第(3・10)章 聖戦~30~
「ようこそ、私のサンクチュアリ~へ!」彼女は私の目の前で悪趣味な笑みを浮かべていた。「まさか、あんたが私のヘリテージを狙うだなんて。」「フフフ。俺達はもう手段を選んでいるわけにはいかなくなってしまったからな。そう、お前のせいでッ!」「まさか、あなた彼女の仇を討つつもり?フフフ、殊勝なこと。そして、残念だけどそれは無謀じゃない?」その瞬間、彼女は頭上に右手を掲げた。
彼女の周囲にいた人影が動き出した。彼らは座っていた長椅子から床へと落ちるように倒れていった。彼らの瞳は灰色にくすんだ青色のようなものが混じっていた。俺はその瞳に思い当たる節があった。(チッ、無垢の象徴による完全支配かッ!)俺は左耳を切り落とす。「フフフ。どうやら察しがよろしいようで。」その姿を見た彼女はほくそ笑んだ。
彼女は祝詞を唱え始めた。「生、それは記億。巻き込まれた時間につけられた名前。死、それは虚無の入り口。それは約束された運命だ。さあ、私は今お前の破滅をもって告げる。約束の運命その成就を!さあ、疾走しろッ!終わりに走れッ!我が信徒よッ!」彼女は”ノウト・スパイラル”を再生した。
彼女が掲げていた右手を前に振り下ろす。その瞬間、彼女の前の長椅子から転げ落ちていた彼らが四つん這いで床を這いながら、凄まじい勢いで俺に向かって走り出した。その姿はまさに獣、本能のまま生きている人の姿だった。俺は彼らの姿を見てため息をついた。
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目の前にいた彼を私のスレイブ達が取り囲み覆いつくしていった。私はその様を見て笑わずにはいられない。(知っているよ。あんたの聖遺物にはもうどうしようもない致命的な傷ができていることはね。それに、このスレイブたちには彼女の力に、私とそしてこの聖遺物に解釈を加えた他でもないあんたの力が積み重なって奴隷一人一人に蓄積されているッ!ウノがサーと戦っているこの隙を狙ったんだろうが見誤ったようね、アトロッ!)私は待っていた。彼の断末魔のラッパがここに響くその時を。しかし次の瞬間、彼を取り囲んでいた私の信徒達が粉々に崩壊し消失した。
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「やれやれ。」俺は彼女に肩をすくめて心底退屈な姿を晒した。案の定、彼女の顔が怒りで滲み歪んでいった。だが、彼女の瞳は彼女の表情とは裏腹に震えていた。どうやら、彼女はまだ自身が見誤ったことに気づいていないようだ。「フフフ。せっかく先攻を譲ってやったのに、この体たらく。さすが考えなしの出しゃばりと言ったところか。」「なんで、どうして...」俺は彼女の目の前でそれをこれ見よがしに見せつけた。「それは破壊の大盾ッ!まさかあなた...」俺は懐に入れていた緑のサングラスをかけた。「そうか、あなただったのね。ゼクスッ!」「どうだい、俺は演技派だっただろ?」俺は彼女が悔しさで表情を滲ませる姿を見ていた。
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目の前で悪趣味な笑みを浮かべている天使”ゼクス”。彼は普段の無表情な表情に戻っていた。「よくも、よくもやってくれたなッ!ゼクス!」しかし、私にとってそんな彼の顔が、なんでもないような彼の顔がかえって私にこの最悪な現実を突きつけているようで気持ち悪くて、心の底から不快だった。そう、その顔は今まで見てきたしたり顔の中で一番不快だった。
私の心を埋め尽くしたのはそのしたり顔に対して、ゼクスに対しての憎しみだった。その憎しみが私の心を鷲掴みにした。鷲掴みにされた心を前にして私は一周回って冴えていた。私の抱いていたぐちゃぐちゃな心に渦巻いていた感情がこの憎しみに一辺倒に固定されて、私の感覚がこの憎しみの成就そのための手段として収束した。(落ち着いて私。確かに、集めた信心は、贄はすべて失ってしまった。だけど、ここは私のサンクチュアリだ。そう、この空間にあるものは私の手の中にあるものと同じ。目の前にいるのはゼクスただ一人。彼の持つ”破壊の大盾”その能力は盾で触れた攻撃を破壊するそんな力だったはずだ。私の頭の中で描かれていく筋書き。そうだよ、私はまだ負けちゃいない。ここでゼクス、お前の聖遺物を奪ってそのしたり顔を明かしてやるッ!)
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向かい合う二人の天使。初めに動きだしたのは彼女。彼女は両手を目の前で組んだ。まるで、祈るかのように。そして彼女は祝詞を唱え始めた。「感情、それは原罪。平等な時を不平等へと貶める悪魔。時、それは虚無、そこには意味なんてなかった。さあ、私はお前の破滅をもって告げる。今この瞬間、今この”時”のその意味をッ!」彼女の声に応えるかのように時間がうねり渦を成す。そのうねりは彼女の目の前に収束しそこに大きな光を、輝かしい炎を伴った光を創り出した。その光に照らされた彼女は微笑んでいた。「さあ、切り分けようこの時をッ!そして切り開け我が運命よッ!」彼女は”プロム・スパイラル”を発動。彼女の目の前に顕現したのは彼女自身の聖遺物”聖なる焔剣”だった。その剣の刃は真紅に燃え上がり、あたりを真っ赤に染め上げた。
その姿を見てため息をつくのは一人の天使”ゼクス”。彼は祝詞を唱えないで彼の持つその大盾を構えていた。
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彼女の姿が消えた。俺は目を閉じて彼女の気配を探る。彼女はこのサンクチュアリを縦横無尽に駆け巡り俺の感覚を誤魔化していった。上か?違う横...背後かッ!俺は振り向き、その攻撃をこの盾で受け止める。しかし、それは彼女ではなかった、飛んできて盾に当たったそれはさっき俺が切り落とした俺の左耳だった。それが盾に当たった瞬間に消し炭になって消滅した。俺は一瞬戸惑って反応が遅れた。下かッ!その瞬間、俺の盾を持っていた左腕が切り落とされた。俺はバランスを崩し、盾を腕ごと落としてしまう。彼女は下から上へと振り上げて左腕を切り落としたその刃をそのままの勢いで振り下ろした。俺はよけきれないで右足が切断された。「フフフ。どうやらチェックメイトのようねッ...」彼女は俺を見下しながらその剣先を俺の首筋に突き付けていた。俺は彼女を見上げていた。彼女の顔には微笑みが浮かんでいた。
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「フフフ。アッハッハ!」ゼクスが笑い出した。まるでこの状況を小馬鹿にするように...「何がおかしいッ!」「馬鹿だよね。最後の最期で爪が甘いから...」その瞬間、私の両腕が吹き飛ばされた。「えっ...」戸惑う私に飛び込んできたのは傷一つない彼の姿。彼の右手には銃が握られていた。その刹那、私の足が消え失せる。「おやおや、お前もこの状況を呑み込むことができないようだ。」その刹那、私の目の前が真っ白になった。
続く
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