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タイム・スパイラル  作者: やあやあやあ


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第28章 荒廃したビル そして 下り道

私は水族館の帰り道、いつものお気に入りの下り坂を自転車に乗り駆けていく。私はこのくだり坂が気にいっていた。この下り坂は自転車が速くなりすぎない、そんなちょうどいい勾配だった。そして、この下り坂の頂上から、私の住んでいる町”参峰町”が一望できた。私はこの光景が気にいっていた。私は少し自転車から降りてその光景を眺めていた。眺めているとどこか違和感のようなものが湧き上がってきた。(あれ?何か、いつもと景色が違うような?)私はその違和感の正体を確かめるためにその光景を注意深く眺めることにした。

参峰町:大都市近郊の町で利便性と適度な自然を併せ持った町。私は初めてこの町を見た時、ある種の感動を覚えた。(田舎の持つゆとりのある雰囲気、都会の持つ新しい風、それが絶妙なバランスで同居している。私はついに見つけたようだ!私にとっての理想郷をッ!)私はその町を一望してこの町に引っ越してきた時の、あの時の感動を呼び起こしていた。その感動に満足した私はさっきまで感じていた違和感を忘れてこの下り坂を下り始める。

頬に風が当たる。いい風だ。私の額にじんわりと現れた汗をその風が拭う。

私は自転車が好きだった。なぜなら私が自転車に乗っていると、いつも鬱陶しい風が無くなって気持ちの良い風だけになったから。

私は風が嫌いだった。「どうして?」同級生の誰かが私に訊ねる。「だって、向こうから勝手にやってきて気持ち悪いじゃん。執着されているみたいでさ。」「へぇ。そうかい。俺はそうは思わないけどさ。」その同級生は退屈気にあくびをした。

私は風が嫌いだったが、自転車に乗っているときの風は好きだった。「どうして?」かつての親友が訊ねる。「自転車に乗っているときの風は私自身が能動的に浴びているような気がしてくるような、そんな風なんだ。その風は鬱陶しくなくて、むしろ浴びているだけで気分が高揚して、そう心地よくなるみたいな感覚がするんだ。最近はこの風を浴びたいがために自転車に乗りたくなることだってあるんだ。」「へえ。そうなんだ。」かつての親友は退屈気にあくびをした。

私は今、風を浴びながらかつて誰かに話したこの風に対する私の気持ちを思い返していた。(あれ?なんか微妙に違う?いや、私のこの風に対しての気持ちは、そしてあの時の口に出した言葉は、納得できた言葉のはずだ。)私はこの風に対しての気持ちを思い返していた。この微妙な違和感に気づくために。

しばらくたって、私がこの下り坂の三分の一ほど下った頃、この気持ち悪さの正体に気づいた。(風を能動的に浴びている、つまり私は風になっていたのか。そうか、私は酔いしれていたんだ。風を能動的に浴びている感覚が、あたかも私自身を風そのものだと錯覚させていたんだ。)これは全能感だった。私が風になり、あたかも風を操っている、そうこれはそんな感覚が演出し続けた舞台だった。「そうか、だから彼らには伝わらなかったんだ。いや、本当に伝えたかったものは今までずっとこの感覚に閉じ込められて、私すら意識できなかったんだ。伝えられるはずがないや。それにもう遅いよ。過ぎてしまったことだ...」私の心に湧き上がってきた寂しさをこの言葉(武器)にした全能感で覆いつくし、この気持ちを、かつての傷口を、忘れることに努めた。だけど、一度開いてしまった傷口はもう一度閉じるまでに、より多くの時間を必要とした。それに、その全能感は、風に対しての小さな虚栄は、傷口を覆い隠すにはあまりにも小さすぎて、むしろこの傷口を目立たせてしまった。

私は私の心から目を背けるために下り坂の途中にあった公園に入り、そこのベンチに座った。そして私は空を仰ぐ。そこには雲と青空のコントラストが太陽を引き立てる、そんな様があった。私はその光景をただ呆然と眺めていた。私は公園に備え付けられた自動販売機で麦茶を買う。その麦茶は冷たかった。

ごくごくと音を立てて、私はその麦茶を飲みほした。そして、近くにあったゴミ箱にこのごみを放り込んだ。そして、自転車にまたがった。(もう今日は帰ろう。)気分が落ち込んでいた私は、家へ帰るために下り坂の途中の脇道にそれた。その脇道は家への近道だった。サイクリングを中断したり、早く帰りたいときはこの道をよく使っていた。

しかし、どうしてこんなことになってしまったのだろう。私は気づいたときには知らない道を走っていた。その道はコンクリートで舗装された二車線道路だった。異様だったのは、この道は広くて大きな道路のように見えるのに、この道路のコンクリートはボロボロずっと放置されているかの様だった。そして、この道路を利用する車も人も見えない。私はもと来た道を戻ってあの公園に戻ろうと考えた。しかし、来た道を戻ってもいつの間にかこのボロボロの道その脇に戻ってきてしまっていた。私はうなだれて周囲を見渡した。するとこの道路の脇に、一つの大きな建物があるのに気づいた。その建物は今にも崩れてしまいそうなビルだった。

続く

読んでくださってありがとうございます。

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