表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
砂糖と雑巾  作者: お空
23/24

もう、サヨウナラ


私の傷は癒えそうな気がした。

今でも隼人のことがたまらなく好きだけど、誠司くんがあんなに優しく愛してくれている。

それで、いいじゃないか。

昨日のデートを思い出し、快感に浸った。


携帯が鳴った。

時間にして夜の21:00だ。

「今から会えない?」

隼人からのメールだった。

嬉しさと切なさが交差する。

私は体だけなのだ。菜々子と同じ、性欲処理係。心は陽子が支配している。


「会えるよ」

私はそれだけ返信した。

聞きたいことを、全て抑えて。


沈黙が流れた。

場所は、喫茶店“優香”に決まった。隼人の都合に、私が合わせた。しかし、そんなものは建前であり、本当は隼人の家に行きたくなかっただけだった。

 色んな女を抱いている家、しかも陽子の写真が隠されている。

切なくなって、表情が暗くなるのはゴメンだ。


「あのさ」

隼人がやっと沈黙を破った。

私達は一応付き合っているが、二人の関係が急速に冷えていることは隼人にも分かるようだ。

コーヒーをすすった。


「うん」

別れ話だな──そう思った。


「言わなきゃいけないことがあるんだ」

隼人の顔色が見えないのは、私がうつむいているからである。

怖い。ついに来てしまった、この日が。


「…うん」

私は必死でうなずいた。


「この店の事なんだけど」

隼人は言った。良かった、とホッした。それを表に出さず、私は「うん」と口にした。


客は私一人だ。

隼人が作業着で、私の目の前に座っている。

こんなに近いのに、あんなに遠い。


「この店の名前、優香っていうだろ。女の名前。これ、誠司の元カノの名前なんだ。」


「えっ?」

何が言いたいんだろうか。


「誠司が優香にフられて、店の名前を優香にしたら、もしかしたら優香が店に来るかも…ってさ。バカだよな」

笑った隼人はカワイイ。


「そうなんだ、誠司くん…」

そんな過去があったなんて知らなかった。


「あのさ、…だから、俺、カンナが一番好きなんだ」


私は何も言えなかった。


「カンナさ、勘違いしてんじゃねぇかなって。最近、全く連絡ないしさ…心配になった」


恥ずかしそうに、隼人は話す。

優香って女の名前の店を、私が焼きもち妬いてると思っているんだろう。


私は黙って聞いた。


「カンナ、好きだよ」

そう言って私の唇を合わせた。

幸せな筈なのに、言葉の1つ1つが冷たく聞こえる。

でも、隼人の表情は温かった。


両方の頬から、涙が溢れた。

零れる涙は大粒で何故か止まらない。泣かないようにしていたのに、一度崩れたらどうしようもないのは分かっていた。

あれだけ、別れの覚悟していたのに──。


「…ごめっ…」

謝った。隼人は驚いている。

嬉し泣きなのか、何なのか判断がつかないようだった。


「カンナ?」

相変わらず、隼人は優しい。

カッコイイし、優しいし、笑うとカワイイし、なのに何で涙が止まらないんだろうか。


「もう、嘘っ…つかなくて、いいよ…」


隼人は何とも言えない顔をしていた。私には“陽子が好きだ”という表情にしか見えない。


走ってその場を立ち去った。





次回、最終回になるかと思います!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ