1: オスは許せぬのである ※
人間にしてはマシな方だと多少は認めてやっている、我輩と住処を共にする連中だが、当然不満が無い訳ではない。
まあ、主人は及第点をやっても良い。
流石、我輩に"主人"と呼ばせる存在である。
問題は他の二匹なのだ。
先ず主人の母親の方。
このメスの煩い事煩い事。
四角い箱を前にして、日がな一日がはは、と笑っている。
その騒音だけで我輩の眠りを妨げる要因となるのに十分であるが、それ以上にイカン事がある。
"そうじき"なるもの。
これを操る時は、この上なくイカン。
騒音はもとより、あの何者をも吸い込もうとする力。
昔、一度うっかり吸い込まれそうになった事があるが、あの時は生きた心地がしなかったものだ。
そして、これを操る時。このメスは分不相応にも我輩を邪魔者扱いするのである。
まっこと腹立たしい。
そんな凶悪な得物をちらつかせて、我輩を脅すとは……。
まっこと許せぬが、こやつは我輩に食事を提供する殊勝さも持っている。
それがあるからこそ、勘弁してやっているのだ。
己の命が、我が寛容さの賜物である事をしかと肝に銘じておくが良い。
次に、主人の父親の方についてだが……。
こいつはイカン。
何がイカンかと言えば、その匂いである。
そもそも、これは人間全体に言えることだが、オスはどうにも臭くて駄目なのだ。
小便のような匂いがする。
そして、人間のオスであるという種独特の臭さに加えて、このオスは更なる悪臭を発するのだ。
短く細い棒のようなものを口に加えた時が、その合図である。
そうすると、むわっと口から煙を吐くのだ。
その煙の臭い事臭い事。
我輩の端正な鼻が曲がろうか、と思うほどである。
近所の同族の話を聞くと、中にはこの臭いが好きと言う者もいるが……。
我輩には気が知れぬ。
そして、そんな悪臭を発していながらこのオス。
事もあろうに我輩をベタベタと触ろうとしてくるのである。
近くで持ち上げられた時など、まるで拷問である。
必死に抵抗するのだが、どうやらこのオス。我輩が喜んでいると勘違いしているようなのである。
まっこと度し難いオスだ。
早い所、狩るべきだろうか……。
……む!
嫌な気配がすると思ったら、オスが我輩に近づいてきている。
何だ、その笑みは……?!
……まさか、我輩を抱き上げようと言うのか!?
や、止めろ! 近づくでない!
来るなと言っている! 分からぬのか!!
や、止めろ、我輩を、我輩を抱くな! 我輩にその臭い息を吹きかけるなあぁ……!!
う、うにゃあああああああああああああ。