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砂糖と雑巾  作者: お空
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新しい甘さ


私は今、誠司くんと2人きりで夜の公園にいる。

時刻は0時を回っている。


何故、こういう状況になったかというと、遊園地で私達は別行動になってしまったのだった。




誠司くんと菜々子がキスしているのを遠目から目撃してしまった私は、何事もないように席に着いた。(当たり前だけど)。


これも当たり前のごとく、2人共何事もなかったような態度だった。

私は知りすぎていないか?

そういう疑問が脳裏を横切ったが、先程の陽子と隼人の件について頭がいっぱいだった。

色々考えたいが、どうも私の脳には容量というものがあるらしい。


「おかえりー」

菜々子が笑顔で言った。


「ただいま」

私も笑顔で返す。

作り笑顔と作り笑顔の掛け合いは非常に雰囲気が濁る。


「あ、メールだ」

すぐに菜々子の携帯から着信メロディが聞こえる。


「誰?」

誠司くんがニヤッとする。


「彼氏じゃないよ!」

否定する菜々子に、どうだかと誠司くんはつぶやく。

私は黙っていた。とてもじゃないけど喋れる気分ではない。


「え、陽子と隼人、もう帰るって…」

菜々子の目は驚きに溢れていた。

「マジかよ…ありえね」

「ビックリ…」


はぁ?


「だね」

私は話を合わせた。


「あの二人付き合ってたのかなぁ」

菜々子が頬杖をついた。


「さぁ…」

誠司くんと菜々子はお芝居をしているのだろうか。

それとも本気なのだろうか。

分からなかった。


「陽子、珍し…」

私はつい溜め息をついてしまった。


「ん?寂しいんでしゅか?」

誠司くんが笑う。


「ばっ…!うっさいなぁ」

「そんなこと言っちゃって」


談笑は続いた。

しかし、隼人と私のことは言えなかった。

それ以上にショックが大きすぎた。


「あ!私もう帰らなきゃ!」

バタバタと菜々子は退園してしまった。

誠司くんと私は戸惑いを感じたけど、菜々子があまりにも急いでいるので訳は聞けなかった。


「どうしようか」

ニッコリしてきた。

カッコイイ…だけど苦手なのに変わりはない。


「出る?」

「そうだね」


短い会話で、居酒屋とかに行くのかと思った。しかし、着いたのは何故か公園だった。



「3人ともどうしたのかな」

ベンチに座って、誠司くんが空を見た。私はベンチに座らず、立っていた。

菜々子とのキスを見なかったら、心を開いていたかも知れない。


「ほんとに、そうだよね」

私にはそれで精一杯だった。

もしかしたら菜々子と陽子と隼人の3人で今、ラブホにいるのかも…と考えてしまった。


「なぁ」

誠司くんの微笑みは優しい。


「うん」

あまり喋りたくない気持ちの方が強かった。


「泣けよ」

「えっ?」


唐突すぎて理解に難しい。


「泣きたいくせに」

「別に…」

口調に腹立たしく思える。


「本当は付き合ってるんだろ?」

何も言えなかった。

この人の表情は優しかった。

最近、失せかけていた安心感が蘇って、気付いたら頬に涙がつたっていた。


涙は何故か止まらない。


「気付いてるよ…」

誠司くんの声はかすれていた。

良い声が更に心地よい。


無意識のうちに、誠司くんの隣に座っていた。両手で顔を覆った。情けないという思いが込み上げるが、泣きたい気持ちしか頭にない。


「俺、カンナの事好きなんだ」


私を抱き締めた。





私は、誠司くんの家に居た。

「落ち着いた?」

コーヒーを持ってきてくれた。


「うん。ありがとう」

笑顔が漏れた。


「良いよ」

誠司くんはそう言ってくれたけど、菜々子とのキスを目撃してしまったことが忘れられない。

私への告白は嘘だと思った。


「どうした?」

私の表情が暗くなるのを見て、尋ねてきた。


「あの」

「うん?」


行け、私。


「菜々子とキスしてたよね」

誠司くんは不思議と狼狽えなかった。


「あぁ」

「気にしない方がいいのかな」

「菜々子が今夜誘ってきただけだよ」

「そうなんだ」

「まぁ、今ここに居るってことが結果だけどな」


ときめきを感じた。胸がキュッとなる。だけど、隼人の顔が浮かび上がるのは何故だか分からない。

「嬉しいな」

コーヒーをすすった。

誠司くんの顔を見てみる。


少し頬が赤かった。

カワイイな、と思う。


いつの間にか苦手意識はぶっ飛んだ。自分に好意を抱いていることだけじゃない。こんなにも素敵な人だとは知らなかった。


「もう遅いから、送ろうか」

芸能人の事で話が盛り上がり、一息ついたところで誠司くんが切り出した。コーヒーの二杯目を飲み干したくらいだった。


「ありがとう。でも大丈夫だよ」

「大丈夫じゃねぇよ。カンナ襲われたら俺が嫌なの」


「なぁに、それ?他の男に触られるから?」

私は笑った。


「違う。カンナがやな思いさせんのあり得ないから。大切にしたい」


私の顔は真っ赤になったと思う。こんなのは初めてであり、ドキドキする。


「えっ、じゃあお願いします…」

「おう」と誠司くんが私の手を握る。優しかった。


告白の返事は、yesである。




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