浮気相手
23:00
私は部屋で何となく携帯をいじっていた。データフォルダを眺めていると、隼人が作った、喫茶店「優香」のショートケーキの画像が目に映った。
陽子と店に行ったとき撮ったものだった。
私は前、隼人にこんな質問をしたことがある。
「どうして喫茶店の名前が女の人の名前なの?」
そう聞いたら、「知らない」と言われた。
隼人の本当に好きな人の名前だろうか?と、今だから考えてしまう。
次はアドレス帳を整理しようと思った。
気付かないうちに登録数が増えていてビックリした。
“菜々子”
その名前を見て、考える。
本来なら菜々子は、私は彼氏がいないと思っている筈だ。
ファミレスでの会話で、「カンちゃんは良いダンナ見つかるんだろうな」、みたいなことを言われたからだった。
なのに隼人の前では“カンナには渡さない”などと言っていた。
…大体想像はつくが。
おそらく菜々子は隼人と私が二人きりでデートしているところを目撃したのだろう。
菜々子の番号に発信した。
呼び出し音が鳴ると同時に鼓動が高まるのが分かる。
『はい』
菜々子が出た。まぁ当たり前の事なのだが。
「もしもし」
昔ながらの“もしもし”を口にしてみる。
『どうしたの?』
私は思わず拳に力を入れる。
用件などないからだ。
「いやっ…今日はありがと」
『あぁ、いいのよ』
優しい口調で菜々子は言ったが、なぜか迷惑そうに聞こえたのはきっと私だけだと思う。
「今日は何してた?」
まるで菜々子の彼氏のような台詞だな、と我ながら感じた。
『彼氏と遊園地よ。もちろん向こう持ちでね。金持ちのこいつと結婚しようと思ったわ』
菜々子は嘘をついた。
いつもの私なら、素直に受け入れ、そして羨ましがっていたことだろう。
「へえ、良いなぁ」
一応いつものように羨ましがった。
『ホントにそんなことないよ』
ふっと菜々子は否定した。
「その彼氏とHはした?」
言ってやった。
『え、あぁ…』
狼狽える声が聞こえてくる。
ざまぁ。
『18:00には彼氏の家に行って…、そのままよ。で、さっき無理矢理帰ってきたの』
「その彼氏のことスキ?」
私の質問攻めに戸惑う様子だった。
『まさか。あり得ないわ…お財布代わりよ』
私の…私の最愛の人はお体の相手ですか。そう思った。
「ははっ、さすが菜々子!」
『…………』
何か言えよ。
「じゃ、また」
私が一方的に切った。菜々子は完全にアリバイを作っている。
もう何だか、菜々子がうざったい。