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タイム・スパイラル  作者: やあやあやあ


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第26章 病院 そして 雪原

目の前に現れた男。彼はこちらを見て笑いかける。まるで安心させるかのように。(安心なんてできるか!)僕は今すぐここから逃げ出してしまいたかった。だけど、ここには逃げ場なんてなかった。影が周囲を取り囲み、僕の進むべき道を隠した。その影はその襲い来る男からあふれ出たものだった。その影から漂うのは底知れない闇、そこではどんな希望も絶望へ堕ちる。そう、たとえどんな希望だったとしても。だけど、トビウオと名乗る男。彼はこの深い闇の中でも輝いていた。彼はこの闇の中で輝くろうそく、またはこの闇を切り裂くナイフのようだった。僕は彼から漂う希望の香りに祈りを込めた。その祈りは彼との出会いその祝福か、今この時を生きていることの叫びか、運命という名の道を創り出す通過儀礼か。この時の僕はわからなかった。だけど、わからなかったからこそ、その祈りは本物だった。

~~~~~~~

私はバスに乗っていた。そして呆然と窓から景色を眺めていた。その景色は一面に広がる真っ白な世界。バスは一直線の道路を一定の速度で進んでいく。私はこのバスが好きだった。なぜなら、私はバスの窓から見たこの景色が好きだったから。そう、このバスはこの景色のためにあった。景色、それは絵のように普遍のものじゃない。景色、それには表情がある。その表情は刹那的な切り替わりを見せる、その表情の積み重ねが景色を創り出していた。だから私は写真が嫌いだった。カメラだったり、写真を作る行為自体じゃなくて写真そのものが。写真、それは景色の構成要素(表情)のただ一つを切り取るだけにすぎなかった。私は今までたくさんの写真を撮ってきた。だけど、それを見返すと私が求めていた景色はそこにはなかった。むしろ、それは好きだった景色を貶めるものだった。動かない静止画、その中に閉じ込められた景色の断片、その断片は無理やり引きちぎられていた、好きだった景色を。そしてその写真は私に告げる。「お前が探していたのはこれだろ?」「違う。どうして。こんなはずじゃなかったのに。」私の狼狽を写真が見下した。「お前は何を撮っていたんだろうな?景色、それとも記憶?」「景色、そう景色だったはず...」「違うよ...お前が写真で切り取っていたのはお前自身の記憶だ。お前のその時感じた感情を尊く感じたお前がその時の感情を忘れないようにした行為だ。」「だけど...」「そう、お前は忘れてしまったようだな。この写真を撮ったことを、この写真にどんな祈りを込めていたのかをも忘れてしまっているようだ。」私の顔色が青ざめていく。「そうだ。お前はただいたずらに傷をつけただけなんだ。お前の好きだった景色、その記憶または思い出に。そう、この写真はお前に突き付けた罪だ。」「黙れ!」私はその写真に手をかける。そして気づいたときにはその写真を引き千切っていた。その写真は一人の男がダガーナイフを持っている写真だった。私は彼の首をその手で引き千切っていた。そしてその引き千切られた写真が漂う様をただ眺めていた。私は考える。この男は誰なのだろう?もう私は思い出すことができなかった。私の瞳からなぜか零れ落ちる雫。その雫が写真の中の男の頬を濡らす。その男の顔は笑っていたが、その表情はうまく読み取ることができなかった。その瞬間私は自覚した。「ああ、そうか。私は写真が嫌いだったんだ。」

~~~~~~~~

壁が凹み、天井に穴が開き、床は黒い液体で染められて、目の前に近づいてくる攻撃、形容しがたい線、それは四方八方からこの僕を狙い追い立てる。しかし、トビウオはその攻撃すべてに対応し、拳を振り上げて、脚で蹴り上げて、そのすべてを退けた。それどころか”トビウオ”は空中に舞い上がり、その男に向かってキックを繰り出した。その男の気持ちの悪い微笑みがそのキックを見た瞬間に崩れた。その男は攻撃を中断し、男を中心にその線をまとわりつかせる。彼のキックと線の防御が均衡した。辺りを粉塵が隠す。思わず、目を覆った僕。「大丈夫か?」トビウオが話しかける。目を開けると、僕の目の前に心配そうにのぞき込んでいるトビウオ、大きく吹っ飛ばされている男の姿があった。彼は憎々しげにトビウオ、いや僕の顔を睨んでいた。彼の瞳は僕の首を指し示すビジョンを伴っていた。そう、その男によって殺されてしまうようなビジョンが。そのビジョンが僕の意識をその男にくぎ付けにした。「走れ!」トビウオの声でそのくぎが引き抜かれる。大きく吹っ飛ばされ地面に倒れこちらに顔を向けている男、そこから僕たちから見て手前、そこにはかつての分岐路があった。「走れ!この先に行けば出口があるはずだ!」僕はトビウオの勢いに押され走り出す。僕がその道(もともとの目覚めた病室があった方の道)に進み始めて少し、背後で轟く轟音、後ろを振り向くと、背後が天井から崩れ始めていた。僕は死にもの狂いで走り出した。

~~~~~~~~

「さよなら。かつての親友。」俺は彼を送り出して、そう呟いていた。「お前は本当に馬鹿だ。何のためにここに来たと思っているんだッ!」「俺はお前と違う、そう、俺は諦めが悪いんだ。お前は運命を見ているから、縛られているんだ。今をないがしろにして...」「黙れ!過去に縛られた運命の奴隷がッ!」

~~~~~~~~

私はこのバスの向かう先を知らなかった。いや、知りたくなかった。それはこの景色を切り取ってしまう行為のような気がしてしまったから。

私は私の向かう先を知らなかった。いや、知りたくなかった。それはこの命を切り取ってしまう行為のような気がしてしまったから。

私は彼に告げてしまった。残酷な希望を指し示して。本当の意味で傍観者なのは私だったのに。

私の手元に残されたものは写真。

私の心に残されたものは後悔という焼き付いた記憶。

私は気づいてしまった。私は写真だった。ああ、そうか。私は私が嫌いだったんだ。

読んでくださってありがとうございます。

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