最悪と最高の狭間は今
遊園地に行く日がやってきた。
どんなに頑張っても時間は待ってくれないらしい。
隼人と陽子は愛し合っている気がしてきた。なのに、何故私と付き合っているのだろう。
不思議で仕方ないが、別れるよりは良い気がする。
待ち合わせ場所は“優香”だ。
誠司くんと菜々子と隼人がいた。どんな顔をして会えばいいのだろう。
「もしかしてカンナ?」
誠司くんが言った。
「…うん」
そういえば、誠司くんはWデート希望だったのに私が乱入してしまい、機嫌が悪いと思ったけどそうじゃないみたいだ。
「へぇ…」
誠司くんは、はっきり言って変わっていた。ワイルドな雰囲気は消え、普通の大学生のような格好だった。しかしイケメンなのは変わりがなかった。
「久しぶり」
私は頭を少しさげた。
「うん」
誠司くんが微笑んだ。
良かった。
「あれっー、そこのお二人さんはイイカンジですかい?」
菜々子がニヤッとする。女のコらしいカバンが膝の上に乗っている。
「ばかっ。俺のカノジョだし」
隼人が言った。
複雑な気持ちになりながらも、
「そうですー」
と言った。
そんな掛け合いをしていると、陽子が来た。いつもより気合いが入っているようにみえるのは私だけかも知れない。
「遅れてゴメン!」
陽子が私の隣に来た。
「いいよ、いいよ」
4人共口を揃えて言った。ふいに隼人を見てみる。隼人は笑っていた。
「あっ、そうそう!」
陽子が高そうなカバンから何かを取り出す。
「おっ、マフィン!」
誠司くんが嬉しそうにしている。どうやら甘いものが好きらしい。
「そうよ!皆の分、作って来ちゃった」
そう言って、菜々子と誠司くんと隼人に渡した。
「へぇ、ありがとう。美味しそう!相変わらず、女のコらしいね」
感心したように菜々子が言った。やられた!というふうにも聞こえる。
「菜々子には叶わないよ。ラッピングも雑だし。…あ!カンナは、これ」
そう言って陽子がくれたものはテディベアだった。
「カンナ、まだ甘いもん食えないんだ?」
誠司くんが聞いた。
「うん。テディベア…カワイイ!ありがとう」
「いいえ」
陽子は可愛く笑った。いつも通り、いつもの優しさ。なのにそれが全てじゃないだなんて、私は知っている。
私は思い出してしまった。
あのマフィンのラッピング。
隼人の家に侵入した時に、ちょっとシンプルなマフィンが置いてあった。それに疑問を抱いたのは、陽子の家で昼食を作った時、引き出しの中に、マフィン用のラッピングセットが入っていたのだ。
ということは、陽子は菜々子や誠司くんよりも先に隼人へ渡していたのだ。もしかしたら、マフィンの出来を喫茶店で働いている隼人の意見を聞きたかったのかも知れない。でも隼人はこの場でも、もらっている。
皆、平等──。
そう思わせるためだろうか。
だけど、私は甘いものが嫌いで良かったと思っている。もしマフィンを受け取ってしまえば、切なすぎてどうしようもなかったからだ。
現地に着くまで、私の頭の中は陽子と隼人のことだけだった。
菜々子はやはり優しく、いつもと変わりはなかった。
私達は入園した。
ここから、私の運命が変わるなんて、夢にも思わないだろう。