37: 放浪の日々なのである
我輩は太古の時より生きている。
人には想像も出来ぬであろうその膨大な年月の大部分は、我輩一人で生き抜いてきた。
住処を失った事だって、前足の爪の数などでは、到底数え切れない。
生き抜く術は十分に理解している。
我が種族は狩猟種族である。
その気になれば、そこいらの鳥獣を狩ることだってお手の物である。
しかも、昔とは違って今はそこいらに食い物が溢れている。
人はまだ食せる物も、平気で道に捨てるのである。
人間は愚かである。
とはいえ、ついこの間まで新鮮な食料を取っていた我輩としては。
少々、鼻につく臭いが気にかかる。
……いかんな、我輩とした事が。
どうやら人間の世俗に慣れきってしまっていたらしい。
情けない。
我輩の気持ちを見透かしているかのように、この所の天の色は、昼であっても薄暗く。
陽の光も分厚い雲に遮られ、少々寒い日が続いている。
…………そうだな。
決めた。
生まれ故郷に帰ろう。
人の手によってこんな遥か遠くの地に連れてこられたが、ここは我輩のふるさとはここではない。
あの土地ならばこの季節でも、もっとずっと暖かかった筈だ。
よしっ。
思い立ったが吉日である。
早速向かうとしよう。