39: 懐かしき場所なのである
……ここだ。
我輩はようやく故郷の地に辿り着いた。
どれほどの年月を要したのか、もう我輩にも分からない。
何故故郷を目指していたのかという理由すら思い出せない。
ただ強烈な義務感に似た感情に後押しされて、我輩はここまで歩いてきた。
身体はいう事を効かず、奔ることはおろか、歩く事すらままならない。
一度立ち止まってしまえば、もう二度と動けないだろう。
だが、それでも良い。
何故なら我輩は今故郷に居るのだ。
ここ以外、他にどこに行く必要があろうか。
この地こそが、我輩の始まりにして終焉の土地なのだ。
もう十分生きた。
何も後悔することはない。
何も思い残す事はない。
ただ…………静かに眠りたい。
――――そんな夢を見た。
……どうやら、いつの間にか眠ってしまっていたようだ。
我輩としたことが情けない。
自分で思っていた以上に、心身は疲れていたようだ。
分かっている。
ここが故郷の地などではないということは。
我輩の記憶にある故郷の土地とは、似ても似つかない。
全く違う場所である。
だが、正直。
我輩は故郷を目指して旅をしてきたつもりであるが――――
仮に故郷に辿り着いたとしても、我輩は気付くことが出来るであろうか。
どこもかしこも、我輩が居た頃とは景観がまるっきり変わっている。
人間の手によって。
もしかしたら、我輩は気付かないのではなかろうか?
或いは、実は既に故郷の地を通り過ぎてしまっているということは?
もはや、我輩には分からない。
……いかん。
どうやら疲労により、本格的に心身が疲労しているようである。
腹はいっこうに減らぬが、ともかくどこかで休まなくては。
……む。
…………あれは。
前方に、どこか懐かしい雰囲気のする岩場がある。
丁度よくひび割れており、我輩が身を休めるにピッタリであろう。
丁度良い。
暫くここで休んでいこう。
岩場の隙間など、本当に久しぶりである。
このような場所を住処としていたのは、あれはどれ程昔のことであったか……。
恐らく、ここであれば我輩の心身も癒されるに違いない。