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砂糖と雑巾  作者: お空
17/24

<kiss>

陽子の名前が液晶に表示されている。

出たくない。

喋れる自信がない。

だけど逃げるのはもっと嫌だ。


私は震える親指で通話ボタンを押した。


「…もしもし、陽子。どうしたの?」

いつもと同じを装い、知らないふりをする。

私は陽子も隼人も好きだ。

だから、縁は切りたくない。

またやり直せるから…そう思う。陽子は大切な友達で、それに変わりはない。いつか許せる。思い込んでも、この気持ちは変わらない。“どうして”?


『今度さ、遊園地行こうよ?』

陽子はいつもと変わらない。


「あっ…うん、良いね」

私は明らかにいつもと違うだろう。


『でしょ?それでさ、菜々子と隼人と誠司くんと私とカンナで行こうって話よ』

陽子は楽しそうに話す。それは隼人が来るからだろうか。


「あはっ…誠司くんかぁ。懐かしいな」

岡本誠司は高校時代の友達だ。いや、 今度の遊園地に行くメンバーは高校時代の部活で一緒だった

メンバーだ。しばらく連絡を途絶えていたが、つい半年前からご飯に行ったりするようになった。


『カンナはそうなるかもね』

ふいに陽子が言った。

私は誠司くんが苦手だ。

整った顔立ちは多分隼人よりカッコイイだろう。だが彼は昔から大人びていて、私はよく分からなかった。どうも中学の時に童貞を卒業しており、遊び人の割にはお金持ちだ。高校時代では内緒でタバコを吸っていた。ここまではただの不良だと見えるかも知れない。 しかしそれらが似合う男なのだ。ちょっと背伸びをしたピアスも誠司くんを引き立てている。

ふいに吸うタバコも、煙をはくときの横顔は素敵だと思う。

そんな所が苦手である。 私にはどうも合わない。そんなこんなで、私だけ誠司くんにあまり会っていない。しかもフリーターという重荷を背負っているので。


「まぁ」

私は適当に答えた。


『ふふ、じゃあまたね!待ち合わせ場所はメールで知らせるね』


「うん、じゃあ」


通話が終了すると、私は少し嬉しくなった。

隼人に会えると思えば胸が踊る。今度のデートで魅返してやればいい。

それだけの話だ、と考えた。


「カンちゃん、ちょっとお醤油買ってきてくれるー?」

奥から母さんの声が聞こえる。


「いいよー」

私は向こうの台所まで聞こえる大きな声で言った。

簡単に行く準備をして、外に出た。

空を見上げてみる。

曇っていて、灰色の空だった。雲はなんだか厚くてグレーにも見える。

汚い空でも気分がスカッとする。

私は大股でスーパーへ向かった。気付かないうちに外は冬に近づいたものだ。


喫茶店“優香”が見えた。

隼人、いるかな──。

ガラス張りになっている所から覗いてみた。



隼人と陽子が楽しそうに会話しているじゃないか。



目を疑った。

しかし目の前の現実は変わらない。隼人は作業着で、陽子が私服。しかもあれがブランド品だということが女の私には分かった。

隼人に会いに行くのに、良い服を着ていく。

私は勝手にそう捉えた。

いや、実際にそうだろう。

二人は楽しそうに会話をしている。作業着の店の奴が客と会話。信じられない。そう思う。



その瞬間、隼人が陽子の頬にキスをした。



陽子の顔は恋する少女のように、頬が赤くなる。



体だけの関係じゃない…。

それは何となく分かった。

しばらくそこで様子を見ていた。動くエネルギーが湧いてこない。



陽子と目が合った。



陽子の目が後悔に変わるのが分かった。

私が睨んだからだ。


走って、家に帰った。

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