衝撃の事実
数センチ、ドアを開ける。
話声がよく聞こえた。残念ながら私には二人の姿が見えない。女の声の主と一致させるのに時間がかかる。
信じられない。
「隼人さ、彼女いるでしょ」
間違いなく、女の声だ。
「…いないよ」
隼人が言った。
え?
「嘘ばっかり」
「菜々子しか見えてないよ?」
「あんっ…嬉しい…」
はい?
私はドアをゆっくり閉めた。
先程の声を理解するのに数十秒かかったけど、全てを悟るにはそれほど時間はかからなかった。
隼人の浮気相手は菜々子だ。
隼人も菜々子も、私に嘘をつき秘密で会っている。
私はもう一度ドアノブを握った。さっきの要領で回す。
今度は覗いてみた。
右目だけが隼人の部屋に侵入する感じで。
私が見たものは最悪だった。
玄関の奥に、ベッドが見える間取りになっている。
そのベッドの上には隼人と菜々子が裸で抱き合っているではないか。
「カンナなんかに隼人は渡さないんだから…」
菜々子は隼人にキスをしながら言った。
「菜々子カワイイ」
確かに隼人が言う。そんな。
バレる前にすぐにドアを閉めた。ボロボロの階段を駆け降りた。
走って家に帰った。
両目からは涙がとめどなく溢れ、頬を伝い落ちていく。
大人が走りながら泣く、なんて光景はどうでも良かった。
家の前に着くと、相変わらず鍵は閉まっていた。
ショックだった。泣きすぎて真っ白になる。
それでも隼人への想いは消せない。胸が張り裂けそうでおまけにトゲが痛いような感覚も消えない。頭のどこかが真っ白なのだ。
しばらく泣いた。
何もしなくても涙は枯れない。
ただただ、あの場面を思い出すと目に大粒の涙が溜まり、いつしか頬を流れている。
昨日の夜、私としたのに。
そのせいで母さんの行方が分からなくなったと言っても過言ではない。
今日の朝、キスしたのにどうして?
自分で問いかけるが答えは出ない。菜々子は今日、彼氏と会うと言っていた。菜々子の彼氏は見たことがある。お金持ちの地味な奴だった。金を持っている事が理由で付き合っていると話していた。
なのに…。
「あら、カンちゃん。こんなところでどうしたの?」
母さんの声が、聞こえた。