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タイム・スパイラル  作者: やあやあやあ


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第三十章 災禍#1

私は窓から外を眺めていた。そこには、天国があった。私はその景色に手を伸ばす。しかし、私はその景色に触れることなんて出来ないで、その行動はただその景色から隔絶されているこの現実を直視して惨めな私自身の悔しさをいたずらに助長しただけだった。「どうして、どうして触れられないの!こんなに、こんなに近くにあるのにッ!」その言葉は声にならないでただ私の心を傷つけただけだった。

~~~

私はこの病院で一人の少女と出会った。彼女の名は﨑野夜見と言った。私が初めて彼女を訪れた時、彼女は病室の窓から外を眺めていた。この病院は小高い丘の頂上に建てられていたから、この病室につけられている小さな小さな窓からこの町”参峰町”を一望することができた。「こんにちは。私の名前は港と言います。あなたの担当医としてこれから治療させていただきます。よろしくお願いします。」私がいつものように挨拶をすると彼女はこちらを一瞥した。彼女の瞳は暗くそして透き通っているようで私はその瞳に引き込まれるような感覚を覚えた。いつの間にか、彼女は窓へと向き直っていた。

~~~

光陰病院。ここは所謂難病と言われている症例や治療法が少ない病気に罹患している患者を専門に、最先端の治療や診察を行っている病院だ。私はこの病院に配属され働き始めたばかりだった。私にとってこの病院で働くことは一つの憧れだった。ここで私は、最先端の医療行為を見て学ぶことができると思ったから。そして、ここの院長の時田先生は私にとっての命の恩人だった。そう、彼は私が医師になりたいと初めて志すきっかけとなった医者だった。私は憧れの彼の下で働きたいと同時に、かつての返したくても返せないこの恩を少しでも彼に返したいと思っていたのだった。

~~~

彼女はいつもここの窓からこの景色を眺めていた。彼女の横顔はとても儚げでそこには寂しさのようなものがあった。まるで今にも消えて無くなってしまいそうなそんな寂しさが...「こんにちは。夜見さん。体調はどうですか?」彼女はその景色から目を離さないでうなずいた。「では、問診をさせていただきますね。どこか痛む等ありますか?」彼女は首を振る。「では、昨日の夜の薬を飲んでから何か変わったことは?」彼女は首を振る。私は問診を続けていった。彼女はずっと何も喋らないで首を動かしてこの問いかけに答えていた。私が初めて彼女の問診を行ったときは、彼女が何も喋らないことにとても戸惑った。しかし、何回もしているとこの問診の姿にも慣れてしまった。むしろ、最近では彼女のわずかな身振り手振りの違いから彼女の伝えたい細かな感覚その違いを感じとることができるようにさえなった。

「それでは最後に何か私に聞きたいこと等ありますでしょうか。」彼女は黙ったままだ。私はいつものように病室を後にしようと立ち上がる。その時、彼女が、今まで頑なに口を開かなかった彼女が話し出した。「私は、私はいつ...ここから出られるの?」彼女は私の顔を見て言い放った。私はその言葉に言い淀んでしまう。

~~~

彼女は今までに症例のない患者だった。彼女はある幻覚に苦しんでいた。その幻覚は彼女の足が腕が消えていく。そんな幻覚だった。その幻覚には現実と遜色のない幻肢痛があった。その幻肢痛はまるで足を何度も何度も鋭利な何かでめった刺しにされたかのような生々しいものだった。彼女はこの痛みを病院に訴えたが初めに彼女が訪れた病院では、少しのカウンセリングと精神安定剤が処方されただけだった。しかし、彼女の幻覚は一層ひどくなっていった。初め、彼女が苦しんでいた幻覚は寝ているときだけだったのが日常生活のなかでも起こるようになっていった。

(ある日、私が駅前に向かって歩いていると私の背後から何か奇妙な音がした。それはガラスのような何かが割れるような音だった。私が振り返ると、そこには一人の男がいた。彼は私に向かって言い放つ。「お前は私の理想の贄へと成り果てて堕ちろ!」その瞬間、私の右足がめった刺しにされた。ぐちゃぐちゃにされていく右足、それに伴う激痛、私はその右足から目を逸らそうとする。しかし、私の目線はその右足をめった刺しにするその男の持つナイフにくぎ付けにされてしまっていた。この時の私は目を閉じることも、目を逸らすことも、意識を手放すこともできなかった。その男は右足をぐちゃぐちゃにした後、左足をぐちゃぐちゃにして、次に私の左腕をぐちゃぐちゃにした後に、右腕をぐちゃぐちゃにしていった。周囲にはアカ黒い液体が散乱して周囲をおぞましく染め上げた。この時の私の目には、私の体の凄惨な姿が余すところなく映し出されていた。まるで、この姿を私の脳裏に焼き付けようとしているかのように。私の目線は、私の脳裏に映し出された映像は下から上へと持ち上がっていった。その映像が映し出したのはニヤリと笑う一人の男。彼は持っていたその凶器を私の胸へと振り下ろそうとした...

しかしそのナイフが突き刺さる寸前、私の肩を誰かが叩いた。

私は目を開けた。すると、私を心配そうに覗き込んでいる一人の男の姿があった。「大丈夫ですか?」彼は私を抱きかかえ、近くの公園のベンチに座らせた。私は戸惑ってあたりを見渡した。よかった。私の腕と足はあった。その変わりない姿に私は思わず胸をなでおろしていた。私はそのベンチから立ち上がり、助けてくれた彼に感謝を伝えようとした。しかし、どうしてだろう。私の右足が動かない。私の右足の感覚がない。私はバランスを崩しベンチから落ちてしまう。「大丈夫ですか?」私はその声がした方向を見た。そこにはナイフを持ちこちらを見て笑う悪魔の姿が...「やめてッ!」その悪魔は私の胸にそのナイフを振り下ろした。私の胸をそのナイフがかき混ぜていった。何度も何度も執拗に刺して、そのたびに私の体から出るのはおぞましい液体だった。)

彼女は、彼女を公園で介抱していた一人の男が救急車を呼んだことによって病院に運ばれた。精密検査の結果、彼女の右足の神経は信じられないほどぐちゃぐちゃに断絶されていた。しかし、彼女の右足に目立った外傷等は一切なく、以前の精密検査では彼女の右足に問題は存在していなかった。それから、彼女は左足が、そして左腕がその幻覚を見るたびに使えなくなっていった。

続く

読んでくださってありがとうございます。

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