12: 主人が許せぬのである ※
我輩は今の時期が最も好ましいと思っている。
寒くもなく、暑過ぎもしない。
日向で陽の光を浴び、我が同族の行く末などを考えながらまったりとするなど、至極である。
ひらひらと桃色の花弁が舞う様は風情があるし、雅な我輩には相応しい光景である。
我輩の凛々しい髭は、微かに薫るような新しい息吹を感じている。
実に良い。
実に良い季節である。
ああ、まっこと……。
まっこと…………。
まっこと――――――――
腹だたしい!!
心躍る季節なのにもかかわらず、我輩の心を乱すその所業こそは万死に値するっ!
その行いは、罪悪などの概念を通り越し、もはや言葉では言い表すことは出来ぬ。
この怒りを静めるためには、献上物の十や二十を贈られてしかるべきである。
……いや、やはりそれでも許し難い。
そんな即物的な対応では、もう許容できぬところまできてしまっているのだ。
しかも事もあろうに、我輩をここまで怒らせているのが、一応我輩の主人であるのだから救われない。
今まで我輩が目にかけてやっていた恩を忘れおって……。
貴様がそこまで大きくなれたのは、一体誰のお陰だと思っている!?
寒い季節。
寝床で寒そうに震えていた貴様を、体を張って暖めてあげたのが誰だか忘れたのかっ?
そんな我輩に対して、このような態度を取るとは……。
くそっ。
一夜だけならまだしも、ここの所ずっとだぞっ!?
いい加減にしたらどうだ!
くそっ。
……これだけ言っても、まだ理解できぬか?
そんな聞き分けのない主人には、もはや実力を行使する以外ないな。
後悔は先に立たない、ということをその身に教え込んでやるっ!
そんなもの!
奪い取ってやるのであるっ!
この……えいっ!
いい加減……我輩を構うが良いっ!!