10: 挨拶回りなのである
我輩は礼儀にも精通している。
そこいらの獣と一緒にして貰っては困るというもの。
邪で矮小な人間と比較するなど、もっての他だ。
まあ、つまりだ。
我輩が何を言いたいのかというと。
主人の所為とはいえ、新しい土地で生活することになった我輩が。
近所の同族に挨拶するのは至極当然の事なのである。
礼儀正しい我輩は、そんな細かな気遣いを忘れないのだ。
ふん。
とは言え、悠久の時を生きる我輩からすれば、そこいらに居る同族など皆子猫のようなものだ。
早々に序列というものを教え込んでやる必要があるだろう。
そういう訳で、”挨拶回り”を始めると、早速同族を一体発見した。
ふむ。幸先がいい。
……とも思ったが、そうでもないようだ。
どうやら”我輩”の家の、隣に住む人間に飼い殺されている様子。
だらしない面で家の中に寝そべっている。
嘆かわしい。我らの誇りはどこへいった!?
――――そう問い詰めたいが、まあよい。
我輩は寛容である。
今日の所は当初の予定通り、挨拶だけに済ませてやろう。
ナァ~~~~~~~
…………
ナァ~~~~ナァ~~~~~~~
………………
ナァ~~~~ナァ~~~~~~~ナァ~~~~~~~~~~
……………………
~~~~何だ奴は!!
無礼にも程があるっ!!
我輩の凛々しい雄叫びにも応えず、ちらりとこちらを一瞥しただけで、そのまま寝続けるとはっ!
何と失礼な奴だ。
もういいっ! アイツは放っておこう。
後悔せよ同胞!
貴様は偉大なる我輩と知遇を得る万が一の機会を、まんまと逃したのである!
近所を探索する。
ふむ。
前居た所より、人が多いようだ。
まあ、我には関係ないことだが。
それより、この付近の同胞は一体なんだ!?
ちらほら家の中に居るのは見かけるが、どいつもこいつも部屋に閉じこもってばかりで、ちっとも我輩の呼び掛けに応えようとしない。
嘆かわしい。野生は如何した?
それとも我輩の偉大な気配を感じ取り怯えているのか?
…………ふむ。
有りうる。
まあともあれ。
同族の質の低下が、著しいのである。
まっこと嘆かわしい。
どこかに我輩の心躍らせるような猛者はおらぬだろうか。