甘さは求めない
一文でも読んで頂けるだけで、幸せです。
「嫌い」
カンナは、目の前に出されたショートケーキに向かってつぶやいた。
「え」
友人が驚いてカンナを見る。
無理もない、喫茶店でショートケーキを頼んだのはカンナ自身なのだ。
「あ、いや」
陽子の驚くような視線に耐えられず、ゴメンと軽く謝った。
「ビックリしたぁ、イチゴの乗ったショートケーキは嫌いだったんだ!イチゴのあるのと
ないのとじゃ全然違うもんね。私はイチゴが乗ってる方が好きだけど」
「まぁ」
「メニュー表に、写真1つ載ってないって、ある意味異常だよね」
陽子が手書きの可愛らしいメニュー表を手に取り、思ってもないことをフォローした。
*
私は、甘いものが嫌いだ。
──山本カンナ
「名前を漢字に当てはめるとしたら、“甘奈”でカンナじゃない?」などと友人にほざかれた時は吐き気がしたほどだ。
目の前に出された白く輝くショートケーキ。ホイップの頂上には真っ赤なイチゴ。
──大嫌いだわ!
とは言え頼んだのは私である。
頼んだ理由、それは恥ずかしい限りなので詳しくは言わない。
だけど、私が食べるためではなく、…誰かのため。
陽子はコーヒーを一口飲んで、私のくそ不味いショートケーキより一際デカいガトーショコラを崩す。
「うまそう!」
へぇ、そんなに好きなのか。
私はつい陽子をじっと見てしまう。
ガトーショコラが口に運ばれた。
「美味しい?」
「めっちゃ美味い」
陽子が笑った。可愛いな、と思う。
その瞬間、私の心のどこかがキュッと響いた。