第(3・10)章 渦巻く陰謀
私は赤の扉を開いた。目の前にあるのは円卓。
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「遅いぞ。イブ。」そう告げたのは黄色の扉を背後にして円卓の長椅子に腰掛ける一人の男”ウノ”。またの名を諦めの天使。
「なによ。偉そうに!あなたが急に呼び出すから仕方がないでしょうが!」そう告げたのは赤色の扉から今まさに出てきた一人の女”イブ”。またの名を慈悲の天使。
「まあ、落ち着いてください。ここで争っても無駄なだけですよ。」そう告げたのは青色の扉を背に円卓の長椅子に腰掛ける一人の男”アトロ”。またの名を失望の天使。
そんな彼の後ろでうなずくばかりの一人の男”ゼクス”。またの名を平静の天使。彼は緑のサングラスをしている。
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ウノが話し始める。「集まってもらったのはほかでもない。かつての契約、その改訂の時がすぐそこまで来ている。」その言葉を聞いてイブの顔に意外な色が浮かぶ。「契約の時、約束された運命ね。てっきり私はこのまま争い続けると思っていたけれど?」「やれやれ。」アトロはイブの言葉に呆れた声を出す。「お前は契約の時をなんだと思っているんだい?このままじゃあ共倒れだろ?それとも何か策があるとでも?」イブは懐から何かを取り出した。「それは”無垢の象徴”。天使”ドゥクス”の遺物。なるほどな、確かにそれがあれば”お前は”生き残れるかもな。」アトロはイブを見下しながら告げる。「だが、それは愚かな行為だよ。せっかく集めた信心と贄をすべて無駄にするのだから。」「そんなの、また集めればいいでしょ?」「よく言うよ。ここにきてまだ完全に信心を集められていないくせに。フフフ。お前の今の姿をかつてのお前に見せてやりたいよ。」イブとアトロがバチバチと睨みあう。
「黙れ!」ウノはこの喧騒を黙らせた。「ここで争っていてもしょうがないだろう。我らはかつての主より与えられた役目を果たさなければならない。この身が許されるまで。」彼は円卓の上に彼の持つ聖遺物を並べる。”剣杯、アスピドケロンの芳香”。彼らは驚いたようにウノを見る。「本気か?ウノ。」「ああ、むしろこれしか方法がない。この運命をやり直し、この世界を救済するためには!」彼らはその言葉を聞いて俯くように考えこんでいた。「儀式のやり直し、世界の円環の肩代りね。私たちの記憶を神の代わりとして使い捨てるつもりなんだ。」「ああ、そうだ。」「いくら何でも捨て身じゃないか?もし、違えばすべてを失うことになるぞ。」「だが、このままでは我々は繰り返しのこの螺旋から逃れることも、贖罪の螺旋による救済も、我が主の悲願たる宿願も叶わないままだ。」「わかった。ウノ。納得はした。だが、一つ聞いていいか?どうして今になってこんな真似を?もっと前からやろうと思えばできたはずだ。」ゼクスはそのアトロの問いかけにうなずき、同調して見せた。
「理由は二つある。一つは封印されし地獄の門が開いた。」その言葉を聞いてアトロ、イブ、ゼクス、三人の顔が青ざめる。「なんだって!」「どうして、あれは神が創りし畏怖の象徴。何人たりとも開かすことなんて...」「わからない。ただ、確かなことはそこに保管されていたスペアが誰かによって奪われたということだけだ。」彼らの顔色が青ざめる。特にアトロの顔色は酷かった。「もうだめじゃないか?偽物が出てきたら我々の存在が、意味が...」「幸い、あれは不完全な代物。あれ一つでは何もできないだろう。だが、もう一つの理由だ。タイムマシンの存在証明がなされた。」「タイムマシン?あれはできないはずじゃ?」「臆病者...?」ゼクスが急に口を開く。「そうだ。いやむしろそれしか考えられない。」「もしその彼が動きだしたなら、彼の手にスペアが渡ったなら...」「お終いだ...」重い空気があたりに満ちる。
円卓の上で聖遺物が揃う。「剣杯、聖なる焔剣、無垢の象徴、アスピドケロンの芳香、緑の本、聖杯。」「おい、どういうことだ。一つ足りないじゃないか!」「天使”セプター”の遺物、”スルト”またの名は”エーリューズニルのナイフ”。あの最も忌まわしく、最も穢れなき記憶。あれにはスペアなんてない。いや、スペアなんて創れるはずがない。あれこそ、神秘と畏怖の象徴。かつての希望の残滓。そのものなのだから。」「最後に持っていたのは...」アトロが呟く。「天使”ドゥクス”だ!」全員の視線がイブへと集まる。「おい、イブお前確認したか?彼女の消失を?」イブは思い出す、彼女の聖遺物を手に入れた時のことを...
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彼女から聖遺物”無垢の象徴”を奪うイブ。その瞬間、彼女の肉体が光へと還えり始めた。「いい気味ね。この末路はあなたの自業自得でしょ。なのに、そんな顔できるんだ。フフッフフ。馬鹿じゃないの!アハハッハ!」彼女は後ずさる。その様はイブの目には惨めったらしく見えた。「フフフ。無駄なことを!」イブは彼女へゆっくりと近づく。彼女の顔は苦痛に悔しさにゆがんでいた。イブはその顔を味わうかのように近づく。しかし、少したって彼女は後ずさるのをやめた。「え~。もう終わり?つまらな...」その瞬間、イブは気づく。彼女が笑みを浮かべていることに。彼女の蒼白な瞳は漆黒へと染まる。イブは彼女の変わりように戸惑った。その時、彼女が仰向けに倒れた。その瞬間、そこにあったはずの地面が裂け、彼女はその地面の下へと吸い込まれていった。イブは茫然とその様を見ていた。そして、イブは確認する。確か、彼女はこの聖遺物しかもっていなかったはずだった。彼女の考えを肯定するかのように聖遺物の輝きが失われた。どうやら天使”ドゥクス”は死んだようだ。イブは笑う。そして彼女はもうさっきの奇妙な彼女の様子なんて忘れて、機嫌よく聖域へと帰っていったのだった。
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私たちは探し始めた。このナイフを持っている人間を。その人間は案外すぐに見つかった。彼の名前は土井中条。彼はどこにでもいる普通の大学生のように見える。私たちは彼を初めて見た時にそう思った。しかし、私たちは知らなかった。彼はこの世界の命運を分けてしまう特異点だったことに!
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