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我輩はつんでれ猫である

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






















 我輩は死んだのか?





















 その割には風がやんわりと我輩の髭を撫でている気配がする。



 薄目を開ける。

 足は地面を離れており、視線は確かに高い。

 だが、それは天までには程遠く。

 地面より少し高いくらいである。


 しかも、腹の下のほうでもぞもぞと動く感触がある。

 何だ?

 

 よくよく見て……それが何なのかが分かった。

 人間の手だ。

 人間が我輩を抱え上げている。



 見上げる力はなく。

 下向きに抱えられているので、どんなものが我輩を抱えているのか分からない。

 ただ指一本一本の大きさからすると、大人ではあるまい。

 人間の子供が、我輩を抱えているのだろう。


 こうした事はそれほど珍しくない。

 人間の子供は我らを見ると嬉々として抱え上げたがる。

 我輩も何度か経験はある。

 普段であれば、快く抱かせてやる我輩ではあるが、今は駄目だ。

 戯れに付き合う様な気分ではないのだ。


 振り払う力が無いことが口惜しい。

 身体が弱っているのが、裏目に出た。 



 人の子よ。

 もう、放すが良い。

 我輩は疲れたのだ。

 このまま休ませるが良い。


 だから放せと言うに…………。

 わざわざ我輩を岩場から連れ出して、いったい何処に連れて行こうとしているのか。


 

 急に周囲が暗くなった。

 どうやら目の前に誰かが立っているらしい。 

 残る力で半分だけ顔を上げると、人間二人の足が見える。

 恐らく人の子の両親であろう。

 子供は両親に向かって何事か訴えている。


 既知感である。

 この光景……どこかで見たことがある。


 一体どこで……………………?!

 思い出した。


 これは……この光景は。

 この人の子は、我輩を飼い猫にしようと訴えているのに違いない!


 止めろ!

 止めろっ!!

 我輩を放すが良い。


 子よ。

 人の子よ!


 もう我輩に構うな!

 我輩は疲れたのだっ!!


 皆、我輩を残して死んでいく。

 それに我輩はもう耐えられぬのだっ!


 どんなに大事にしていても。

 どんなに失いたくないと思ったとて。

 どんなに愛していても――――

 

 同族であろうと、人間であろうと、如何なる存在でも。

 我輩だけを残して死んでいく。

 それがどんなに辛い事か分かるか?

 

 これまで何百、何千と、我輩は死を見送ってきた。

 だが、決して慣れる事はない。

 その度にジクジクと我輩の心を苦しめるのだ。

 

 同じ痛みなどない。

 毎回違った悲しみと、違った胸の痛みで我輩は倒れそうになる。

 そんな辛さが我輩を襲うのだ。


 今回のことで、どんなに我輩が辛かったか分かるか?

 どんなに悲しかったか、知らぬだろう?



 主人に拾われて、主人と過ごして、主人と遊んで……。

 主人と住処を移して、主人が伴侶を見つけ子供を設けて。

 どんどん老いていく主人にも、当然気付いていた。


 だが、我輩は知らない振りをしていた。


 人よりも寿命の短い犬が、動かなくなった時も。

 同居人がそれから暫く後に亡くなった時も。

 主人がどんなに老いて、動けなくなっても…………。


 仕方ないであろう!?

 主人が、家族が、死ぬ事に向き合ってしまっては、我輩はもう何も出来ない。

 日がな一日主人から離れらなくなり、日がな一日感情を喚き散らすだけの存在になるに違いない。


 大切な存在を、日々もぎ取られていく。

 我輩にはそのようにしか感じられぬのだ!



 だけど……それももう無理だ。



 どんなに傷口を塞ごうとも、そこから流れいずる血潮は、溢れて止まる事を知らない。

 ジクジク痛む傷は、我輩にそれを忘れさせてくれない。


 だから、もう我輩は嫌なのだ。

 辛いのだ。

 辛いのは嫌なのだ……。


 止めろ。

 止めるのだ。


 我輩をそっとしておいてくれ。



























 …………だけど。



























 どうしてだろうか。




































 良い匂いがする。






 これは、嗅いだ事がある匂いだ。

 忘れもしない。


 これは懐かしい、主人の匂いだ。

 主人が幼子の頃と同じ……………………。




 人の子は自分の膝の上に、我輩を乗せている。

 何が楽しいのか、キャッキャはしゃいでは我輩の身体を撫でている。

 

 我輩は天に逝くつもりだったのだ。

 流石に毛づくろいはしていないので汚れている。


 ……人の子よ。

 我輩は土埃で汚れている。

 我輩に触れると、お前も汚れてしまうぞ……。


 折角の我輩の忠告にも、人の子は構わず触れ続ける。

 この人の子……我輩を作り物と勘違いしていないか?


 我輩は作り物ではない。


 生きている。

 生きているのだ。



 だからこそ、感じる事が出来る。

 だからこそ、辛く。

 だからこそ、こんなにも悲しい。



 だからこそ――――こんなにも胸が熱い。


 どうしてか分からぬほど。

 胸が熱い。


 …………我輩は。






 ……………………我輩は。

























 …………まったく。



 こんな身なりの我輩を連れて行こうとするとは……。

 我輩が賢明だからこそ良かったものの、他の野生の同族ならこうはいかないぞ?

 攻撃されても文句は言えないのである。



 仕方がない。



 あんまりにも危なっかしいので、仕方ない。

 仕方ないから、こやつらは我輩が世話をしてやろう。

 今度こそ最後なのである。



 人とは、まっこと愚かである。

 まっこと浅はかである。

 なればこそ、我輩は世話をしてやってきた。


 今まで世話してやった人間が、一体どれほどの数になるのか。

 我輩は数えてはいない。

 だが、それは数えていないだけで、世話してやった人間のことは全て覚えてやっている。


 瞼を下ろせば、いつでも思い返す事が出来る。

 その人間達が我輩に付けていた名と共に。


 太古の時間を生きる中で、忘れ去った事も多い。

 だが、それだけは忘れない。

 忘れようにも忘れられぬのだ。




 ――――新しい主人が騒いでいる。


 どうやら新しいねぐらに着いたようだ。

 ならば、ここからまた始まるのだろう。我輩の新しき生活が。


 幼い主人の腕の中は温かく……。

 この空間はどこか心地よい。


 人間は愚かで温かく。

 未熟でありながら、斬新で。

 浅慮だが、優しい。


 何だかんだと言ってはきたが――――――――


 そんな人間達は、まっこと悪くないのである。





 我輩は猫である。

 名前は――――



 もう直ぐ新たに付けられるだろう。


ようやく完結です。

開始当初から見ていて下さった方がいらっしゃいましたら、途中長い間放置する形になって申し訳ありませんでした。

 

正直、元々予定していた話数からは大分少なくなりましたが……。

やっと肩の荷が下りた感じがします。


ただ、お絵かき用のPCがぶっ壊れてしまった為、最終話の絵を載せられなかったのは無念ですorz

いつ復旧できるか分からないので、とりあえずUPしました。

その内、PCが直って気が向きましたら載せる……かもしれません。


では最後になりましたが、閲覧してくださった方有難うございました!

願わくばまた別の作品で。


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