表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/42

40: 待ち望んだ刻なのである

 


 懐かしき風景。

 懐かしき住処。

 


 どれほど我輩の心身に安らぎを与えるかと思ったが……。

 ここ数日収まっていて、正直何の喜びも無い。


 ここは身体を休める隙間。

 ただそれだけである。

 それ以外の何の感慨も起こらない。

 


 その間、我輩はただボウと、岩場の隙間の中から外を眺めていた。


 朝になれば陽光が、徐々に大地に陽を灯す。

 昼になれば昇った日が、更に大地を強く照らす。

 夕になれば力を失った日が、山裾の彼方に消えていき。

 夜になれば暗闇が、辺りを覆い隠す。


 その移り変わりを眺めていた。

 そして、我輩は考えていた。 



 何故我輩だけがこんなにも、長い年月を生きているのかという事を。



 我輩以外の者は、全て死に絶えた。

 死因や年月に多少の違いはあれど、皆等しく躯になった。


 親、兄弟、友人。伴侶のようなメス。

 誰もが我輩より先に死んでいった。

 始めの頃は、我輩は分からなかった。

 どうして我輩だけが残されるのか、ということではなく、何故周囲の者は我輩より先に死んでいくのかということが。

 

 何がいけないのか。

 我が同族の定めであるのか。


 ならば、同族が駄目ならば、人間ではどうだ?

 人間ならば、我輩と共に生きられるのか。

 そう考え、我輩は人間と共に暮らすようになった。 



 人間との暮らしは、中々に新鮮であった。

 同族で生活する時とは、まるで勝手が違う。


 だが、結局は同じであった。 

 人間もまた、皆死んでしまった。

 我輩を残して。



 ようやく我輩は気付いた。

 結局、我輩以外の生物は、皆死んでしまうのだということに。


 それでも我輩は主を代え、場所を移り渡り、人間と生活を続けた。

 同族よりも人間の方が長生きだったからだ。

 ただそれだけの理由だった。


 

 どんなに長い年月を生きてきたのか、もう我輩にも分からない。

 だが、もう限界である。



 そろそろ疲れたので、このまま休むとしよう。

 如何に我輩が不老といえど、ずっと飲まず食わずでいれば、いつかは衰弱し息絶えるであろう。

 そうすれば、我輩は彼らと同じ所にいけるのだろうか。


 …………いや、もう考えるのはよそう。


 ただ瞳を閉じて、静かに眠りにつく。

 我輩が望むのは、ただそれだけである。


 死んだら一体どこへ行くのか。

 分からない。

 分からないが、例えどこであろうも構わない。 

 皆と同じ場所にいけるのであれば。



 身体が浮かび上がるような感覚がする。


 ……ああ、どうやら遂に我輩も天に昇る時が来たようだ。

 














 …………………………………………主人。


 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ