第25章 崖そして監獄
「どこだよ!ここ...」僕は困惑していた。僕はこの説明のつかない状況に説明を求めていた。僕は真っ白のベットに寝かされていた。そして目の前には真っ黒の鉄格子があった。その鉄格子は大きく、黒光りしていた。まるでこの空間の光がその鉄格子へと吸い込まれてしまっているかのようだった。僕はこの鉄格子で今、この状況を呑み込んだ。どうやらここは独房の中のようだ。どうして?僕は昨日、自室で横になって朝が来るのを待っていたはずだ。カーテンから光がじんわりと溢れる様をただ待ち望んで。僕は昨日の夜を思い返す。
(時刻は18時。僕は冷蔵庫を開ける。そして鶏もも肉、玉ネギ、しょうが、にんにくを取り出した。僕はこの野菜たちをみじん切りにして、鶏もも肉を一口サイズの大きさに切り分けた。「よし、材料は揃った。」僕は切りそろえられた材料の並びを見て自然と呟き、材料を使う順番に合わせて料理用バット等に移した。僕はこの様を見ているのが好きだった。しばらく僕はこの様をただ茫然と見ていた。そして僕はこの光景を名残惜しむようにフライパンにサラダ油を垂らす。そしてフライパンに鶏もも肉を入れる。皮目をなるべく下側にして。しばらくたって鶏もも肉の皮がパンの耳のような茶色の色合いへと変わったら、この肉を取り出す。そしてニンニクとショウガを炒め始めた。フライパンから立ち昇るいい香り。その香りを合図にみじん切りの玉ネギを投入した。玉ねぎが柔らかく、そして玉ネギが麦茶を纏っている様になった。僕はそこにカレー粉を投入。そしてゆっくりじっくり炒め始めた。渦を描くように。しばらくたって粘り気のようなものができ、カレーと玉ネギがフライパンの上でまとまり始める。そこにトマト缶を投入。僕はダイスタイプのトマト缶が好きだった。ホールタイプのトマト缶は僕にとって少しばかり酸味が強いように感じてしまうから。トマト缶のトマトの果実部分をつぶすように炒める。僕はこの工程が好きだった。炒める工程に対して意識的に向き合うことができるから。しばらく炒めてから僕は軽く味見する。トマトの酸味が減って、玉ネギの持つコクと合わさり、全体的に甘みを感じるようになった。僕は待ってましたとばかりに取り出していた鶏もも肉と、バターを投入。バターを全体に纏わせると、全体が赤茶色に変わる。そこに牛乳を投入。その瞬間、あたりに素晴らしい香りが広がった。僕は煮込みながら、皿にご飯をよそう。大体10分ほど経過して、僕はそれを盛り付けた。そう、バターチキンカレーの完成だ。「いただきます。」僕はそれを黙々と食べる。うん、おいしい。僕はふと時間が気になって壁に掛けてある時計を見る。時刻はもう22時を過ぎていた。湧き上がるのは疎外感。僕は最近、時間の経過が信じられないほど速いと感じていた。友達にそのことを尋ねても...「何言ってんの?実際に時間が短くなっているなんてそんなわけないじゃん?」「だよね。」「でもいいな~」机に突っ伏していたその友達は大きく椅子へともたれかかり、彼を後方から見下ろしていた僕と目を合わせた。「だって、授業とかも速く終わるように感じるんでしょ?いいなぁ。授業つまんなくていつも速く終われって思ってるもん。」「違うよ。そうじゃなくて。」「そうじゃなくて?」「授業とか終わりを告げるてくれるものじゃなくて、そう例えば料理とか、買い物とか、そんな趣味とかに時間を使っているとそんな風に感じてしまうんだ。」「へえ、それは確かに苦痛だ。」彼は僕を見て何か考えているような顔をしていた。
「ごちそうさまでした。」時刻はもう23時になろうとしていた。僕は皿洗いを始めた。水が流れる音がする。スポンジでこすりきれいにしていく。時刻は23時30分を回ろうとしていた。僕はフライパンを洗い始める。時刻は23時45分をまわり始める。僕はフライパンを洗い終えた。その時だった呼び鈴がなったのは...)
僕はこの独房内を行ったり来たりぐるぐる回り始める。この状況を受け止めきれない僕は焦りに突き動かされていた。僕は鉄格子を揺さぶる。しかし、その鉄格子はびくともしない。僕は大きな声を出す。「誰かいませんか?お~い!」だけど、その声はあたりに響くだけだった。その声は空間で反響した。僕へとその反響した声は還ってくる。その声はまるで破裂音の様だった。それは、僕の言葉だったものは死音へと成り果てていた。僕の耳から入り込んできたそれは僕の心を傷つけた。もしも僕の心に鍵穴があるのなら、その鍵穴に無理やり鋭利な何かを突き刺すような感覚で。僕は耳をふさぐ。だけど、その音は頭の中で反響し、増幅する。それは痛みを伴う気持ち悪さ。その気持ち悪さで僕は意識を手放した。
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俺は絶望する。友達の手にあのナイフが握られていたから。「どうして、そんな...」俺は顔をつねる。痛い。どうやらこれは夢じゃないみたいだ。俺はゆっくりと後ずさる。彼はゆっくりと近づいてきた。「僕はある日を境に悪夢に苦しんでいたんだ。その悪夢の中で僕は殺されていた。そう、その夢で出てくる悪魔によって!まさか、お前だったとはなッ!」彼の瞳は深淵に染まり、その眼光に憎しみを込めて俺を睨む。「待ってくれ。話し合おう。何か大きな誤解が...」「黙れ!」彼は叫ぶ。「僕は今まで何度もそう言ってきた。だけど、俺の抱いていた希望はお前の姿で砕け散ったよ!そして僕はもう理解した。この悪夢を終わらせるにはこうするしかないってことにッ!」彼は右手に持っていたナイフを力強く握りしめた。「お前はただ諦めて死ねッ!贄と成り果てて消えろ!そうだ、お前の持つ輝きはもう僕のものだッ!」彼はゆっくりと歩いていたが近づいてくるスピードはどんどん速くなっていた。俺は後ずさる。しかし、もう俺は後ずさることはできない。そこには崖があった。とても底が見えないほどに深い崖が。俺は彼を振り返る。もう彼はすぐそこまでに近づいていた。
俺の心はこの彼に突き落とされる。何度も、俺はこの落ちゆくデジャブを味わい続ける。俺の心が引っ張られる感覚がする。その崖の下、遥か彼方の地面の底から。その感覚はあまりにも不自然で気持ちの悪いものだった。俺は吸い込まれないように必死でここにしがみつく。しかし、それは叶わない。俺の目の前には悪魔が立っているのだから。
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僕はこの真っ白の世界で彼をこのナイフでめった刺しにする。何度も、執拗に。そして僕は彼の胸を開いた。そしてそこから取り出したのは心臓。「ついに見つけたぞ!悪魔め!」僕はそのナイフでそれを貫く。辺りを白い何かが染め上げた。「やっとこれで...」その時、僕の背後で動く何か。僕は反射的に振り向く。そこで彼が立ち上がっていた。心臓のない姿で...
第25章 完
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