36: 去り際は間違わないのである ※
人の出入りが多くなった。
一度も嗅いだこともないニオイの人間が、大勢家に押し寄せる。
我輩は基本的に、人に対しては不干渉の主義ではあるが…………。
流石に気分は良くない。
我輩の許可なく、我輩の縄張りに勝手に入り込むのも論外だが。
したり顔で、のうのうとのさばっているのも腹立たしい。
ましてや、主人の部屋に勝手に入り、中を荒らしまわる。
もはや、許せぬ、許せないなどの問題ではない。
論外である。
だが、どうやら不快感を覚えているのは、我輩の方だけではないようだ。
家を訪れるどの人間たちも、我輩のことを微妙な顔で見つめてくる。
ひそひそ、と。何事か話しながら。
中には、恐れを感じている者もいるようだ。
我輩が近づくだけで、怯える蛙のように飛び跳ね、そそくさと離れていく。
そして、またひそひそと……。
何を言っているのかは分からぬが、間違いなく我輩にとって喜ばしい内容ではないだろう。
ふんっ。
恐らく我輩の扱いに困っている、というところか。
下らぬ。
まっこと下らぬ。
あい、分かった。
どうやら潮時のようだな。
我輩は――に請われたから、世話になってやっていた身。
不愉快な思いをしてまでいようとは思わぬわっ!
こんな住処、いつでも出て行ってやろう!
…………………。