第六章 夜見 (後編)
夜見は自身のトランス能力「ファーシフト」の権能を体に張り巡らした。彼女のトランス能力「ファーシフト」は移動特化でサポート面では敵なしの威力を誇る。だからこそ今まで他のトランス能力者と戦う中で彼女自身が積極的に狙われる場面が多かった。そこで彼女は自身の能力を戦闘で用いる方法を身につけていたのである。この形態を彼女は「ファーレイド」と呼んでいた。彼女の肉体、精神全体を「ファーシフト」の権能で覆うことによって感覚の最適化を行う。こうすることによって、この時の彼女の思考能力は常人の30倍に迫り、相手は彼女の行動すべてに残像があるように見える。これは彼女の体の原子一つ一つの動く速さが光速を超えるためである。そして彼女の戦闘形態は自身が攻撃を受けることでその真価を発揮する。彼女が肉体に物理攻撃、精神に精神攻撃を受けた際それを能力が読み取り相手に自身が受けた攻撃の結果を相手に移動させることができる。これは一撃必殺、強制支配などの攻撃を受けた段階で勝負が決まる技でない限り技一つにつき一回まで夜見の意思なく完全自動で行われる。そして受けた技は自動で解析が行われる。そして、夜見の能力を用いてその技の解析は仲間に共有することができる。もしその技が夜見のトランス能力または仲間がその技を再現できるならその技は夜見の一部となり何度でも攻撃の結果移動が可能になる。そしてもしその技が相手のトランス能力者の能力の根幹に結びついたものならば相手を能力を奪い意のままに操ることもできる。
私は「ファーレイド」の準備をしながら悪態をついていた。私の能力はやっぱり戦闘特化じゃなくもともとサポート特化の性能。仲間がいることがこの能力の前提条件。私が能力でこの正体不明の男を相手取ることの難しさをひしひしと感じていた。宇津野がここにいればこの状況も切り抜けられたかもしれないのに。タリスマンからは私が今まで感じたことのないプレッシャーを放っている。それは彼の右手に持つ光輝く剣から出ているようにも見えた。そして彼の左手に持つ秤は左右に揺れ始めていた。それを合図に空間がタリスマンを中心にして収束していく。まるでそれは渦の様に見えた。私は身構える。タリスマンを中心にして風が集まってきた。こんなに風が吹いているのにも関わらず秤はゆっくりと制止しようと動いていた。秤が止まった刹那、私は左肩から右肩にかけて目に見えない刃で切り付けられた。その技はぎりぎり致命にはいたらなかった。瞬間、私の傷はタリスマンに移り技の解析結果が頭の中で示される。そこにはUnknownという結果が示された。これは恐ろしいことであった。私の解析は今までだって失敗したことはなかったから。これは彼の攻撃の解析からこの状況をどう切り抜けのか考えようという、いつものやり方が通用しない相手だということを物語っていた。私はこの技の解析が望めない現状を呪いながら自身の持っていた武器TM16を手にタリスマンに近づいた。短期決戦で勝負をつける。私は走りながら持っていた銃をタリスマンに撃ちこんだ。この銃は特性上、対象が照準に入っていれば相手に当てることができる。したがってタリスマンからは高速移動する私から正確無比の弾道が目の前に現れるように見えるだろう。私はタリスマンに与えた左肩から右肩にかけての傷に沿う形で銃弾を五発、持っている秤に二発撃ち込んだ。彼は傷ができても傷に銃弾が当たっても顔色一つ変える様子がない。しかし、秤に攻撃が当たりそうなとき彼は自身の剣を用いてその銃弾を打ち払った。化け物だ。そういう感想しか出てこない。しかし、彼が守った秤。あれには何かある。彼がわざわざ防御するほどの何かが。私は高速で走りながら、秤に5発そして閃光弾を彼の顔に向かって撃ち込んだ。彼は相変わらず無表情で堂々と剣を掲げた状態で何かを待っているように見えた。秤は左右に高速で揺れ動いている。秤を中心にして空間がねじれる。撃ち込んだはずの銃弾と閃光弾がすべて粉微塵になっていたことに気づいた。目に見ることのできない力場が渦をなす。彼は何かを唱えている。それは呪文のようであったが呪文特有のおどろおどろしい感じがしなかった。「祝詞」そう表現するべきなのだろう。彼の頭上に立ち込めていた雲が消え、くすんだ青空が私の目に飛び込んでくる。気づけば私は肘から先を切り落とされていた。この技は私が一度くらった技の延長だったためもう移動させることはできないと私は理解した。私は銃を落としてしまった。彼は「祝詞」を唱え続けている。気づけば膝から下も切り落とされていた。詰みだ。タリスマンは私に近づいてきた。「残念ながらチェックメイトだ。悪いな。あんたがこの居場所を知る前に俺がこの場所がどこなのか思い出しちまった。俺に課せられた任務も。そして、お前らのような存在の殺し方も。」そういってタリスマンは私に剣を突き刺した。私への殺意が痛みとして私に流れ込んでくる。しかし私はここで死ぬわけにはいかない。私は最後の力を振り絞った。今までだって私は、いや私たちは諦めるわけにも逃げるわけにもいかなかったから。たとえそれが死という名の運命を前にしたとしても。
第六章~完~
おまけ タイムマシンについて
タイムマシンは大きく分けて3種類存在している。一つは初期型と呼ばれているプロトタイプタイムマシン。過去未来に物体、生体を送ることが可能だが物体は送る過程で変質してしまい生体も必ず死んでしまう。二つ目は物体専用タイムマシン。これは物体を変質させることなく送ることができる。これは小型化と量産化に成功しており様々な武器に用いられるようになった。三つめは完成モデルタイムマシン。これは物体はもちろん生体も安全に時間を移動することができる。しかし、とてつもないコストと製造の難しさから、いまだに三機しか存在していないとされている。
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