の横にいた。決して上から襲いかかっているわけではない。そいつの足はピカピカなフローリングに膝立ちしているようだ。
軽く唇が触れる程度が、段々長くなる。しまいには舌が入ってきそうでならない。
案の定、私の口の中に何かが侵入してきた。
甘い。
吐き出したくなる。
世界で一番、嫌いな味。
一体、私の中で何が起きているのだろう。
そんなことよりとにかく、この口の中を誰かどうにかしてほしかった。