18: 大切なものは大事なのである ※
人間とは愚かである。
どんなに年月が経ても、それは変わらない。
太古の昔と比較すると、我が同族の質も大分下がっているが、それでも人間程ではない。
野生の獣の生きる土地を減らしていき、挙句死に追いやるなど、気が知れぬ。
この世は、人間だけのものだとでも思っているのだろうか。
まっこと腹立たしい。
……まあよい。
人間が愚かで矮小なのは、今に始まった事ではないのである。
そこへいくと、我が主人は人間にしてはマシな方である。
我輩への敬いを忘れぬところなど、結構なことだ。
だがそんな主人とて、我輩から見たらまだまだ幼い。
常に冷静な我輩とは違い、未熟な部分も多々あるのだ。
嘆かわしいが、それは現在進行形で表わされている。
さっきから、もう一刻以上になるか。
同居しているオスと、大声で怒鳴りあっている。
喧嘩だ。
まっこと未熟である。
だが、気持ちも分からないではない。
恐らく、主人もあのオスの吐く煙に耐えかねたのであろう。
それで怒っているのに違いない。
間違いない。
ただまあ、時にはこうして感情をぶつけ合うのも大事なのである。
なあに、心配は要らぬ。
全てを吐き出してしまえば、この喧嘩もその内に収まるであろう。
……ぬ?
ぬぬ?
…………主人が家を飛び出していった。
ふむ……外はもう暗い。
本来ならばとっくに就寝している時間である。
…………ふむ。
……おいっ、貴様。
主人は飛び出していったぞ。
なのに何故、こんな所で不貞腐れたように立ち竦んでいる?
我輩は貴様らが喧嘩した理由なぞは知らない。
貴様の方が正しいのかもしれない。
間違っているのは主人で、貴様はそれを正していただけなのかもしれない。
正直我輩は。
どちらが悪いのも知らぬし、興味もない。
怒鳴りあったばかりで、気も立っていよう。
猛った感情はそうは簡単には収まらないであろう。
だが、もう外は暗い。
人間は夜目が利かぬのであろう?
こんな夜中に出歩いて、主人の身に何かあったらどうするのだ?
主人の身が心配ではないのか?
喧嘩など、連れ帰った後で幾らでも出来よう?
それとも喧嘩したから、相手のことなどはどうでも良いのか?
貴様の身内に対する感情とは、その程度のものか!?
大人だとか子供だとか、人間だとか犬畜生だとか、そんなのは関係ない。
ただ一つだけ、我輩が言えることは……。
怒りにかまけて、本当に大切なことを見失うなっ!!
…………ふん。
ようやく、行く気になったのか。
仕方ない。
まっこと面倒ではあるが、我輩も付いて行ってやろう。
ふ、ふん。
勘違いするでない。
貴様の為ではないのである。
そんなことより、とっとと主人を探すのだ!
……
…………
……………………
…………なんだ、お前も来たのか。
全く。お騒がせな主人達である。
お前もそう思うか?
まっこと、人間とは不可解であるな。