25: 恋の季節なのである
目の前で、主人とその伴侶である同居人が仲睦まじくしている。
いい気なものである。
が、許そう。
我輩は今、そういう事に目くじらを立てる気分ではないのである。
もっと言うと、それどころではないのである。
この前の雌……。
中々の器量の持ち主であった。
あれほどの存在は、我輩の記憶をもってしても思い出すのが難しい。
ふむ……。
ああ……。
むぅ……。
うう……。
……よし、決めた!
我輩のオンナにしてやるのである。
悠久の時を生きる我輩ではあるが、侮るでない。
我輩はまだまだ現役なのだ。
そうだ。
我輩にかかれば、そこいらの雌などいちころなのである。
何せそこんじょそこらの同族とは、経験が違う。
雌の扱いなど、お手の物なのだ。
とは言え、我輩は伴侶は持たない主義である。
一夜限りの甘酸っぱい恋になろう。
だが、それが良い。
我輩は決断のできないナヨナヨした同族とは違う。
決断力は非常にあるのだ。
むしろ、決断力で出来ているといっても過言ではない。
と、そんなことを言っている場合ではない。
早速向かおう。
ふふん。
調査はとうに済んでいる。
あのメスは、最近空き地によく現れるのである。
では、早速行くとするか。
どれ…………おお、やはり運命やもしれぬ。
丁度よくあのメスが居る。
声を掛けるのである――――
……だが、まてよ。
何と声を掛けようか。
あの雌猫は若い。
我輩は至高にして、完璧な存在ではあるが。
唯一、不足している点があることも認めねばなるまい。
それは、最近の若者言葉が使えぬ事である。
こればっかりは仕方ない。
我輩は太古から生き続けている。
染み付いた言葉遣いを直すのは難しいのである。
とはいえ、それに抗うのもまた、我輩である。
凡庸なる同族であれば、無理だったであろうが。
十全たる我に不可能はないのである。
そうと決まれば、あとは行動するだけだ。
若者言葉で話しかけるのである。
……ごくり。
へ、へい、そこの雌!
わ、我輩と一緒に、爪とぎでもしねえか?
家にイイのがあるんだゼ?
…………
……………
…………………
にゃふふ。
…………無視された。