甘さは求めない2
「ここの店良いね」
私が連れてきた喫茶店は、“優香”という小さな店を陽子は気に入ったようだった。
「そうかな?ケーキ食べないから分かんないけど、私は好きだよ。ここの店」
コーヒー(もちろんブラック。ミルクなど入れない)はかなりレベルが高いと思う。
「だよね」
陽子がふっと笑う。長い髪は今日も枝毛なく美しい。胸元の小さなネックレスは彼女の艶かしい肌に映えて、大人っぽさを演出している。その反面、顔や言動はちょっと幼い。まだ反抗期をぬけてないような──。
「ウチになんかついてる?」
ハッと我に返る。
私は、陽子にうっとりしてしまった。
「ついてる」
「うそっ!」
陽子が鏡を取り出す。
「嘘」
「もぉー」
私なんかより、陽子は百倍、良い女だなと思う。こんな、肩にタトゥーシールを貼ってるような私なんて足元にも及ばなさすぎる。
ヒールがいくら高くても、陽子には届かない。
雑談に花が咲いてると、若い男性のスタッフが私たちのテーブルに来た。
陽子が不思議な顔をする。あどけなくて、また私の心を締め付ける。
「店長から、特別にデザートをどうぞ」
若いスタッフは言う。結構カッコイイ。バイトだろうか。茶髪の髪は今どきっぽくて、鼻が高い。
唇がセクシーで吸い寄せられそうだ。
「本当ですか!ありがとうございます」
嬉しそうに陽子がお礼をした。
私は足を組かえて、デザートを眺める。
餅、だ。
若いスタッフが去ったのを確かめて、私と陽子は目を合わせる。
「ぶっ…餅…」
吹き出す陽子を見て私も口を押さえて笑う。
それは、白い皿に丸餅が二つ乗っていた。醤油で焼いてあるようだった。
私は、小さな店内を見回した。
厨房に繋がる入口の方から、熱い視線を感じた。
「カ・ン・ナ」
男の人は唇だけ動かして、私にあたたかい微笑みを送る。
キュン、と胸が弾む。
苦しいと私の脳は訴える。
幸せにまみれて、甘いものを嫌う、私の脳が。
その男の人に笑顔を返した。
「どうしたの?」
陽子が私を見る。
「ううん。なんでもない」
「そっか」
「うん」
「カンナ餅食べる?っていうか餅は食べれるの?」
「うん!食べる」
店長から特別に頂いた餅を見て笑みがこぼれる。
この店の店長は、──私の大切な人で、彼氏である。
*