第5話 血の臭い
嗅ぎなれぬ臭いで目が覚めた。
火と煙と、血の臭いだ。
何かが近くで起きている。俺はゆっくりとその身を起こした。
気づけば俺の体は、母さんよりも大きく、強靱なものになっていた。
ガサガサと、音がした。
木陰の向こうから、誰かが現れた。目深くフードをかぶっているが、俺には分かる。彼女だ。彼女と、彼女によく似た少女だった。
彼女は私の目の前までよたよたと歩き、ついに倒れてしまった。
彼女から、血の臭いがする。背中には何本もの矢が刺さっていた。
一度死を経験したからだろうか。彼女が、もう助からないと分かる。
少女の泣き声が嫌に鮮明に聞こえる。
母となった彼女はゆっくりと少女に手を伸ばし、そして私の方を見た。
必死に何事かを言っている。
ああ、分かった。俺に任せてくれ。俺はゆっくりとうなずき、息をフッと吐いた。
辺り一面に花が咲き乱れる。彼女は最期に優しく微笑み、静かに息を引き取った。
ガシャガシャと、何かが近づいてくる音がする。
複数だ。それも、男。
果たして、その存在たちは下卑た笑みを浮かべながら現れた。
やかましい声で何かを叫んでいるが、私の姿を見た瞬間。
その表情を一変させた。
そうか、貴様らか。
貴様らが、俺の大切なものを「摘んだ」のか。
一人の男が恐慌し、矢を射かけてくる。
少女を守るため、俺は前に出た。
人族ごときの貧弱な弓矢では、俺の体に傷をつけることすらできない。
尾を雑に振り下ろすと、その男は鎧ごとひしゃげて、地面の赤い染みとなった。
残る男たちは一目散に逃げ出した。
そうだ、それでいい。
これ以上、少女につまらないものを見せたくないからな。
呆然とする少女に、私は息をフッと吹きかけた。
花びらが舞い踊り、少女を包んだ。
彼女から教えてもらった、この世で最も尊い、守護の魔法だ。
俺の魔力の半分をこめた。並の相手では、打ち破ることはかなわないだろう。
さあ、これで憂いは消えた。愚かな人族よ、貴様らの命、俺がすべて踏みにじってくれよう。
今宵、空に星はなく、重たく冷たい雲が、どこまでも垂れ込めていた。
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