最終話 竜として。
終幕。
竜の王から、衝撃を伴った咆哮が放たれる。
勇者は横にとびずさり、神速の早さで聖剣を振り、斬撃を飛ばす。
地面を削りながら迫り来る斬撃を、竜の王は尾の一振りで消し飛ばした。
飛び上がった勇者が指を指すと、竜の王に向かって氷の槍が突き刺さる。
これを翼で防いだ瞬間、竜の王は生まれて初めて、痛みを感じた。
翼の一部が、聖なる剣に切り裂かれていた。
思わず、舌なめずりをする。
戦いは、まだ始まったばかりだ。
両翼の間から、蒼い炎弾が飛び出してくる。
すかさず勇者は盾で受けるが、圧倒的な熱量と衝撃で吹き飛ばされる。
盾の魔法障壁は、意味をなさなくなっていた。
開いた距離を詰めるように、勇者が人外の速度で疾駆する。
右手の聖剣が閃くと、飛ぶ斬撃が二つ、放たれた。
竜の王は空中に飛び上がった。しかし、飛び上がった先にはすでに勇者がいた。
光り輝く切っ先が、竜の腕を切り落とした。
大声を上げてのけぞる竜の王。
その隙を突くように、勇者が追撃に迫る。上段に構えた剣が、竜の王を両断すると思われたそのとき、聖なる剣がガキンと、音を立てて防がれた。
一瞬、花びらが舞ったような幻覚を見た勇者は、自分が誘い込まれたのだと気づく。
見えない魔法障壁が、竜の王を守ったのだ。
痛みで叫び声を上げたのではない、魔法障壁をはるために、大声をあげたのだ。
竜の王がにぃ~っと笑う。
空中は竜の領分。その場で一回転した竜の王は、その強靱な尾を勇者へ叩きつけるのだった。
砂埃が晴れると、勇者が膝をついていた。
口元からは血が流れ、盾は完全にひしゃげている。
一方の竜の王も、切断された腕からはドクドクと血が流れ、翼はボロボロになっていた。竜の王の渾身の一撃の際、勇者はその身を暴力的なまでの聖なる魔力で覆い、防御と同時に攻撃と成したのだ。
したたり落ちる竜の青い血は、地面に落ちるとじゅうじゅうと煙を上げた。
勇者がおもむろに、ひしゃげた盾を投げ捨て、聖剣を両手で握った。
全身から黄金の魔力がほとばしり、雲も無いのに稲妻の音が聞こえてくる。
おそらく、これが最後の一撃になる。
竜の王の口から、蒼炎がジリジリと顔をのぞかせる。
竜の王が大きく息を吸い込んだ瞬間。
勇者が裂孔の気合いと共に、その光り輝く聖剣を振り下ろした。
すさまじい衝撃と地鳴りと共に、黄金の斬撃が、竜の王に迫り来る。
迎え撃つ。
迎え撃って見せるッ!
竜の王より、あの日この街を壊滅せしめた、不可避の蒼い閃光が解き放たれた。
妙に、すがすがしい気分だった。
腕は切りおとされ、かつて大空を駆けた大きな翼は、ぼろきれ同然の有様だった。
どうだ、勇者よ。
私の最後の一撃は、すさまじかっただろう?お前も、私と同じくらい、ボロボロではないか。
いや…。私の方が、ひどい有様か…。
竜の王の体は、もうくずれかけていた。勇者の斬撃は見事、竜の王の最期の輝きに打ち勝ったのだ。
今思えば、私の人生、いや、竜生は、100点満点だったのではないだろうか。
人として生きていた頃では、とうてい考えられないような、素晴らしい一生を送ることができた。
竜として、自由を謳歌することができた。
ああ、あの病室の少年よ。竜としての一生は、素晴らしいものだったぞ。
――勇者が、聖剣を振りかざす。
ああ、勇者よ。
最期に私と戦ってくれて、ありがとう。
おかげで、私は最期に、素晴らしい幕引きができる。
だから、お主に、勇気ある者のこれからに、幸あらんことを…。
――勇者の手は、剣は、震えていた。
おや…?
なんだ。どうしたんだい。
そんなに悲しそうな顔をして。
良いんだ。良いんだよ。これで良いんだ。
君は、勇者として正しいことをしたんだ。
だから、私なんかのために、涙を流さないでおくれ。
君はこんなにも、優しい子だったんだね。ありがとう。
ああ、今日の空は、どこまでも、青くて、高くて、きれいだなぁ。
fin
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