40: 待ち望んだ刻なのである
懐かしき風景。
懐かしき住処。
どれほど我輩の心身に安らぎを与えるかと思ったが……。
ここ数日収まっていて、正直何の喜びも無い。
ここは身体を休める隙間。
ただそれだけである。
それ以外の何の感慨も起こらない。
その間、我輩はただボウと、岩場の隙間の中から外を眺めていた。
朝になれば陽光が、徐々に大地に陽を灯す。
昼になれば昇った日が、更に大地を強く照らす。
夕になれば力を失った日が、山裾の彼方に消えていき。
夜になれば暗闇が、辺りを覆い隠す。
その移り変わりを眺めていた。
そして、我輩は考えていた。
何故我輩だけがこんなにも、長い年月を生きているのかという事を。
我輩以外の者は、全て死に絶えた。
死因や年月に多少の違いはあれど、皆等しく躯になった。
親、兄弟、友人。伴侶のようなメス。
誰もが我輩より先に死んでいった。
始めの頃は、我輩は分からなかった。
どうして我輩だけが残されるのか、ということではなく、何故周囲の者は我輩より先に死んでいくのかということが。
何がいけないのか。
我が同族の定めであるのか。
ならば、同族が駄目ならば、人間ではどうだ?
人間ならば、我輩と共に生きられるのか。
そう考え、我輩は人間と共に暮らすようになった。
人間との暮らしは、中々に新鮮であった。
同族で生活する時とは、まるで勝手が違う。
だが、結局は同じであった。
人間もまた、皆死んでしまった。
我輩を残して。
ようやく我輩は気付いた。
結局、我輩以外の生物は、皆死んでしまうのだということに。
それでも我輩は主を代え、場所を移り渡り、人間と生活を続けた。
同族よりも人間の方が長生きだったからだ。
ただそれだけの理由だった。
どんなに長い年月を生きてきたのか、もう我輩にも分からない。
だが、もう限界である。
そろそろ疲れたので、このまま休むとしよう。
如何に我輩が不老といえど、ずっと飲まず食わずでいれば、いつかは衰弱し息絶えるであろう。
そうすれば、我輩は彼らと同じ所にいけるのだろうか。
…………いや、もう考えるのはよそう。
ただ瞳を閉じて、静かに眠りにつく。
我輩が望むのは、ただそれだけである。
死んだら一体どこへ行くのか。
分からない。
分からないが、例えどこであろうも構わない。
皆と同じ場所にいけるのであれば。
身体が浮かび上がるような感覚がする。
……ああ、どうやら遂に我輩も天に昇る時が来たようだ。
…………………………………………主人。