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タイム・スパイラル  作者: やあやあやあ


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第22章 二人目#4

CDは回転を始めた。その姿はまるで渦の様だった。

「どうして?」私は目の前にいるものを呑み込むことができない。そこにいたのは私だった。目の前にいる私は腹をこらえて笑い続けていた。「アハハ!おかしいよッ!ほんとッ!アハハッハハ!」あたりに響く笑い声。その声は紛れもなく私の声だった。だけど、その声は気持ち悪くおぞましかった。まるで、その声には私にあった何かが、致命的な何かが抜け落ちてしまっているかのようだった。私はその私?を呆然と見ていた。目の前にいるカノジョは私と同じ服を着ていた。そしてカノジョの右手には漆黒のナイフが握りしめられていた。私は絶望する。その握られたナイフに...

~~~~~~~~~

私は悪夢に苦しむようになった。その悪夢の中で私はいつも殺されていた。その夢に出てくるナイフによって!そのナイフはいつも私の目の前に現れた。初めてそれが現れたのは、写真ををポストに投函したその日の夜だった。私は起き上がる。すると、私の目の前には一本のナイフが地面に突き刺さっていた。私がそのナイフを見た瞬間、湧き上がってきたものはこのナイフを握りしめたい。いや、握りしめなければいけないという強迫観念だった。私はその異常な強迫観念が私の心を鷲掴みにしたのを”どうして?”と考えながら、私はそのナイフを握りしめて、思いっきり引き抜いた。

その瞬間、私は目が見えなくなった。「え?」私は戸惑う。そんな私の心とは裏腹に私の体は迷いなく歩き始めていた。私は自分の体を制御しようとしたがうまくいかない。もとよりこんな感覚は初めてだった。まるで誰かに操られているような感覚は...。その感覚がして初めて私は普段、自然に身体を動かしていたという当たり前のことを改めて実感した。

しばらくたって私の体の動きが止まる。私はようやく止まってくれたと感じていた。そして、止まってくれたことに対して少しの安堵を覚えていた。しかし、次の瞬間あたりに響き渡るのは断末魔だった。「そんな、どうして、やめてくれ!やめろ‼この悪魔がッ!」その声は恐怖で滲んでいた。私の顔を何かが濡らした。私はその顔にかかった何かを手で拭う。あれ?私は自分の体を自由に動かせるようになっていることに気づいた。私は目を開けた。次の瞬間、私の目に飛び込んできたのは艶やかな血だまりとそこで横たわる誰かの凄惨な姿だった。「なに、これ...」誰かの首筋には大きな傷跡、そこから流れ続ける血。その血は鮮やかで、そして同時に美しかった。美しい?そして私は私の顔面を濡らしたのがなんであるのかを悟った。次の瞬間、右手に何かの感覚がした。私はゆっくりと右手へ視線を伸ばす。そして見てしまった。私が握りしめていたあのナイフを。漆黒のダガーナイフを。

次の瞬間、私の右手が動き、私の首筋にそのナイフを突き刺した。「いッあァァァァァァ!」私を貫いた激痛。響き渡る絶叫。私の首から溢れ出る血。どうして?その血はなぜかアカ黒かった。その色はおぞましかった。おぞましい?次の瞬間、私は全身を何かが這いずりまわる感覚を覚えた。その這いずりまわる感覚は今まで感じた感覚の中で一番気持ちが悪かった。その気持ちの悪く、苦しい感覚に耐えられない私はその這いずりまわる何かへとナイフを振り下ろした。身体がズタズタになっていく。身体から私だったものがあたりに散らばる感覚がした。だけど、その這いずる何かは私の心のすぐ横を動き、回り続ける。「やめて!動かないで!私の中でッ!」そしてその何かは私の心をぐちゃぐちゃにしていく。私の心に穴をあけ、その周りをぐるぐると周り、削っていく。その気持ち悪さは私がナイフを突き刺すたびに大きくなっていった。だけど、私の意識を保つためには、この気持ち悪さを殺すためには、この痛みに、そしてその痛みが導いてくれた憎しみに縋りついてこの意識を保つしかなかった。私の体が崩れていく。だけど、私の感覚はもう気持ち悪さに支配され、そんな痛みはもう気にならなかった。そして私は全身をめった刺しにした。そして気持ち悪さはある一点に収束した。「ついに見つけたぞッ!悪魔めッ!」私は追い詰めたその気持ち悪さに向けて持っていたナイフを振り下ろした。その刹那、何かが崩れていく、そんな音がした。

~~~~~~~~~~

どうして忘れていたんだろう、私は右手を見た。右手は懐に入れていたはずのナイフを握りしめていた。その錆びついて古ぼけていたはずのナイフは、真新しくかつての漆黒を取り戻していた。「あはは!オカシイヨっ!ホントっ!あははっはは!」私はそのナイフを見て堪え切れずに笑ってしまう。そして、私の足は前へ一歩を踏み出した。

~~~~~~~~~~

俺は驚いて大きく尻もちをついた。その立ち上がった死体はその腐っているその顔、そこにかろうじて原型をとどめているその唇をぐにゃりとうねらせた。まるで笑っているかのように。そしてその死体は俺に向かって歩き出した。赤黒い液体を垂れ流し、足を引きずりながら。そして右手には漆黒のダガーナイフが握りしめられていた。その死体はそれを力強く握りしめていた。その手に意思という名の力を宿らせて。俺は気持ち悪いと感じていた。この死体の右腕がまだ生きているように感じてしまったから。

~~~~~~~~~~

彼は後ずさり、近くに止めてあった自転車に乗り込んだ。そしてその死体から、その死体から感じるおぞましい予感から逃げるために彼は走り出した。「どうしてッ!」走っている彼の口から漏れ出たのは大きな戸惑い。どうしてだろうか?彼が全力で自転車を漕いでも死体との距離は縮まらない。それどころか、死体はどんどん近づいてくる。「嫌だ!死にたくない!死にたくなんてないッ!死んでたまるかッ!俺は生きなければ、生きなければならない!俺は約束を果たさなければならないんだッ!」その時、彼の持っていたCDが回転を始めた。その姿はまるで渦のようだった。そして円盤上の文字”命”に光のようなものが宿った。その光は純白の光その反対、まさに正真正銘の光、目を背けてしまいたくなる白銀の光だった。その光がここに満ちていた寂しさを焦がしていく。彼はその光を見てこう思っていたのかもしれない。

(このCDはどうして光りだしたのだろう?もしかしたらこれがあの問いに対する答えなのだろうか?なるほど、このCD は寂しさを殺し、命を運んできたのだ。そう、オレたちはひとりじゃあ何もできない。そう、一人じゃあ死んでしまう。そうだ、寂しさは死の始まりだ。まさに、あの死体のように...

彼女はそれからしばらくこの悪夢に苦しみ続けていた。その苦しみは幻覚を、幻触を、伴って現実にも侵食した。

「ねえ。どうしてそれを持っているの?」「もう疲れたんだ。あなたの救いでいることが。もうどうしようもなくつらいんだ、苦しいんだ。だから、もう俺がお前の救いであるうちに...終わりにしよう。」「やめて、死なないで!私はあなたにずっと救われていた。」その言葉に彼の瞳は大きく歪んだ。「違う。そんなんじゃない、そんなんじゃないッ!」「え?」彼女の顔が曇る。「俺は気づいてしまったんだ。俺はあなたの救いじゃなくてもう荒唐無稽な夢へと成り果ててしまったんだ。俺は、いや僕はあの水族館の中であなたの救いを知って愕然としたよ。あなたは僕の夢想を理想にして、そしてそれを救いにしていたんだ。そうだ、その瞬間、俺は一人になってしまったんだよ!あなたの救いでいるために、そうあなただけの俺でいるためにッ!だけど、そんなの無理だった。俺は耐えられないかった。今まで耐えられたのはこの選択を後から後悔するような卑怯者になりたくなかったからだッ!そうだ!僕は俺が嫌いだッ!大っ嫌いだッ!俺を見た僕がいつも言うんだ。卑怯者だって、幻想を追い求めて向き合おうとしない卑怯者だってッ!俺はそのたびに黙らせてきた。「黙れ!黙れ!ダマレッ!私は卑怯者なんかじゃない!卑怯者なんかじゃない!」だけど、もうだめみたいだ。気づいたときにはもうかつての僕は失われてしまった。空虚な私がそこに残されていた。そう、もう僕は死んでいた。そして、もう俺の化けの皮も剥がれてしまって今ここにいる。」「やめて...あなたは私と違うの、違ってていいの!」「違うよ。そうじゃないんだ。俺は選択したんだ。あなたにとっての救いであり続けることを。そう、だからこれはあなたのせいなんかじゃないんだ。かつてここにあった僕はあなたを憎み、恨んだかもしれない。だけど、彼の姿はもう見る影もない。そして俺の存在意義も今、失われてしまった。そう、これは俺の選択が導いた自業自得の運命だったんだよッ!」「そんな選択しないでッ!どうか考え直してッ!」彼はそんな私を見てほほ笑んだ。「ありがとう。そしてゴメン...」彼は持っていた包丁を自分の首筋に突き立てた。そこから噴き出した血が私の顔にかかる。私の心に湧き上がる既視感。これはあの夢と同じ。私は右手を見る。そこには漆黒のダガーナイフが握りしめられていた。そのナイフを見て、私の心に湧き上がる彼との今までの思い出。彼は、私の救いだった彼は、本当の姿を今ここで死ぬことによって、見せようとしている。そんな彼を見て私は私を許せなかった。私はどんな形でもよかったんだ。彼は私の救いであると同時に、私の生きるための希望でもあったから。そう、彼が望むなら私は死んでもよかったんだッ!私は彼の首筋に突き刺さった包丁を引き抜き、そして彼の傷口を絞める。しかし、血は止まらない。辺りを埋め尽くす艶やかな血、そうかあの夢にいた誰かは...彼の顔を見た私の顔は後悔に歪んでいた。)

~~~~~~~~~

CDから溢れ出た白銀の光はあたりに満ちる寂しさを焦がしながら、その死体へと向かう。その光はまるで七本の槍の様だった。その槍が彼女の右腕を貫いて吹き飛ばした。その瞬間その死体はバランスを崩し、その場に倒れた。俺は立ち止まり、その死体を見る。その死体は倒れたままで動かない。そして次の瞬間、その死体は体中から白い血液?のようなものを吐き出し、跡形もなく崩れ去った。俺は安堵する。しかし、次の瞬間その安堵は崩れ去った。俺の背後に回り込んでいたそれは俺の左耳を切り落とした。俺は激痛に顔をゆがめ、そのCDをその場に落としてしまった。俺はそれを見た。それはその死体の右腕だった。それにはさっきの槍が4本突き刺さっていた。だがその、腕は、血まみれの腕はいまだ俊敏に動き、俺へと切りかかる。俺は自転車を走らせた。全力で自転車を駆り、この腕から逃れるために。しかし、その腕は速く、自転車に並走し俺の心を追い立てた。この腕の動きはまさに獰猛、本能に委ねた執拗な攻撃。俺はその攻撃を回避しようとする。その時、あの声がした。「オーダー”承認”Anarchy状態移行」その声はまるで人が話しているかのような声だった。その瞬間、彼の目の前が光に包まれた。

~~~~~~~~~

「二人目か...」懸餅蒼汰は頭を抱える。「だめですね。ご遺体がこんな見るも無残な姿で発見されてしまえばもう外傷等調べようがありませんね。」久留智海が話す。「ああ、全くだ。手がかりは...」「この失踪現場に残された黒い錠剤、そしてここに残された一枚のCD。」「そのCDは一件目ではなかったな。」そのCDは真っ白だった。そして言いようのない寂しさを纏っていた。

そのCDは円盤上部にマジックで”<運 >”と書かれていた。

二人目 完

読んでくださってありがとうございます。

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