我儘は欲情
「今日は、ありがと」
「こちらこそ」
コンビニ前で、陽子と別れる。
今日は元々、陽子のショッピングに付き合うのがメインだった。
「ねぇっ」
私はつい、陽子を引き留める。
「ん?」
振り返る彼女は美しかった。空は暗くて、コンビニから漏れる照明のおかげで姿が確認できる。
無駄に明るい、コンビニの汚ない照明に照らされても美しい陽子。
「陽子はカレシとかいないの?」
思い切って投げ掛けた質問に陽子はふっと笑って、
「いないよっ」
そう言って、手を振って帰っていった。
私は携帯を開いて、時間を見た。メールが一件届いていた。
差出人は店長──隼人からだった。急に嬉しくなる。
“いつもの公園で待ってる”
受信が三十分前だったから、走って待ち合わせ場所に向かった。
「よっ」
小さな公園には隼人がベンチに座って待っていた。
「遅くなってゴメン」
「いいよ。今日、店に来てくれたんだし」
隼人の優しさに、私はいつも溶けそうになる。
「…餅…ありがと」
「ははっ、あんなんで悪いな。カンナ、餅なら食べられると思ってさ」
「隼人…」
感無量というとこだろうか。
この人とずっと一緒にいたいと思った。
「また来てな」
「うん」
もちろん、と言って、隼人を抱きしめる。
ギュッと重なりあう体から、体温が伝わる。
私が体を離して隼人の顔を見る。
──ばか。私のことスキって、書いてあるわよ。
そう思ったのと同時に、唇が触れる。
甘いのは嫌い。
甘ったるいのはもっと嫌い。
だけど、隼人との甘いキスは好き──。
我儘だって分かっているけど、ずっとこの柔らかい唇に触れていたいという気持ちの方が遥かに強くて、私たちは長い間キスをしていたと思う。
「…カンナ。どうした?」
「えっ?」
「いつもよりカワイイ」
「…ばか」
愛しくて仕方ない。
「今夜、家来る?」
「うん」
誘いが嬉しくて、今度は私から深いキスをした。喫茶店で働いている隼人の舌は、甘かった。きっとケーキでも試食したのだろう。
甘さより、私は舌の感覚に夢中であった。
まさに、幸せの絶頂だった。
いつか終わりがくるなんてフレーズは、一文字も浮かんでこなかった。