第五章 港
僕が目覚めるとそこはどこかの病室であった。窓から差し込む光が今が朝なんだということを教えてくれる。幸い気を失う前に僕は自身の装備を服のポケットに入る程度の大きさまで縮小していたため装備が無くなっているなんてことはなかった。僕はベットから起きてあたりを見渡すと反対側のベットで寝ている男に気づいた。僕はその男の着ている服に見覚えがあった。彼は全身を包帯でぐるぐる巻きにされていたため顔をうかがい知ることはできなかった。僕は彼の脇に置かれていたものを見た。そこには僕の財布があった。すなわちこの男の正体はあの盗人だろうと思った。僕は誰も来ていないことを確認してベットから出て、僕にされていた点滴を取ってそいつのベットに近づいた。そいつの横には泥と埃と焼け焦げた跡にまみれた僕の財布があった。しかし、財布についていた僕たちのアミュレットはなくなっていた。仲間と連絡を取るためにもすぐにもアミュレットを探さなければヤバイ。そう思った僕は自身の財布を取り戻した後、病室を飛び出した。病室を出るとき外の部屋番号の下にその男の名字が書いてあった。港。僕は彼の名前を心の隅に記憶しておくことにした。そして僕はこの病院を後にしたのだった。外に出ると海が広がっていた。そして私が気を失っていたところとそこまで離れていない病院だったことが分かった。私は記憶を頼りに気を失った場所に向かった。気を失っていた場所についた私の瞳には張り巡らされた立ち入り禁止のテープ、焦燥感に苛まれているのが傍から見ても明らかな多くの警察官、崩れた高層ビルがあった。その光景はまさに地獄。けたたましくなり続けるサイレン。泣き叫ぶ誰か。僕は途方に暮れた。この人々が混乱し瓦礫の散乱している現場から私の落ちているであろうアミュレットを探し出すのはもはや不可能だと感じたからだ。僕は近くにあった公園のベンチに座り空を仰いだ。そしてそこで長いこと途方に暮れていたのだった。しばらくたって時間は午後6時になった。夕闇がにじり寄ってくる時間だ。僕はベンチに座って上を見上げていると、僕を歩道橋の上から見下ろす少女がいることに気づいた。彼女は物憂げな表情で僕を憐れむように見下ろしている。彼女の瞳には光のない漆黒が広がっており、僕はその瞳に引き込まれる感覚に陥った。「…来て」彼女の口がそう動いたように見えた。私は導かれるままに彼女を追いかけた。彼女は私が追いつこうと走れば走るほどスピードを上げて追いつくことはできなかった。しかし、私がスピードを落とすと彼女のスピードも同じように落とした。まるで彼女は一定の距離を保ちたいように見えた。僕は言いようのない既視感のようなものを感じた。しばらくたって、僕たちは崩れたビルの反対側のに来ていた。彼女は手に何かを持っていた。それは僕のアミュレットだった。僕は彼女に尋ねた。「ねぇ。どうして僕を見ていたの。あの歩道橋の上から。」彼女は言った。「私はあなたを待っていたんだよ。港。今までどこにいたの。私はあなたを今までずっとさがしていたのよ。」港?何を言っているんだ?僕は希代だ。あの盗人じゃない。「何を言っているんだ。僕は希代だ。誰かと勘違いしているんじゃないか?」「あなたのために私がやってきたことを忘れたの?誰かと勘違いしているはあなたの方よ。私はあなたのたった一人の同胞でしょ。」同胞。その言葉が心に引っかかる。そう、のどに刺さった魚の小骨のように。次第に頭が痛くなって気持ち悪くなってくる。彼女の言葉がどんどん大きくなっていく。それに伴って左耳から誰かのささやく声が入ってくる感覚がした。「僕は希代。そう僕は希代。今生希代だ。港なんかじゃない。あんたのことだって知らない。あんたあの盗人の仲間なんだろ。そのアミュレットは僕のだ。返せぇ!」叫びながら僕は僕の体が引き裂かれるような感覚に陥っていた。怖くて逃げだしたい。逃げる?僕はもう逃げる選択はしないと心に決めたはずだ。「このアミュレットは私たちが協力して手に入れる任務だったじゃない。あなたほんとにどうしたの。」「これ以上そんなふざけたことを言うなら撃つぞ。」僕は懐に隠し持っていたリロード済みの銃 を取り出した。逃げるわけにはいかなかったから。しかし、なぜか手が震える。今まで何度も撃ってきたはずなのに。「ねぇ。何その武器?あんた本気?」「黙れぇ!俺は希代だ。」僕はそれを何度も撃ちこんだ。彼女の体は後ろに吹き飛び見るも無残な姿で横たわった。彼女の手にはアミュレットが強く握りしめられていた。僕はその光景をただ、呆然と眺めていた。どこからかThe BeatlesのYesterday が流れていた。
第五章~完~
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